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1.大学デビュー…?

 4月始め、明正(めいせい)大学1年人文社会科学部授業終わりの廊下。


 ひらっ、パサ。


「あの、プリント落ちたよ?」


 声をかけられ樹理(ジュリ)は振り向くと可憐な女子。


「…」


 無言、無表情で見返す樹理。


(俺に声なんてほんとはかけたくないはずだ。“あたしはいいコ”だと周囲にアピールしたいに決まってる。俺は踏み台か?)

「俺に話しかけんな…」

「え」

 ゴゴゴ…

「す、すみません…」


 拾って差し出してくれていた女子の手からプリントを(かす)めとると、フードをかぶり直して(きびす)を返す。

 周りはヒソヒソ


「うわ、こぇ~」

「大丈夫?殺気に当てられなかった?」

「近寄るなオーラ半端ないね…」

「顔は綺麗なのに…」


 そう、(サクラ)樹理(ジュリ)は実はカッコいい。

 中背で小顔で痩せていて大きな目と端正な顔立ち、色白。

 髪も茶髪にしたし毛先を不揃いにすいてワックスで散らし、パリッとしたシャツに大きいフードのパーカーを胸を大きく開けてデコルテ見せの着こなし。首には柑橘匂カプセルペンダント。

 だがメンヘラであり、この世の全ての人に嫌われていると思っており、嫌われてるならいっそその前に自分から壁を作ろうとして頑張っている、傷つき易いいたいけな男子であり、なれど本当は嫌われたくなく、その為に髪型を小まめに気遣って直していたり、清潔感のあるように服を小まめに洗濯、アイロン、勿論靴だって汚れは小まめに落としていつも綺麗清潔。

 スキンケアにも気を(つか)い、肌荒れ0、うる艶唇、ムダ毛無し、体臭無し、ホワイトムスクの微香、爪磨き、自己管理の徹底化により細身…まさに完璧を体現していた。

 だが先程のように自ら周りを遠ざける為に、樹理は“怖い人”“一人の方が好きな人”だと皆に思われていた…



「桜君、肩に髪の毛ついてるよ?」


 振り返って相手を見据える樹理の目は殺気と誤解される。


(ほんとは俺なんかに触りたい訳無い、俺なんか…誰も俺に近寄るな…!)

「いらねぇよ」


 自分でパーカーをたぐって毛をとり踵を返す。


(俺なんか俺なんか…)


 だがその美貌で樹理は密かに女子達の視線を集めてゆき…


 5月になる前に秘密のファンクラブが出来ていた。


 秘密なので会員は互いに“樹理ナウ”という隠し撮り写メを共有する活動のみ。

 誰とも会話しないからそんな事つゆしらの樹理。



 自販機で肩がぶつかり、

(俺なんかに当たって嫌だよな)

 無意識に真顔で目が大きくなる為まるで睨んでいるよう。

 それを“樹理ナウ”される。



 学食で隣席にグループが来て、厳しい目つきでトレイを持って移動する姿を“樹理ナウ”。



 フードを目深にかぶりイヤホンをしてしかめ面で人をよけて歩く姿を“樹理ナウ”。



「孤高だよね~」

「潔癖症なのかな」

「いつも綺麗で(かす)かにいい匂いだし」

「誰にも媚びない所がいい」

「マジ顔好き~」

「潔癖症だから誰とも会話さえしないんだよ」



 樹理はファンクラブにより潔癖症という事にされた。勿論本人はつゆしら。

 だがその為に周囲は自然に樹理に距離をとるようになった。


 実質的超陰キャ➡孤高の潔癖症!



 それは周囲なりの理解(誤解)だが樹理の心の悲鳴とは見解の相違も(はなは)だしかった。



(俺は大学でも嫌われてしまった…やっぱり大学デビューなんて無理だった…)


 コツンとキャンパスの小石を蹴っちゃう。

 それも樹理ナウ。


「樹理君て実は可愛いの?」


 と密かな評価が一瞬で広まる!




(――――――眩しい世界に住める訳無い…こんな嫌われ者の俺なんか)



 クラスでは合コンデビューが相次ぎ、話を聞こえているが聞いてないふりの為に樹理はイヤホンを外せず、しかめ面は厳しさを増す。

 ファンクラブは勿論樹理ナウ、

「最近ますます殺気が増してる~」

「たまんない」


 FCはM系軍団だった!




(――――――セックスがそんな偉いか、妊娠させて死ね)


 ゴゴゴ…


 半径3メートル内を氷点下にするオーラ壁。

 そんな樹理は家(完全なプライベート空間)で今日も…


 鏡を見て髪型を髪1本単位でいじったり、襟ぐりのシャツの重ねの見せ方にミリ単位でこだわったり、スキンケア情報あさりや、カロリーオフメニュー研究…

「俺もいつか誰かに合コン誘われるかな…そんな訳無いか…しにたい」


(日の当たる世界の住人の女の子達は皆可愛い…

ああ、近々彼女も彼女も合コンデビューで処女を失くす…

誰の毒牙にかかるんだ!

せめて体だけ目当ての悪い男にだけは捕まらないでくれ!

だが彼女達も本当は早くエッチがしたいかもしれない…(うず)きながら(もだ)えてるかもしれない…

これだから日の当たる世界の住人は!ケダモノか…

俺はそんな世界には住めない…

初デートですぐセックスなんて、最初からそれ目当てだろ!なら最初からベッドに行けよ!

デートは長いゼンギか!

もっと信頼関係を築き上げて愛を育んでからすべきだろ!

くそ!やっぱ死ね!)



 彼女達の誰を想いながらも自慰など逆に彼女達を汚す気がして出来ず、禁欲生活を送っている樹理は見てるだけの草食系…



(俺なんか…一生童貞かもしれない…)



 大学でますます殺気オーラ(実は孤独の壁)を強く放ち完璧孤高仮面。


 パシャ


(!?写真撮られた!?)

「…」

 ゴゴゴ…

 怒殺気見下し睨み(驚無表情目見開き)。


「ひ」


 女子は逃げた。


(何故(なぜ)だ!?何故俺の写真を!?ハッまさか写真を回して悪口されているとか!?学内中が!?本人知らないだけ!?俺そんなピンチなの!?)


 ワナワナ唇が震える樹理。


(もう死ぬしかない死ぬしかない死ぬしかない――――――)


 下を向いて恐怖で瞳孔が開いたまま死ぬしかないとぶつぶつ呟きながら歩き、なんとか学食へ。



 樹理ナウに気づいてしまった樹理。


 パシャ


(!まただ、俺のことを皆監視している!?)


 手が震えて間違えて券売機を押してしまったレディスAランチ。


 ヒソヒソ

「樹理君レディスAランチよ、ダイエット中かしら」

「いや~ん意識高め~」

 パシャ


(!やはり監視!?)


 恐怖で瞳孔が開いたままどうにか食べ終える。


「樹理君今日も殺気オーラ半端なかったね~」

「いつか面と向かって睨まれたい」

 FCは皆M!


 パシャ


「!」

(…もう人生終わりだ…もう死ぬ…もう死ぬもう死ぬもう死ぬもう死ぬ)


 フードを深くかぶりヨロヨロと立ち、フラつく足取りで…校舎の屋上への階段を上がっていく。



 下を見て歩いていた樹理は屋上にいた人にすぐ気づかなかった。

 フェンスを乗り越えようとして…


「桜君!?どうしたのやめて!」

「!」


 ハッとして振り向いた瞬間強い横風の突風が吹き、樹理の体がフェンスの外に煽られた。


「キャーッやめて!」


 外側に落ちてしまった樹理はガクブルでコンクリートのせり出し部分にへばりついた。



(やっぱり死ぬの怖い!無理!それによく考えたらたかが3階から落ちても骨折するだけなんじゃ?

痛い思いするだけなんじゃ?)



「桜君早まらないで、早く…気をつけてこっちへ」


 女生徒が必死に言葉を選んで懇願してくる。クラスのユカだ。

 樹理も可愛いと思っている女生徒で、確か先日合コンデビューしたはずだ。


「くそ、やっぱりしにたい」


「!?どうして?あたしでいいなら悩み聞くから死なないで」


「…」


 真顔凄殺気睨み(童貞敗北感目見開き)。


(貴様のようなやっぱり軽々しい女に過ぎなかった女になんか相談する事なんてねえよ!

俺だってお前とヤりてえよ!)


 無言でフェンスをまたぎ無事屋上に戻る。


「てめーに用なんざねえよ」


 小声で相手の顔を見ずに捨てゼリフをし、立ち(すく)むユカを置き去りに屋上を出て階段を下り…階段口でFC達に取り囲まれた!

 さっきのユカの悲鳴で発見しすぐ一斉メールで駆けつけたのだ!


 なぜ今度はいきなり取り囲まれたのか分からず再びガクブルの樹理。


「なっ、なん…だ貴様らは」


「樹理君!あなたは私達の神!」

「死なないで!」

「でも自殺行為もカッコいい!」

「精神崩壊ですね!萌えます!」

「一生孤高でいて!」

「あたしを睨んで下さい!」


 口々に言い募るFC女子達…

 うろたえる樹理に後ろから、階段を下りてきたユカが


「桜…樹理君、あたし達は樹理君の秘密のファンクラブなの。

樹理ナウっていう写メを共有する活動をしてました、隠しててごめんなさい」


(FC!?俺の!?樹理ナウ!?じゃあ写真撮られてたのはそれ!?

…っていうかユカもFC入ってんの!?)


 突然色々判明してフラつく。


「…俺なんか、嫌われ者なはずだろ…てめえらみんなどうかしてるぜ…」


 手すりにつかまり額を押さえると。


「キャーッ」

「やっぱ神」

「樹理君んんっ」


(何これ…俺…大学デビュー?)


 いきなりハーレム、しかもユカが脈ありかもしれないという事実は樹理の今後の大学生活に希望の光となって降り注いだ!





(終)

一応連載にしましたが、次話投稿はいつになるか分かりません。m(_ _)m

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