サンドウィッチ
オオミミズを討伐した俺たちは休息に入る。
まだダンジョンに入ったばかりであり、疲れてはいないが、早めに野営を張るのは冒険者時代の習慣だった。
疲れ切った身体でダンジョンを探索するのは愚の骨頂、、強力なモンスターと出くわせば大変なことになる。また、脳や身体が極度に疲労した状態だと、普段は見破れるような簡単な罠にも引っかかってしまうことがある。
伝説の竜を倒したあとに、なんでもない罠に掛かって死んだ冒険者も多いのだ。
後世の笑い話の種にならないように休憩は小まめに、は鉄則であった。
それに初めて訪れるダンジョンでは、早めに野営し、周囲に水や燃料がないか確認するのも大事だ。一応、水は持ち歩いているが、無限にあるわけではないので、現地調達が基本である。燃料も同じだった。
というわけでささっとテントを張ると、フィーナと一緒に水場探索。
温泉地のダンジョンゆえ、ミネラルたっぷりのお湯は無限に湧き出ていたが、水のほうはなかなか見つからない。
温泉も水であるが、硬水の中の硬水なので、直接飲むのは難しい。
「ま、最悪、《浄化》の魔法を使えばいいんだけど」
「ですね、水の精霊ウィンディーネに頼るという方法もあります」
「だな。しかし、まあ、普通の水場を探すのも一興。時間はたっぷりある」
「そうですね。昨日今日の問題ではありませんし」
「そういうこと。じっくり、最深部を目指しながら、新たな源泉を探す、というのが俺たちの基本方針だ」
そのような話しながら探索をしていると、硫黄臭くない箇所が見つかる。
妻は水の精霊の存在を感じ取ったようだ。
「やっぱり普通の泉もあるのな」
「はい」
「ここはかつての大衆浴場、湯船に浸かる大衆の喉を潤す施設もあると思っていた」
「ご慧眼です」
「さっき見つけた小部屋なんて大昔の冷凍室だ。たぶん、アイスとかも作ってたんだろうな」
「まあ」
「ほんと、古代魔法文明の民は幸せだ」
そのように結ぶと泉に到着。
俺たちが見つけたのは古代の水飲み場。
美しき巫女が瓶を肩に担いでいる彫像が建っていた。巫女の瓶からドバドバと水が落ちている。ぺろりと舐めるが、汚染された様子はない。真水の軟水だ。
「よし、これだけ真水があれば、いくらでもダンジョンに潜っていられる」
「そうですね。魔物がいるということは生態系があります。つまり、食糧も確保できる」
「そういうことだ。フィーナ、ミミズバーガーの都市伝説を知ってるか?」
「……聞きたくありません」
つん、と鼻を背けるフィーナ、想像すらしたくないようだ。
「ま、冗談だよ。さっき、道の端にキノコが群生していた。温泉地だからウノハナダケとかもあるだろう。あれはなかなかの美味だ」
「ちょっと臭みがありますが、栄養満点です」
「そいうこと。少なくとも君が餓死する心配はないから、がんがん奥に進むぞ」
「はい」
と俺とフィーナは大量の水を確保すると、テントに戻った。
そこでミアが用意してくれたサンドウィッチを食べる。
俺がツナと卵、フィーナはキノコのサンドウィッチを食べる。
地下で食べるサンドウィッチはとても美味しかった。