導入部 カリホリダエ
[墓地に道化 (字余りの乞食)が座っている]
[もう一人の道化 (ドン・ピングイノ)は、金床を叩いている]
■■字余りの乞食■■
おお、聖キアラよ!!
憐れみを!!
おい、道化。
お前は罪という罪を、命の残滓でできた砂に埋めろ!!
犯した業という名の死肉を切れ!!
その腐肉の不快な感触を味わうのだ。
それはお前自身にしか見えない、お前の罪なのだから。
No hay cadaver!!
この棺の中に死体などないぞ。
埋まっているのはお前が想像するものだ。
開けない限り、その中に広がる暗闇の中には空虚なものしかないのだ。
聖者よ!!杭を打て!!
打ち付けるがいい。
聖人とは、罪が無い者ではない。
己の罪を自覚すればこそだ。
■■ドン・ピングイノ■■
随分と勿体ぶった開幕だな。
聖者とはいえ、死んでんだから、
そう答えてくれるもんじゃないよ。
[ピングイノが大きいカタツムリを見つける]
おお!!
腹足類だ!!
■■字余りの乞食■■
慌てるな!!よく見ろ!!
それはお前の罪だ!!
お前の青い心臓だ!!
■■ドン・ピングイノ■■
主よ!!
私の心臓の中から這い出た罪が、
何故、この墓地を這い回るのか?
それでも私は、この腹足類の中に宿り、
現実を生きていかねばならないのです。
いや、しかし、まともな貝類なら全て死ぬ。
こやつも貝だ。
故にこのドン・プチグリも死ぬ。
■■字余りの乞食■■
やめろ!!
それは言うな。
面倒だから、三段諭法などで、
希望に溢れた言葉を言うんじゃない。
いいか?
言葉という言葉に蛆が沸き、
そいつら環縫家は、お前の罪を嗅ぎつけ、
魂の髄まで喰らいつくすぞ?
まず初めにやって来るのが黒蠅だ。
聖カリホリダエだ。
奴は真っ先に人間の腐敗の匂いを嗅ぎつけ、やってくるのだ。
[ピングイノが墓地に転がっている何かを拾う]
おい、その墓地に転がっている囲蛹殻に触るんじゃない!!
そいつの中身は胡椒病によって喰われて、とっくに空だ。
その中に広がっているのは
とんでもなく恐ろしい空虚なものだよ。
■■ドン・ピングイノ■■
しかし、その空虚なものというのを見てみたくなるんですよ。
聖カリホリダエ!!
だって、この世の地図には、
全てぎっしり現実的なものが書き詰められていて、
時々、それ以外のものなんて無いんじゃないか?と思う位なんです。
■■字余りの乞食■■
だからって何も
双翅目の死んだ繭の中身を覗く道理なんてないだろうよ。
人生で空虚なものが見たければ、
もっと身軽で、上手くやってるものを見ればいいさ。
よし、ならば見せてやろう。
ここにいれば遷移の果ての楽隊が聴けるぞ。
遠く昔に華やいでいた幽霊が見れるのだ。
奴らは肉体を持っているからこそ三流だが・・・
■■ドン・ピングイノ■■
腕は一流という訳ですか。
■■字余りの乞食■■
いや、腕も三流なのだ。
だが、墓地の出し物など、それでいいんだよ。
だって客はみんな今では拍手する手は腐り、
目は窪み、
まぁね、あらゆるものが過ぎた夢なんだから。
■■ドン・ピングイノ■■
ここにいれば見れると?
■■字余りの乞食■■
ああ、見れるし、聴ける。
まずは紛い物のミサから始まり、
とんでもない悪臭を放つ魔女共が現れ、
左へ左へ飛んだり跳ねたりだ。
■■ドン・ピングイノ■■
右へは?
■■字余りの乞食■■
行かぬ。
そんなステップなんて、
三十年代のスペイン人が朝まで踊り尽くしただろう。
まぁ、見るがいいさ。
骨共の饗宴。死んだ音楽だ。
その辺に座ってろ。
邪魔だ!!ヒキガエルを投げ捨てろ!!
[ピングイノが
座ろうとした場所にいたヒキガエルを投げる]
もっと実体のない空虚なものを見るがいい。
死んだナマコの内臓を評価する評論家共!!
無い闇の中に、信仰を見ろ。
遥か昔に別の場所にあった教会の鐘の音を聴け。
そして、そこに自分の魂を見るがいい。
打ち上げられたフジツボの空洞に
この世の姿を見るがいい。
そして知れ!!
港に捨てられた魚の残骸の様に、
理性の目もまた空洞で、
所詮は神の栄光を永遠に讃え続けるだけなのだ。
[教会の鐘が鳴り響く]
[聖歌隊が現れる]