第291話「ランキング」
「やっぱり白鹿庵とはガラッと雰囲気を変えたいですよね。木造のコテージみたいな」
「わたしは広いデッキが欲しいなぁ。海を見ながら昼寝したいよ」
「別荘だし、個人の部屋を作るほどじゃなくてもいいかもしれないわね」
「和室は欲しいですね」
「忍者屋敷、みたいなギミックが欲しい」
口々に理想の別荘への要望を飛ばすレティたち。
俺はテキストファイルに適宜メモを取りながら、大まかな輪郭を定めていく。
「金属製のSFチックな建物もあるらしいが、ワダツミの別荘地にはシュールだろうな。7級の土地を買えば、大部屋いくつかと広いテラスも十分確保できるだろうし、和室は白鹿庵のあんな感じでいいなら後から付けられるはずだ。忍者屋敷はまあ、ちょっと要検討ということで」
幸いなことに、彼女たちの要望の殆どは全て取り入れてもそう困ることはなさそうだった。
というよりも各自が想定している“別荘”のイメージがおおよそ合致しているのだろう。
「二階建てにする必要はありませんかね?」
「土地の広さ的に、平屋でも十分だと思うぞ」
「カミルは何か要望あるの?」
テーブルの上で繰り広げられる会話をぼんやりと聞いていたカミルは、突然ラクトに話を振られてピンと頭頂部の髪を立たせる。
「っ! アタシはなんでも良いわよ。実際に使うのはラクトたちでしょ」
「そりゃまあそうだけど。普段の管理はカミルがしてくれるんでしょ。掃除しやすい間取りとかあったらそっちの方がいいんじゃない?」
「変な気遣いするわね……」
呆れた顔でラクトを見て、大きなため息を零すカミル。
その後腕を組んで頭を捻るが特に意見は見つからないようだ。
『フム。ゲストルームの設置は如何でしょう』
会議が途切れた瞬間を狙ったかのように、ワダツミがすっと手を挙げて口を開いた。
眉間に皺を寄せたウェイドが止めようとするが、俺がそれを制する。
「とりあえず、聞くだけ聞こう」
『サンキュー。白鹿庵は多くの調査開拓員と交流する機会が多いようですので、ゆっくりと腰を据えて話し合える場所を用意するのが良いと考えました』
『ワダツミ、それならば――』
『ウェイド、少し黙っていて下さい。……カミル、ゲストルームがあれば本来立ち入り権限を持たないNPCでも例外的に制限を解除されるでしょう』
何か言い掛けたウェイドを遮り、ワダツミはカミルの方を向いて話す。
突然のことに呆然としていたカミルはすぐにはっとして部屋の外を見る。
「なるほど」
この店――〈新天地〉で忙しそうに働いている橙の髪の少女。
ミモレはカミルにとって姉妹同然の存在であり、白鹿庵の管理をしていた時は建物がドア1枚で繋がっていることもあって度々会いに行っていた。
カミルがワダツミの別荘に移ってしまえば、自由に都市を移動する権限を持たない二人はなかなか会えなくなる。
「ゲストルームか。いいじゃないか」
「そうですね。どうせならベッドルームも付けちゃいましょう」
ワダツミの言わんとすることを他の面々も察したらしい。
優しい空気が広がり、満場一致でゲストルームの設置が決まる。
「そういえばカミル――というかNPCって寝るのか?」
「情報の最適化の為にちょっとだけ休むわよ。意識は飛ぶけど姿勢制御は生きてるから立ったままでもいいし、普段は椅子に座ってやってるけど」
俺たちもカミルも機械の身であるため睡眠は必要ないかと思われるが、実際の所は少々違うらしい。
無数のセンサー類の塊であり、常に膨大な量の情報を収集、蓄積している俺たちはたまにそれを整理する必要がある、とのことだ。
「たまに白鹿庵のテーブルでうたた寝してたのはそういうことだったんですねぇ」
「あ、あれはその……。まあ、そんなものね!」
NPCには絶対寝室が必要というわけではないようだが、眠気のようなものを感じることも確かなようで、カミルの為に部屋を用意するのもいいだろう。
「ていうか、私たちの方が客観的に見れば寝てないのかもしれませんね」
「そりゃあまあ、そうだろうなぁ」
ゲーム中に寝るというのも奇妙な話だし当然ではあるのだが、こと仮想現実内では少々違和感があるような気もする。
強いて言うなら、ログアウトしている時間が睡眠時間にあたるのだろうか。
「ああそうだ。カミルは別荘でも依頼の代理受注とかしてくれるのか?」
情報の整理で思い出した。
最近はしていなかったが、ウェイドで過ごしていた頃は彼女に依頼を見繕って貰い回転率を上げていた。
あれがワダツミでもできれば金策の効率がかなり良くなるのだが……。
『オフコース。別荘もバンドガレージと同等の機能を有していますので、メイドロイドの全ての職務は問題なく行えます』
自信なさげなカミルに代わり答えてくれたのはワダツミだった。
彼女が太鼓判を押すのなら信頼できる。
「それじゃあ俺が欲しい機能は大体揃ったかな。あとはアセット、家具類だが……」
「共有ストレージは大きいのが欲しいわね。レッジの素材類でパンパンなんだけど」
「うぐ。個人ストレージがもう満杯なんだよ」
〈解体〉スキルのおかげで一度狩りに出れば纏まった数のアイテムが手に入る。
都度売り払えばいいのだが、何かに使えるかもしれないという思いでついつい残してしまい、俺の個人ストレージどころか白鹿庵の共有ストレージをかなり圧迫していた。
『共有ストレージはガレージと別荘に設置した全てのストレージの容量が合算されます。例えば、ウェイドのガレージでストレージに入れたアイテムを、ワダツミの別荘で取り出すことも可能です』
「そうなのか。それは便利だな」
ウェイドの言葉に白鹿庵全員が喜ぶ。
なんだかんだ言って、俺以外のメンバーもストレージの容量問題に悩まされていたようだ。
そうでなくとも、わざわざウェイドまでアイテムを取りに戻る必要が無くなるのはありがたい。
「別荘には沢山ストレージアセットを置いて、共有ストレージの容量を増やすのもいいかもしれませんね」
トーカの提案に頷く。
設置できるアセットの数は建物に依存するため、そこに重点を置いた物件を建てるのも選択肢の一つだ。
「さて、大体の希望は出尽くしたか。あとは肝心の建築を依頼する所なんだが……」
会議が煮詰まってきたところで、俺は最も難解な議題を俎上に載せる。
この場を開くまでの間で俺なりに調べたりもしたのだが、如何せんバンドの数が多すぎてさっぱり分からない。
「何か知っている建築系バンドがあれば教えて欲しい」
「そう言われても、レティもあんまり知りませんねぇ」
「有名所は何個か知ってるけど、有名すぎてかなり依頼料も高そうだね。そもそも向こうもスケジュール詰まってそうだし」
眉を顰めて言うラクトに頷く。
ワダツミで別荘システムが解放されたのは数日前のことで、別荘を建てようとしているのは俺たち白鹿庵だけに限った話ではない。
今はまさに別荘建設ラッシュのまっただ中で、有名所はどこも目が回るような忙しさなのだとか。
「ちなみにダメ元でクロウリに声を掛けてみたが、ゾンビみたいな声で断られたよ」
「本当にダメ元ですね」
「可能性の光が一切見えないところにわざわざ打診しなくても……」
ダマスカス組合の建築課は界隈を牽引する花形中の花形だ。
規模は大きいが、それを遙かに超える注文が殺到しているのだろう。
そもそもあそこは大鷲の騎士団のような大規模バンドの大規模な建物が専門で、俺たちが注文したいような小型の別荘に構っている暇はない。
「かといって下手なバンドに頼むのも怖いしねぇ」
エイミーの言うことも分かる。
ゲームのシステム上、あくどいことはあまりできないようになっているが、それでも値段を吹っ掛けられたといった話はたまに聞く。
できればある程度の信頼を寄せられているようなバンドに任せたいものだが……。
「……それなら、バンドランキング、みたら?」
「バンドランキング?」
すっと手を挙げて口を開くミカゲに、全員が首を傾げる。
彼は少し驚いた様子で目を見開き、素早くウィンドウを開いた。
「格付け系バンドっていう、いろんなバンドを評価してるバンドがある。そこが出してるランキングに、建築系の業績とかもある」
表示されているのは〈ミリオントラスト〉というバンドが運営しているサイトだった。
総合戦力、生存力、開拓能力、武器生産など様々な項目で分析した無数のバンドのランキングが掲載されており、そんな中に彼の言った建築業績というランキングもあった。
「ミリトラは、格付け系バンドの最大手。ここの評価はかなり信頼できるし、ここのランキングに載ると箔が付くって言われてる」
「へぇ。こんなものもあるんですねぇ」
「総合戦力ランキングは騎士団が堂々一位ですね。アーツ戦力では七人の賢者ですし、総合生産ランキングではダマスカス組合です」
「ランキング上位陣が見知った名前ってのも随分なことだと思うけど……」
ミカゲがテーブルに広げたウィンドウを、レティたちは興味深げに覗き込む。
世の中には変わったバンドが星の数ほど存在するが、バンドを評価するバンドというのもなかなかに面白い。
「ちなみに白鹿庵はありますか?」
「ちょっと待って……」
バンドネームから検索も掛けられるようで、ミカゲが検索欄に名前を入力する。
「総合戦力、53位。生存力、21位。攻略貢献度、11位。話題性、7位。……特異性、1位」
「特異性ってなんだよ」
「それほぼほぼレッジのランキングじゃないの?」
「総合戦力53位ですか。もっと鍛えねば……」
ミリトラのランキングに若干の疑念が過るが、他の項目を見るに十分信頼に値することは分かった。
このランキングを見て、良さそうな建築系バンドを探せばいいはずだ。
「建築系上位はやっぱり有名所ですね。どこも多少は見聞きしたことのある名前です」
「一位はぶっちぎりでダマスカス。意外なのはプロメテウスが結構下の方ってことかな?」
「あそこは大規模建築専門じゃないからじゃない? 機械製作ランキングだとプロメテウスが1位よ」
ランキングの50位あたりまでは情報に疎い俺でも多少見覚えのある名前が並んでいる。
そういうところは既に注文が殺到しているだろうと予想して、もう少し下の方を探す。
「あっ、レッジさんここなんてどうですか?」
そうしてしばらく後、レティがランキングの一点を指さして言う。
「どれどれ、〈鎹組〉か。小規模バンドだが丁寧な仕事ぶりが徐々に有名に。多少クセは強いものの、話しやすく、発注者の要望にも最大限応えてくれるだろう。――なるほど、いいんじゃないか?」
「バンドのサイトもあるね。料金案内もしっかりしてるし、実績も結構あるよ」
「一度話してみてもいいんじゃない?」
彼女が見付けたバンドに他の面々も好感を得たようだ。
バンドのサイトに載っていたアドレスから連絡を取れるようだったので、俺の名前で打診する。
「とりあえず、ここからの返信待ちかね」
「そうですね。ではレティは新天地特製週替わりチャレンジメニューでも頼みましょうかね」
会議が一段落したところで各々が軽食を頼み始める。
約一名、軽食ではない者もいたが、ウェイドやワダツミたちもケーキセットを頼んでいた。
俺はコーヒーのおかわりとラズベリーのタルトを頼み、フォークを持つ。
その時、突然メールボックスに新着の表示が現れた。
「おお、早いな」
送られてきたメールの件名は【Re:別荘建設のご相談】、発信者の欄には黒墨という名前が表示されていた。
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