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黒湯

 食事を終えると、そのまま寝袋で眠る。


 翌日、探索を再開。


「昨日、見て回った感じだと、八つの源泉は古代に作られたパイプラインを伝って地上に噴出しているようだな」


「仮にもしも九個目を発見してもパイプラインに余裕はあるのでしょうか?」


「それは心配無用。パイプラインには余裕がある」


「ということはまだ源泉が残されているということですね」


「そういうことだ」


 なので心配なく探索するが、第三階層で源泉ぽいものを発見する。


 真っ黒な泉を見つけたのだ。


「黒いソーダ水のような源泉ですね」


「そうだな。コーラみたいだ」


 指ですくって舐めてみるが、ほのかに甘い。


「これは黒湯だな」


「黒湯?」  


「メタケイ酸や炭酸水素塩類(重曹)などを含む海水由来の温泉だ。化石水なんて呼び方もある」


「お肌に良さそう」


「もちろん。ほら、指がつるつる」


 妻のほっぺを突きながらそのようにいちゃつくが、いちゃつくためにここまでやってきたのではない。このお湯を地上に、それも夜明けのいちじく亭に届けるのが俺の役目だった。


「さっき、パイプラインは余っていると言ったが、ただお湯を届けるだけじゃいかん」


「と言いますと?」


「お湯は簡単に届けられるが、その後が問題だ。黒湯なんてレアな源泉を手に入れてしまえば、商売敵から嫉妬される」


「陽光樹のしげみ亭、ですね」


「ああ、俺たちがいる間は手出しできないが、ずっといるわけにもいかない」


「レナスが板さんになって、わたしが仲居さんになるという手も」


「流れ板夫婦も悪くないが、あの小さな宿屋だ、俺たちを雇う余裕などなかろう」


「冗談ですよ」


「分かっている。しかし、俺たちがいなくなったときに黒湯を奪われてしまったら面白くない。ここは徹底的にやつらを教育しておかないと」


「お灸を据えるんですね」


「そういうこと」


 俺は妻のとんがり耳に耳打ちする。



 ごにょごにょ――。



 俺の作戦を聞いたフィーナはあきれかえる。


 俺がこれからやろうとしていることは、過激にして強烈だったのだ。


 しかし、小さな宿屋を虐める大資本を懲らしめるには、それくらいやるしかないということも理解してくれた。


「――怪我人がでないようにお願いします」


 と了承してくれる。


「分かっている。陽光樹のしげみ亭の関係者以外に被害は出さないさ」


「関係者にも慈悲を」


「〝なるべく〟そうする」


 そのように宣言するとフィーナは大地の精霊ノームを召喚し、黒湯をパイプラインに流してくれた。


 そのとき、とある細工をしてくれたのだが、その効果が出るのはもうちょっと先の話。

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