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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第20章【崩壊した瓦礫の城主】

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第845話「壁を貫いて」

「『絶え間なく拍動する心臓』」

「『湧き上がる活力』」

「『一時漲る生気』」

「『矢玉弾く三重障壁』」

「『怒り狂う鬼神の腕力』」


 複数の機術師たちが一斉に詠唱を行い、レティたちに強力なバフを施していく。一人当たりのバフの合計値は、GB換算で1,000に匹敵する。効果時間は最長のものでも1分。時間を短くする代わりに、効果量に特化させている。


「おお、力が湧いてきますよ!」

「これほどのバフを受けるのは初めてですが……癖になりそうですね」


 バフを受けるレティとトーカは、いくつものエフェクトを重ね着してテンションを上げている。


「しかし、レティはともかく他はジャンプだけで十階層もぶち抜けるのか?」


 現在地は第十七階層で、目的地は第七階層だ。タイプ-ライカンスロープの兎型(モデル-ラビット)であるレティはともかく、トーカやタイプ-ゴーレムのメンバーが直上へ跳躍できるのか疑問が残る。

 しかしその時、外周を守る盾役の後ろで何か作業をしていた一団が声を上げた。


「おまちどう! できたよ、超大口径特殊大砲!」

『でかしたのじゃ!』


 それを聞いてT-1が歓喜する。運ばれてきたのは、人ひとりがスッポリと収まりそうなほど大きな筒を持った巨大な大砲である。それが七門、つまり急襲部隊の人数分だけ揃えられている。


「T-1、これは?」

『ふふん、秘密兵器なのじゃ! これを使って、レティたち急襲部隊を第七階層に向かわせるのじゃ』

「ああ、なるほどなぁ」


 胸を張って語るT-1に、得心がいく。


「レッジ? 何がなるほどなの?」


 エイミーたちはいまいち分かっていないようで、不思議そうに首を傾げている。俺は大砲に手を置いて言った。


「つまり、砲弾の代わりにレティたちを詰めて、打ち上げるってことだ」

「なるほどー、って全然ならないんだけど」


 シフォンが綺麗なノリツッコミを見せてくれる。


「うぅ、私のライフル銃……」

「俺のピストルも……」


 どうやら、この大砲は銃士たちが持っていた銃器を接収して、随伴の修理担当の職人によって急造されたものらしい。悲しそうな目で大砲を見るガンナーたちを、仲間が慰めている。


「跳躍力が足りないのなら、外部でそれを補えばいい。物体を射出するなら、大砲が一番だ」

「そうかなぁ?」


 シフォンが腕を組んで首を傾げている間にも、準備は着々と進む。バフの残り時間には限りがあるのだ。


「それでは、レッジさん。行ってきます!」

「吉報を持って帰ってきましょう」

「おう。気をつけてな」


 真上を向いた大砲の砲口に、レティたちがすっぽりと収まる。


「これ、本当に飛ぶの?」

『当然なのじゃ。妾の正確かつ緻密な計算で、動作は完璧に保証されておる』


 不安そうなエイミーの言葉にT-1は自信たっぷりに断言する。

 そうして、カウントが始まった。


「バフ付与完了! 着火準備できてます!」

『5、4、——』


 盾役のうち数名が、大砲の周囲を囲むように配置を変える。爆風が周囲に被害をもたらさないようにするための措置らしい。

 砲身の側面に取り付けられた目盛を頼りに、照準の微調整がなされる。


『3、2、——』

「『時空間波状歪曲式破壊技法』!」

「『時空間線状断裂式切断技法』!」

「『時空間点状貫穿式貫通技法』!」


 T-1によるカウントが進む。

 急襲部隊のメンバーが、それぞれに物質系スキル唯一のテクニックを使用する。彼らを取り巻く時空間が歪み、波のように揺れる。その身中に渦巻く暴力的な衝動が、解放される時を渇望している。


『1、0——発射!』


 そして、至近距離で爆発が起こった。

 轟音、業風、そして爆炎と白煙。一瞬、視界が白く染まり、無防備になる。しかし、熾烈な猛攻を続けていた黒蛇たちもまた、その衝撃に吹き飛ばされ、空白の一瞬が生まれていた。


「『大崩壊』ッ!」

「『迅雷切破』ッ!」

「『尖鋭割砕牙』ッ!」


 三者三様の攻撃が、不壊の構造壁と衝突する。

 時空が歪み、裂け、穿たれ、弾ける。構造壁そのものではない。より高次元に存在する、物質の根源的な存在そのものが、壊される。鉄壁の城塞ですら、豆腐のようでしかない。


「——ッラアアアアアアアアア!!!」


 亀裂。砂埃。粉塵。崩落。瓦礫。


「テントに入れ!」

「うわあああっ!?」


 轟音と共に落ちてくる瓦礫から逃れ、“鱗雲”の中に避難する。その間にもレティたちは次々と上層の天井と床を破壊し、登っていく。まるでウエハースを砕くような軽快さで、第一拠点を蹂躙している。

 雷のような音が急速に遠ざかる。


「——成功か?」


 崩落もおさまり、落ちてくるものが途中の階層にいた蛇だけになった頃。恐る恐るテントの中から出て様子を窺う。相変わらず暗い拠点内では、穴を見上げても何も見えない。

 全員が口を噤み、戦々恐々として変化を待っていた。

 そして、脳裏に失敗の文字が過ぎったその時——。


「うわぁっ!?」

「ぎゃああっ!? め、目がぁ!」


 階層を貫いた穴の奥で、激しい青色の閃光が広がった。それは上を見上げていた俺たちの目にも容赦なく降り注ぎ、視界を焼く。その光が暴走する大量のエネルギーによるものであることは、遅れてやって来た高音で分かった。


『急襲部隊、第七階層に到着です! とりあえず片っ端から電源設備を破壊してます!』


 直後にレティからTELが入る。彼女は激しく動き回り、既に電源区域の設備を次々とスクラップに変えているようだった。


「急襲部隊は無事到着したようだ」

『ふはははっ! だから言ったのじゃ、妾の計算は完璧だったのじゃ!』


 頭上で金属が破壊される音が重ねて響く。それを聞いて、T-1たちからも大きな歓声が湧き上がる。


「黒蛇が引いていきます!」

「前に進めますよ!」


 同時に十七階層でも変化が起こっていた。それまでしつこい程の猛攻を仕掛けていた黒蛇の群が、波が引くように下がり始めたのだ。それまで耐えに耐えてきた盾役たちも安堵の声を漏らす。

 T-1はテントから出された“金翼の玉籠”に飛び乗り、腕を広げて朗々と指示を下す。


『今を好機と見つけたり! 一気に突き進んで、T-2、T-3の度肝を抜いてやるのじゃ!』

「わっしょーーーいっ!」


 この大波を逃す手はない。停滞を余儀なくされていた運搬隊は張り切って声を揃え、神輿を担ぐ。そうして、逃げる黒蛇を追うようにして再び軽快に走り出した。



 第一拠点での機械人形射出、そして第七階層電源区域の破壊が成功した。

 同時刻、第二拠点では施設全域に亘る大規模な爆発が発生し、調査開拓員数十名が行動不能に。現場で指揮に当たっていた指揮官T-3および“金翼の玉籠”との連絡は途絶。

 現在、ドワーフたちも総動員し、早急な状況確認が進められている。

Tips

◇試製超大口径機械人形射出大砲

 〈特殊開拓指令;古術の繙読〉神格実体輸送作戦実施中、第一重要情報記録封印拠点内にて現場指揮を執っていた指揮官T-1の発案によって、急遽開発された特殊な銃器。通常の弾丸や砲弾ではなく、調査開拓用機械人形を装填、射出する。

 突発的なアイディアを元に、限られた資材と設備の中で作られたため、一度使用すると砲身が歪み再使用に耐える品質が保持できない。しかし、炸薬に爆轟花の乾燥花弁粉末を混合しており、その爆発力は非常に強い。

 “必要に迫られ、また可能と判断したから実行したのじゃ。改善点はいくつも思いつくが、反省点はなかったのじゃ。” ——指揮官T-1


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― 新着の感想 ―
[一言] 南斗ォ!人間砲弾んんんんんんッッ!!
[一言] 人間大砲…?
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