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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第10章【万夜の宴】

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第468話「溶岩地帯」

 羽を斬られ、飛行能力を失った蝙蝠たちがボトボトと落ちてくる。

 俺はアイと協力してそれを払いのけながら、洞窟の天井付近を飛び跳ねている三人を見上げた。


「ほんとにずっと飛んでるなぁ」

「〈歩行〉スキルがレベル80でも、あんなの普通はできませんよ」


 蝙蝠を踏みつけ、空中に居座るトーカたち。

 俺も〈歩行〉スキルはカンストまで上げているが、あそこまで自由に動ける自信はない。

 ましてや、楽しげに笑いながら剣を振り回しているアストラはその〈歩行〉スキルすら持っていない。

 あの曲芸じみた動きを自身の運動能力だけでやっているのだから、正直言って頭がおかしい。


「やっぱトッププレイヤーはどこか突出してるというか、頭のネジが抜けてるというか」

「レッジさんも大概ですからね」


 アイが戦旗を振り回す。

 大きな旗が、突っ込んできた蝙蝠を三匹ほど纏めて絡め取り、“鉄百足”の脇に叩き落とした。


「レイピアは使わないのか?」

「一対一の状況ならレイピアの方が楽ですけど、向こうがこれだけ沢山いると、流石に捌くのが面倒です」

「それなら、歌唱戦闘(バトルソング)で一網打尽にしたら良いのに」


 アイは〈歌唱〉スキルを攻撃に転用した、歌唱戦闘(バトルソング)という特殊なテクニックを持っている。

 それを使えば、蝙蝠や蜘蛛の群れも纏めて無力化できるだろうに、彼女は気の向かない様子で口を曲げた。


「広範囲スタンはできますけど、普通にうるさいですから。レッジさんたちにも迷惑が掛かりますよ」


 メルたちのアーツで迎撃ができているのなら、そちらの方がいい、と彼女は言う。

 頬を赤らめているあたり、それだけが理由ではないのだろうが、あんまり進んで使う気にはなれないらしい。


「この後もしばらく続くだろうし、アイたちが危なくなったら使ってくれよ」

「分かってます。使い惜しんで死ぬほど愚かじゃないですからね」


 そう言ってアイは胸を張る。

 〈大鷲の騎士団〉の副団長として、その判断力には俺も一目置いている。

 今のところは奥の手として、温めておいて貰おう。


「レッジさん、前方に分かれ道です!」


 前方からレティが声を上げる。

 顔を向けると、メルの火球によって照らされた洞窟の奥が、左右二つの道に分かれていた。


「どっちに行きますか?」

「とりあえず、座標に近い方だな。――右に行ってくれ」

「了解です!」


 レティがしもふりを繰り、進路を定める。

 深層洞窟の最下層は未踏破の階層であるため、まだ地図ができていない。

 そのため、ホムスビが示した座標に繋がる道がどちらかは分からず、選んだ道が正しいとは限らない。

 それでも立ち止まっている暇はないので、直感で決める。

 あとは俺の祈りがどれだけ通じるかだ。


「最下層は、あんまり構造が複雑じゃないのが幸いだな。上層の奥とか下層はもっと通路も細くて入り組んでるんだろ?」

「そうですね。下層、中層はまさしく天然の迷宮です。マッパーが泣いてましたよ」


 アストラや騎士団精鋭と共に攻略をしていたアイが、困り眉で口元を緩める。

 踏破率が低く、地図が作られていないフィールドを探索する際には、マッパーと呼ばれる職のプレイヤーが活躍する。

 しかし、騎士団が擁する本職でさえも苦難するほど、深層洞窟は複雑な構造をしているらしい。

 最下層は巨大な穴が一本伸びており、緩やかなカーブを描く以外に曲がり角もあまりない。

 マッパーにとっては優しいフィールドだろう。


「とはいえ、こちらはこちらで群れが際限なく集まってしまうので、大変ですけどねっ」


 アイが戦旗を振るって蝙蝠をはたき落とす。

 彼女の言うとおり、広いということは遮蔽物が少なく、向こうからも俺たちがよく見えると言うことだ。

 洞窟を進めば進むほど、蝙蝠も蜘蛛も続々と現れ、岩石を纏ったワームや小型車ほどもあるネズミなども混じり始める。

 テントの恩恵を受けてでアーツを撃ちまくっているメルやラクトたちのおかげで、そのほとんどが一方的に撃退できているが、普通に攻略しようと思うとかなり辛いだろう。

 ここに棲む原生生物は、群れの数としての力だけでなく、純粋に個々の力もかなり強いのだ。


「レッジさん、今度は上り坂と下り坂です!」

「下りだ。下へ下へ行くぞ」

「分かりましたー!」


 “鉄百足”が傾き、坂道を下っていく。

 ごつごつとした岩の足場を、細い脚が巧みに捉え、滑らかに駆ける。

 この不整地でも安定して動けるように、ネヴァと共に試行錯誤を続けた自慢の機構だ。


「レッジさん」

「どうした?」


 いよいよ以て敵の密度が増していく。

 俺は〈風牙流〉の技も使いながら、“鉄百足”に群がってくる原生生物を薙ぎ倒してく。

 そうしていると、背後のアイから声が掛けられた。

 彼女は怪訝な顔をして、周囲を見渡している。


「少し暑くないですか?」

「そうか? 動き回ったからかもな」

「この程度で暑くなることはないですよ」


 俺の言葉に、彼女はきっぱりと否定する。

 普段から最前線で指揮を執っている彼女にとって、この程度は激しい運動にカウントされないらしい。


「それなら、メルが火炎放射してるからか?」

「見た目には熱いですけど、機術の火は熱を伝えませんから」

「それもそうか……」


 ラクトの出した氷を触っても冷たく感じないように、機術で生成された物質は少し特殊で、本物の氷や炎とは若干性質が異なっている。

 そう考えてみると、確かに気温が上昇しているような気がした。


「もしかして、地熱か?」

「かも知れません」


 〈鋼蟹の砂浜〉から考えても、俺たちは随分と地中深くまでやってきた。

 地熱によって気温が上がっていても、不思議ではない。


「コンテナにクーラーアンプルも積んでる。エプロンにも伝えておこう」

「お願いします」


 気温が上がれば、“熱暑”や“酷暑”といった状態異常が発生する。

 徐々にLPが削れていくもので、当然対処できるならした方が良い。

 幸い、こんなこともあろうかとアンプルは用意していたし、支援機術師のエプロンなら冷却系の支援アーツも施してくれるだろう。

 メルたちの支援をしていたエプロンに、そのことを伝えていると、再びレティから声が上がった。


「レッジさん、レッジさん、ちょっとヤバイですよ!」

「今度は何が来た?」


 コンテナの上を渡り、百足の前部へと向かう。

 その時、上から悲鳴が聞こえてきた。


「うわわわっ! レッジさん、避けて下さい!」

「うん? どわっ!?」


 見上げた直後、トーカが落ちてくる。

 避ける間もなく彼女の下敷きとなって、コンテナに倒れる。


「とと、びっくりしたにゃあ」

「突然環境が変わりましたね」


 直後、アストラとケット・Cが軽やかに戻ってくる。

 俺は目を回しているトーカを脇に退けて、周囲を見渡す。


「蝙蝠がいなくなった?」

「蜘蛛もだにゃあ。気温が一気に上昇して、突然動きを止めた感じだにゃ」


 あれだけいた原生生物の軍勢が、全て消え失せていた。

 そのせいでトーカたちも足場が無くなり、帰還を余儀なくされたらしい。


「レッジさん、見て下さい!」


 レティの声。

 彼女はしもふりに跨がり、真っ直ぐ前方を指さしている。

 その指の先には、オレンジ色に輝く光景が広がっていた。


「溶岩湖?」

「どおりで暑いわけです」


 太く長い洞窟の下り坂を駆け下りる“鉄百足”の向かう先には、広大な溶岩湖が広がっていた。

 ぶくぶくとマグマが泡をたて、どろりとした溶岩がゆっくりと流れている。

 頼りない、細い道がぐねぐねと曲がりくねりながら続いているほかには、地面らしいものもない。

 当然、落ちたらただでは済まないだろう。


「レッジさん、このまま進みますよ?」

「ああ、そうしてくれ。ホムスビから貰った座標には、着実に近づいてる」


 念を押して確認するレティに、俺も頷く。

 俺たちは深層洞窟最下層の奥に広がる、溶岩湖地帯へと突入した。


Tips

◇熱暑

 高い気温による状態異常。八尺瓊勾玉に負荷が掛かり、LPが徐々に減少していく。クーラーアンプルや一部の料理系アイテム、また〈支援アーツ〉の術式によって対処が可能。


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― 新着の感想 ―
[一言] 戦旗絶唱アイフォギアをひさびさにみれると思ったらそうでもなかった件(しょんぼり) しかしトーカもケットシーも大概オカしいですなぁ団長?ハハハ団長は団長って機種なんですよタイプヒューマノイド?…
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