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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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第2149話「新たな身体」

 コフィンの前を横切るように走るレティ。調整を施された予備機体は、急場凌ぎのものとは思えないほど軽快な駆動で地面を蹴る。数歩で最高速へと至り、もはや急には止まれない。レティ本人でさえ、コントロールすることのできない領域へと至る。


「『機体分解』『炉心摘出』」


 八本の腕が、黒く焦げたレティの機体を貫いていた。ボロボロと脆く崩れるフレームの下から、ことさらに頑丈に作られていた調査開拓用機械人形の最も根幹にある部品を取り出す。

 細い指先に掴まれた小さな青い水晶のような部品だ。その煌めきこそ、LPの源泉。そして調査開拓員のアイデンティティ。普段は頑丈な多層構造の保護部材によって守られている、文字通りの心臓。

 三種の神器のひとつ、八尺瓊勾玉が輝いている。


「――ッ!」


 走るレティの胸元に、腕が触れた。


「『機体解体』『外装装着』


 それはまさに神業と言える手際だった。

 一瞬のうちに予備機体を象徴する手足の黄色カラーパーツが剥がされ、元々レティだったものへと組み替えられる。部品の一つひとつが丁寧に移し替えられていく。

 テセウスの船。

 部品を次々と取り替えられながら、漠然とそんな言葉がレティの脳裏に浮かんだ。だがそんな疑念も吹き飛んでしまうほど、変化は目まぐるしい。

 外装が剥ぎ取られ、各部の人工筋繊維がアップグレードされる。前の機体と寸分変わらぬ人工筋繊維の束が押し込まれる。スキンが貼られ、メイクまで。

 瞬く間にレティの姿は、全盛期よりもさらに美しく変化を遂げていた。


「ふぉおおっ! か、身体が軽い!」


 今なら空も飛べそうです! と感激の声。だが、それだけで終わりではない。コフィンは一瞬に全てを終わらせる。まるで擦り切れたタイヤを瞬時に交換し、一刻も早くサーキットへ戻そうとする者たちのように。

 疾風となって駆け抜けるレティの機体を、ほとんどゼロから組み直していく。


「『機体修理』『部品増設』


 次々と繰り出されるテクニックで、コフィンは別々の腕を動かす。

 基盤を剥がし、配線を直し、部品を保管する。全ての腕が独立し、仕事をまっとうしていく。

 レティという存在を、もう一度ここに。


「――とりあえず一旦離脱しよう」

「いえ。それには及びません!」


 彼女は高らかに叫ぶ。

 しっかりと地面を踏みしめ、真紅の髪をかき上げる。真新しい、瑞々しい肌に熱を宿して、四肢の末端にまで力を漲らせる。


「完全復活!」


 コフィンによる機体の解体と再構築。

 荒技とも言える回収作業は完了し、レティは立っていた。


「素晴らしいですよ、コフィンさん」


 龍の炎が落ちてくる。

 レティはハンマーを振り翳し、大気を叩く。激震が、火炎を吹き飛ばした。


「何もかもがまるで違う。これが、本来の性能ですか」


 全身が羽のように軽かった。フルパワーの発揮は一瞬で、視界も明瞭だ。

 これまでの、知らず知らず蓄積していた慰労が全て消え去っている。まさに一度生まれ直したかのようだ。


「機体の調整は完璧だった。私はただ組み直しただけ」


 レティは謙遜する回収屋を見て、くすりと笑う。

 確かにそうかもしれないが、部品のひとつひとつ、末端の小さな一欠片に至るまで全てが有るべき姿に整えられている。この調整は、一朝一夕にできるものではない。

 彼女の技量の高さをまざまざと見せつけられる。


「ではレティも、それに見合うだけの働きをしなければ」


 危険を犯してここまでやってきた。

 彼女の仕事に敬意を払って、レティはハンマーを龍に差し向けた。

Tips

◇『炉心摘出』

 調査開拓用機械人形から分離した八尺瓊勾玉を取り出すための、一連のシーケンス。手順を間違えた場合、青い輝きは失われる。


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