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ホテルを出たエリスは、ボックス・ガーデンの会場裏、選手用に開放されている控室へと向かうマータはアリス達に任せたので大丈夫だろう。それに、殿下やその他もいるので狙うバカは居ないと信じたい。
そんなことで控え室に入ると超えがした。
「――だから、今、仕事中ですので」
「えー、いいじゃん、ちょっとだけ! ね、遊ぼうよ!」
「無理です、忙しくて、そんな暇はありませんから」
「そう言わないでさぁ、ほら、せっかくこうして出会えたんだから」
通路の先にいたのは、スタッフの腕章を付けたルナ先輩と、見知らぬ男の二人組。二人組は、恐らく魔人族だ。
魔法を得意としてると言われている。
どうやら、ルナ先輩がナンパされているようだが……彼女は見るからに面倒そうな、迷惑そうな様子であり、だが事を荒立てないようにするためか、耐えるような表情をしていた。
途中からしか見ていないためわからないが、多分相当しつこくナンパされているのではないだろうか。
二人組の内、主に喋っているのは一人で、もう一人の、とりわけガタイの良い方は黙っているものの、自身の連れを一切止めようとはしていない。
……はぁめんどくさい人に絡まれてるね
「ね、ちょっとだけだからさー!」
そう言ってナンパ男は、ルナ先輩の肩に無理やり腕を回そうとし――その途中で、エリスがガシッと掴み、払い、
ルナ先輩の前に出る。
「ナンパするなら他の人に当たればいいんじゃないですか?この人がスタッフの腕章巻いて、仕事中なの、目に入ら無いんです?なんのための目なんですか、節穴ですか?」
「あぁ……? んだ、メスガキ?」
睨むような、威圧するような声を漏らすナンパ男。
典型的なチンピラだね。わかりやす過ぎて笑えてくるね。
ちなみにもう一人のガタイの良い奴は、やはり口を開かない。観察するような目つきで、エリスを見ている。
まぁ観察したところでエリスの本来の力を見れるはずがないのだが……。
我ながら、苛立ちを覚えているのを感じながらそう言葉を返すと、ナンパ男がピクッと眉を動かし、嘲るように口を開く。
「ハッ、何だ?テメェみたいなメスに何ができるだ、あ?
何年だよ」
「2年っすけど」
「おう、じゃあ敬語使えや、後輩。こっちは四年だ。人間の猿は、言葉遣いも知らねぇのか?」
「そうすか、失礼しました、先輩。大分頭が弱いみたいなんで、まさか年上とは思いませんでした。年齢でしかマウント取れないんすか?」
そう言うと、二人組の内、ナンパ男が怒りを顔に浮かべ――次の瞬間、眼前に迫る腕!
攻撃・・してきたのは、ナンパ男ではなく、ガタイが良い方の男。エリスの頭部目掛け、まるで弾丸かの如き勢いで、鉤爪のように指を曲げた手が伸びてくる。
首を曲げ、回避。
チッ、と爪が、頬を掠る。
攻撃を受けたら、反撃する。ようとするが一応やめておく。そしてガタイの良い男は、ニィ、と。大きな口を、酷薄な、獲物を見つけたかのような笑みの形に変えた。
「ここにいて、かつその強さ。貴様、本戦に出るんだな?」
「……だったらどうしの?」
「貴様の顔は覚えた。楽しみにしているぞ、今日の戦いを。俺が行く前に、バカみたいな負け方をしてやがったら、後で殺してやる。――おい、行くぞ」
「え? け、けど――」
「黙れ、行くぞ」
そうして二人組の魔族は、片方は未練タラタラの様子だったが、去って行った。
……あのガタイの良い方、本戦出場者か。いや、ナンパ男もそうなのか?完全に目を付けられたな。まあ、本戦に出る以上は、元々戦う可能性は高いのだ。たとえ目を付けられたのだとしても……関係ないね。
「いやぁありがとねーエリスちゃん。私、惚れちゃったは。」
「はは、先輩冗談が過ぎますよ?」
「ふふ、そうね。というか、エリスちゃんも本戦に出るだったわね。頑張ってね」
「はい!先輩もお仕事頑張ってください!」
「まぁ仕事は楽だから頑張る程じゃないけどねはは。」
――そんなことを話している内に、空き時間は過ぎて行き。
ボックス・ガーデンの選手が、準備に呼ばれ始める。やがて呼ばれる、エリスの名前。
「さ、上位目指して頑張れ!エリス!」
「はい! 行ってきます!」
エリスは、フィールドへ向かって行った。




