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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2152/2214

第2150話「勝利条件」

 レティは考える。

 今回の〈特殊開拓指令;月輪の弑殺〉の達成条件とはなんだろうか。当初、レゥコから提示されたのは〈龍骸の封林〉にある龍骸の解明だった。物語が進むにつれて、龍骸とは白龍イザナミの"死因"であることが判明し、それを克服することでイザナミの完全復活が近づくことが分かった。

 であれば、目標となるのは白龍イザナミの完全復活のため、龍骸を取り除くこと。それは具体的にはどのようにすれば達成できるのだろうか。


[対抗理術"発熱(フィーヴァ)"――熱拡散投射発動]

「せぇええいっ!」


 白龍イザナミは今、自己免疫能力で戦っている。己が身を侵す病魔を駆逐しようと熱を生み出している。だが、その殲滅力はレティたちにも無差別に向けられる。

 龍の周囲に輝く炎の剣が次々と生み出され、ぐるぐると旋回する。煌びやかなそれが、次々と放たれた。明確のレティを狙う攻撃に、彼女はハンマーで応じる。

 熱そのものが形を取ったかのような剣とハンマーが衝突し、眩い火花が拡散する。


「よし、壊せますね!」


 動きは軽快そのもの。まったくもってストレスがない。

 破壊すると同時に跳躍すれば、拡散する火花に焼かれることもない。

 つまり、これは戦うことが想定された存在だ。

 レティは確信を深める。


「勝利条件は、白龍イザナミを守り抜くこと。そのために、腐龍イザナミと戦わないといけない。それに、煌炎猩々も!」


 熱波でおびただしい数が焼け死んだとはいえ、贋物の虚影は際限なく現れる。周囲で回収屋が走り回り、調査開拓員の立て直しが徐々に進むなか、すでにあちこちで燃え盛る毛並みの猿が雄叫びをあげて迫ってきていた。

 白龍イザナミが死んではいけない。

 煌炎猩々が"発熱"を完全に模倣するのも避けなければならない。

 ならば、どうするか。


「こっちですよ!」

[対抗理術"発熱"――赤灼衝]

「ふぉおっ!」


 叫び声で注目を集めるレティに、燃え盛る鉄拳が迫る。

 龍が繰り出した前脚の叩きつけ。それを彼女は紙一重で避ける。


『ギャァアアオオ!』


 代わりにそれを食らって断末魔をあげたのは、レティに襲い掛かろうと背後から迫っていた猿だ。全身に炎を纏っている化け物といえど、その熱は所詮は炎が揺らめいて見える程度のもの。腐龍の内側から焼き尽くそうとする"発熱"には遠く及ばない。

 ジュッと無慈悲な音と共に、それは痕跡すら残さず蒸発した。


「つまり! 後ろから来るお猿さんを巻き込んで倒しつつ、自分は生き残り、"発熱"が疾病を除去するのを待つのが正解ってことですね」


 レティはバカではない。単純明快な論理が好きで、思い切りがいいだけの、むしろ聡明な少女である。彼女はたった一つの真相に辿り着き、思わず吠えた。

 守りながら戦い、戦いながら守る。

 一見相反するような状況だが、これが正しいのだ。四面楚歌とはまさにこのこと。倒すためには、背後の常用にも目を向けながら、的確に位置を定めていくほかない。

 そして彼女は天賦の才とも言うべき戦闘センスによって、それを成し遂げていた。


「イザナミはレティのことも狙ってる。コフィンさんが狙われていないだけいいんでしょうが……」

「アフターケアもサービスの範疇。なんでも言ってね」

「なんでまだいるんですか!?」


 ぐっと噛み締めて腹を括るレティの隣から、コフィンがひょっこりと顔を覗かせる。てっきり機体回収も終え、早々に離脱していたものとばかり思っていたレティは目を剥いて飛び上がる。


「今のレティは、間に合わせ。ちゃんとしないと、長持ちしない」


 八本に分かれていた腕を再び二本に戻し、コフィンは当然とばかりに首を振る。


「そのために私が引き受けた」


 彼女は回収屋であり、分解もする。そして再構築も。八本腕による神速で、この目まぐるしい戦場でもメンテナンスを続けることができる。


「ここからは持久戦。どっちかが倒れる前に、助けが来てくれると、いいね?」

「望み薄っぽい感じ出さないでください! きっと誰か、来てくれますよ!」


 業火球が翔ぶ。

 レティとコフィンはそれぞれに避け、再び隣り合う。はるか後方で火球に轢かれた猿の断末魔。


「機体の回収には時間がかかる。レティは例外」

「じゃあどうしてレティだけ先に!?」

「そうしないと、間に合わないから。ってコンパスが言ってた」

「コンパスさんが?」


 首を捻るレティ。

 コンパスは歴戦の攻略組と比べればかなりプレイ歴は浅い。だが、彼女の実力は本物で、それに裏打ちされた判断力も信頼が厚い。


「あの人もなんだかんだ、謎めいてますよね」

「本人は一般調査開拓員って言ってた」

「それ言ってる人、だいたい信用できないんですよ」


 軽い会話を弾ませながら、飛び込んでくる炎をハンマーで潰す。後方にも絶えず目を配り、できるだけ腐龍イザナミの攻撃で火猿を倒さなければならない。

 だが、その数は止めどなく増えていき、腐龍イザナミの攻撃でも圧倒しきれなくなってきた。


「もう一度熱波を放ったら、またリセットですかね?」

「その時は私も一緒だね」

「ハート作らないでください! 無理心中じゃないです!」


 わざとらしくハートを見せつけるコフィンにツッコミを入れながら、真面目に考え始めるレティ。彼女も瞬殺された熱波は、おそらく"発熱"の最大出力だ。それが発動すれば煌炎猩々の群れも一掃できるが、腐龍イザナミ内部の熱が低下し、"疾病"が勢いを盛り返す。

 おそらくあの熱波は状態のリセット。再び耐久戦が始まってしまう。


「熱波を使わせない程度に抑えつつ、腐龍イザナミが疾病を克服するのを待つ。いったい、あと何時間ほど続ければいいんでしょうか」

「たぶん、アレ」


 コフィンの手が、一点を示す。

 内側から燃え上がり、真紅に染まる龍。だがその一点――胸の中央にある小さな宝玉だけが、黒く染まっていた。

Tips

◇熱拡散投射

 対抗理術"発熱"の基本動作のひとつ。熱に具現性を持たせ、効率的に体外へと排出する。一瞬の冷却機能として作用し、外部に熱を投射する。


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