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すでに試合開始から四十五分程が経過しており、選手間の間隔が広がっているのか、目に見えて接敵しなくなった。
選手の居場所が上空の水球モニターのマップに映されるのは、残り時間三十分になるか、人数が十人以下になったらなので、今は自力で探すしかないのだが……遠くから聞こえてくる戦闘音もまばらで、分かりずらい。今の本気の1割すら出てない状態なので当たり前かもしれない。
今は音で判断して距離と方角を測るようなスキルはないし、砂漠エリアとか山エリアとかならまだわかりやすいが、市街地エリアと森エリアだと入り組んでいるため、音が結構反響するのだ。
大体の方向くらいはわかるが、それだけなのである。
……こうして接敵しないと、むしろヒリついてくるな。
多くの物陰、死角。
索敵は続けており、周囲の確認は怠っていないものの、しかし俺より上手な相手がいないとは限らない。
悪くないドキドキだ。自身の鼓動が、やけに大きく感じられる。自然と口元が上がっている気がする。
試合前に感じたものとは違う、どこで何が出て来るかわからないという緊張感に――ピク、と反応し、そこで止まる。
トラップ地帯だ。
地面のあちこちに、魔力の痕跡が見える。誰か、ここを根城に狩ってるな。足を止めたエリスは、そこで魔力を探っていく。
薄く、広く。
索敵の範囲を広げていき……いた。
意外と近い。向こうもエリスの存在に気付いているようで、足を踏み入れたら後ろに回って急襲し掛けるつもりだったな。
――いいね、望み通りにしてやろう。
エリスは、トラップ地帯に足を踏み入れる・・・・・・・。
それに連動し、相手側も動く。
遮蔽物で、向こうからこちらが見えなくなる瞬間を見計らい、拾い上げた石を投げ――罠の一つが起動し、ドン、と爆ぜる。
瞬間、他の罠を踏まないように気を付けながら、俺はトラップ群の主の下へと駆ける。
エリスが罠に引っ掛かったと思ったようで、顔を出したソイツは、詰めるエリスをて一瞬息を呑むも、すぐに短杖と短剣を片手ずつに構える。
反応が早い。慣れてるね5年生かな?人種は……耳長種だね。珍しい種族だ。
突っ込んだ勢いで、エリスは模擬刀を振るう。短剣で受け流され、同時に相手の杖に高まる魔力。エリスは、その杖を持っている腕を蹴って照準を狂わさせ、刹那遅れて杖の先から氷の刃が飛び出す。
「やるねっ、見たことないけど何年生!?」
「やっほー2年ですよ。そちは?」
「そうだねっ、エレジア国学院4年、ルーヴァだ! よろしく」
そう挨拶を交わし、殴り合いによって友情を育む。
……なるほど、短剣が防御で、攻撃の起点は杖の方なのか。
発動が早く、小規模だがしっかりと殺傷能力のある魔術を短い間隔で放っており、魔力の流れをしっかり見ていないと、普通に食らってしまいそうだ。スキルは、何かは、分からないのが少し心配だ。
この人は強い。一発食らえば、そこから畳みかけてくるであろう実力がある。
見る。
目を見て、身体の向き、動きを見て、動きを予測する。
――設置した罠に誘導して、嵌めるつもりだな。
相手の全てを見て、思考と情報を得て、戦闘に役立てる。
戦闘の基本だが、出来ないやつの方が多いい。
ルーヴァ先輩の狙いを推測したエリスは、それを基に次の手を考え。
次の瞬間、ゴウ、という音が耳に届く。
彼の後ろ。
背後のビルっぽい高い建造物が斜めになり、そしてこちらに落ちて来る。まだ彼は気付いていない。
防御結界が不安定なった。その直後ビルが倒れる。
「へぇー大胆になってるね。」
エリスは地を蹴って跳び、瓦礫内部の壁を蹴り、三角跳びの要領で跳ね回り――やがて瓦礫全体が、地に落ちて停止する。
ようやく足場が安定し、エリスもまた内部の壁の上に乗り、そこで、引き延ばされた時間が元に戻っていく。
「フゥー……ビビった」
「おーい、君大丈夫ー?」
と、さっきまで戦っていたルーヴァが、そう外から声を掛けてくる。
エリフは窓を蹴破り、外に出る。
「ケホッ、ケムいな……、大丈夫です。そっちも大丈夫でした?」
「うん、大丈夫だけど……どうしたんだい? あれに潰されても、僕が負けてるだけだったと思うけど」
「……私ー魔力を感じ取るのが得意なんすけど、今、フィールドの防御魔法が不安定な感じがしたので。なので、ちょっと危ないかなと思いまして」
「えっ、ホント? うーん……僕の罠を避けてた感じからして、魔力が見られるっていうのはホントっぽいし……事故か何かかな?」
「今はもう、元に戻ってるみたいですけどね」
あの寸前、変な魔力を感じた。次の瞬間にはビルが崩れ、そして防御結界が切れていた。
まず間違いなく、人為的なもの・・・・・・だろう。誰かが、何かをした。
考えつくものとしては――やはり、ベルドルークども。
散々、邪魔しまくってやったしな。エリスを鬱陶しく思った奴らが、何か小細工をしたのだろうか?
ただ……こうまでハッキリと、殺やりに来るとは。
奴ら、どうするつもりだったんだ?仮に私と先輩が、この瓦礫に押し潰されて死のうものなら、競技会自体が中止になったのではないだろうか。
それとも、そこまでは行かないと高たかを括っていたのか?そんなに、私に腹が立っていたのだろうか。
と、思考を続けていると、隣にいたルーヴァが口を開く。
「ところで、どうするユウハ君? やり直す? もうなんか、その気も削がれちゃったけど」
「あー……そうっすね。この後もう一回最初から、っていうのは、やる気になりませんね」
「なら、君。その様子だったら予選は楽勝だろうし、次は本戦で戦おっか。――じゃ、僕、『クモクモ作戦』に戻るから」
「……クモクモ作戦?」
「え? うん、クモクモ作戦。足がいっぱいあって、巣を作って、獲物を待つ虫で――」
「あ、いや、クモがわからなかった訳じゃないんすけど……そ、そうっすか。それじゃあ私ーあっちの方に次の敵、探しに行くんで」
「はいはい、それじゃあ、またねー!」
……なんか、変な人だったな。
そうして決着が付かないまま、爽やかなエルフの先輩とは別れ――その後幾つか別の戦闘を行ったところで、残り時間が経過する。
予選終了。
エリスは一位抜けし、本戦への出場が決定した




