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経験していれば、戦闘においても、予測が出来る。
相手の目線や、魔力の動かし方。その状況において、どんな手段が最適であり、 相手がどのような対応をしてくるかを思考することが重要である。
ボックス・ガーデンに幾度か出場したことのある上級生ならば、それらをある程度予測することが可能であり、というか本戦にまで来るような強い上級生は、必ず高い確度で予測を立てている。
ズドン、ズドン、と乱舞するスキルや魔術。
あちこちで砂埃が立ち上り、瓦礫が空に舞い、建物の崩壊音が聞こえてくる。
起こっているのは激しい戦いである。
砂漠エリアから急いで移動してきたエリスだが、その移動先の市街地エリアでは、現在十数人近い選手達による、大混戦が発生していた。
……観客席の方は、さぞ盛り上がっていることだろうが、選手の身としては大分やり辛い状況だ。
四方八方に攻撃が飛び交い、どうしたって予期せぬ被弾が増えそうなこの状況より、余程一対一の方がやりやすいことだろう。エリスがやり辛いと思ったように、選手であるなら、避けるべき状況だ。
そう考えた俺は、少し離れた三階建ての建物の屋上に出ると、少しの間状況把握に努める。
すると、どうやら今の戦況は、一人の選手を中心に動いているようだ。
「あの男……」
ドンパチの中心にいたのは、ついちょっと前に因縁の出来た二人組の片方、ガタイの良い魔族の男だった。
奴が動き、他を振り回し、それに対処するような形で他の選手達が動いているのが、上から見るとよくわかる。
しかもあの男は、多数に狙われている状況でありながら、一切被弾せず、余裕で戦っている。あ、一人転送された。
是非ともうちの部隊に欲しいが所詮は学生なので使えるかどうかは、また別だ。私が抜けたあとでもこの国が滅びないよう強い者はどんどんスカウトしていきたいのでこの大会で面白いと思った選手は理事長経由でスカウトしてもらうのもいいかもしれない。
魔族を囲う他の選手達は、何だか苛立っているような、キレたような、あるいは怖気付いているかのような様子で戦っており、動きが少し雑だ。
何だ、挑発でもされたのか?
……やりそうだな、あの男なら。
エリスと対面した時も、戦えるなら何でも良い、みたいな、そんな脳筋気味な様子だったし。
「ハッ、何人揃っても、雑魚は雑魚かッ!! もっとヒリついた戦いをさせろ、雑魚どもォォッ!!」
なんてことを考えていると、あの脳筋魔族の、獣が如きそんな咆哮が、ここまで届いてくる。
「どんだけ戦い大好きなんだ、あの人。私も混ざろうかしら……」
思わず自身の戦闘狂っぷりは前から気づいていたのでそのまま戦おうとしたが一旦思考を冷ます。
「あ、あれは、チンピラ君じゃないか。あんだけ会場の外ではイキってたのに中では隠れてコソコソとしてるのか」
ちなみにエリスは、試合や戦場に出るといつものホワホワした口調は無くなり鋭くなってしまう。これをアリスやシロナに聞かれたら怖がられるかもしれないが正直この口調は直る気がしない。
「じゃあ、まずあのチンピラから行こうか」
それを言うと同時にエリスの体は、天衣を使いコソコソ何かをしているチンピラの方へ向かう。
……
…
「ふぅあいつ派手にやりすぎだろ。いくら敵同士とはいえ同じクラスメイトだぞ?はぁ上位に入らなければ行けないのに」
チンピラの男は建物で隠れながら魔術を放ち魔術が飛び交う乱戦の中で確実に一人一人倒していた。
「ふぅこの調子で最後まで残れば1位とは行かなくても上位に食い込めるだろう。あと、あの女あったら容赦しねぇー。泣き叫ばせてやる。」
魔術を放ったら即座に移動することで位置バレなどを防ぎ且つ常に体を動かすことにより位置がバレても撤退できるようにするためである。
ちなみに何故この市街地から離れないかと言うと逃げると敵を倒せないためポイントを取れないのだ。確かに所々にポイントをゲットできる旗があるが探知系スキルや運 などがやいと見つけるのは現実的ではないため敵を倒す必要がある。 見た目や言動はチンピラのそれだが、以外に頭はいいのである。
そんこんなでチンピラ男は順調に敵を倒していると自身の魔力感知に引っかかる存在がいた。まだ離れているが確かにこちらに向かって来ている。
「ッチバレたか。仕方ない離れようッ!」
今は3階建ての家に隠れていたので離れようと思ったらなんとチンピラ男のいた場所に斬撃が飛んできた。
「ウッソだろ。いくらなんでも速すぎだろ!」
「やっほぉー。チンピラくん」
「なっ!?」
黒のローブに金髪の髪がはみ出た女がいつの間にか後ろにいた。即座に男は、相手を観察する。背は160くらいで
手足は細い。だが、その女の立ち振る舞いは、戦闘慣れしているようだ。
「はっよく見ればあの時のメスじゃねぇーか」
「ぷッ今頃?あと、私の事メス、メス言ってるから私は、チンピラって言っていいよね」
「怒っても仕方ない。俺は、女だからって容赦しないから痛いのが嫌なら降伏することをおすすめするぜ?まぁタダで降伏ってのはつまらないから俺の玩具になってもらうが」
「はぁ貴方は相手の力量も把握出来ないの?」
「できるからいってるんだ。さぁやろうぜ」
「はいはい。」
エリスは、早速腰から剣をだし相手へ向ける。
チンピラ男は、魔導具の銃をだす。
合図は、ない。
エリスは、一気に相手へ詰め寄る。その動きに対応するように相手は銃のトリガーをひく。魔弾を避け一刀する。
相手も後ろに引きながらトリガーをひき追撃を仕掛けるがエリスは、懐からだした短剣を相手に投げ飛ばす。
「ッ!」
「おぉそれも避ける!でも、まだまだだね。チンピラ君には剣はいらないかな〜」
「舐めやがってぇ!」
「はい、お疲れ様」
短剣を出し怒りに身を任せ攻撃してきた相手をいなすかのようにエリスは、相手が突いてきたと同時に、少し入って、手刀で相手の腕を制し相手から離れないように、ほんの少しだけ相手の突きの軌道を外して、入るようにした。
そのまま自分の手刀を滑らせて、上から小手をとり相手と同じ方向を向き、足を引いた。もう一歩引きもう一方の手を上からかぶせて、相手に近い方の足を一歩進めながら、小手を返して相手を下に投げます。
「グハッ」
見惚れるような綺麗な動作をエリスは、見せた。
そのままチンピラ男をダウンさせた。
……
…
ちょうどモニターに映されていたエリスの動きをみて、そ会場は盛り上がった。
「うそっ!エリスちゃん凄い!」
「ほんとね!エリスは、すごいは!」
「あぁ確かにエリスさんは凄いね」
「ままかっこいい!」
アリスとシロナとアルレンやマータは興奮していた。
前まで戦闘が苦手そうに見えたエリスがなんと上位に入っていた生徒を軽くいなし倒してしまったからだ。
「まさかエリスは、今まで本気を出してなかったのかしら?あの動きは思わず見惚れてしまったは」
「本当だね!エリスちゃんすごいなぁ〜」
シロナは、エリスの本来の力を見せてもらった口元を綻ばせた。アリスはいつもと変わらない反応を見せた。
「まま、頑張って」
シロナとアリスの間に座っているマータは一生懸命エリスを応援していた。無表情だが、尻尾はブンブン降っているので頑張って応援しているのが周りに伝わる。
「えぇそうね。エリス頑張って」
「マータちゃんエリスちゃんを頑張って応援しようか!」
「うん。しろなおねぇちゃん、ありすおねぇちゃん」
……
…
ドン、と爆ぜるような音がしたかと思いきや、近くにあった遮蔽物が吹き飛び、その向こうに一人の男が現れる。
「来たなッ、人間のメス! 退屈していたところなんだ、貴様は楽しませてくれるかッ!?」
そこにいたのは、脳筋魔族。
エリスが剣を前に構えると、奴は心底楽しそうに、猛獣が如く獰猛な笑みを浮かべたのだった。




