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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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第2148話「壊して結んで」

「うわ、死屍累々ってやつですね」


 炭化した煌炎猩々の間を駆け抜けて、レティたちはバリケードの残骸を飛び越える。その先に広がっていたのは一際凄惨な光景だ。レティ同様に、腐龍イザナミの熱波を受けて即死した調査開拓員たちの骸が残されている。

 ほとんどが、意外にも原型を留め、中にはスキンも残っている機体も珍しくない。


「調査開拓用機械人形そのものは耐久性も高い。高熱で基盤が焼き切れるのが、一番多い死因だね」

「なるほど。だから一瞬で意識が途切れちゃったんですね」


 耐火コーティングを施したスキンを張っている調査開拓員ならば、熱波をまともに受けない限りは耐え凌げる。だからこそ、異常な事態なのだ。


「つまり腐龍イザナミの熱波攻撃は、ガード不能の可能性があるということですか」


 コフィンは頷く。

 ただの熱風であれば、騎士団の大盾部隊が負けるはずもない。彼らえさえ抗うこともできず瞬殺されてしまったということは、何かカラクリがある。


「龍の炎がただの火なわけがない。そういうわけだから気を付けて」

「はい? ほわーーっ!」


 一線を越えたことで、龍骸の上に佇む腐龍の攻撃に変化が生じる。

 それまでは高頻度ながらも単発で放たれていた火球が、天に向かって撃ち出され、直後無数に分裂して雨のように降り注ぐ。

 点による一極集中ではなく、面による制圧。

 レティは慌てて降り注ぐ日の雨を避ける。


「くっ。レティじゃなければ避けきれずに当たってましたよ」

「……自虐?」

「何がですか!」


 分裂する火雨は連射ができないようだった。

 レティは攻撃が途切れた隙に、焦げ臭い戦地を駆け抜ける。


「コフィンさん、レティの機体はどのあたりですか?」

「反応は近づいてる。もっと向こう」


 まさに死屍累々。

 数百の機械人形が膝を突き、倒れている。中心に近づくほどそれは損傷が激しく、男女どころか機体のモデルを推測するのも難しいほどになってくる。頼りになるのはコフィンの案内だけだ。

 レティは覚えている限りの景色を探しながら、走る。


「うーん、たしかこの辺に……ひぃやっ!」


 当然ながら、龍に近づけば近づくほど攻撃は熾烈になる。

 1秒でも立ち止まれば、その瞬間に予備機体はこんがり焼き上がる。目まぐるしく動き回りながら、なんとか機体を探すしかない。この状況では、3秒だけ稼げというコフィンの要求すら、レティには無理難題に思えてくる。


「そもそも私、荒事は苦手なんですよね……」


 隣で華麗なフックショット捌きを見せているコフィンにも聞こえない程度の声で、レティは独りごちる。元々からして、彼女は世界有数の名家の令嬢として、幼少期から淑女たれと教育を受けてきた。彼女の本来の性格は、当然ながらそれに合わせるように成長してきた。


「レティ、前!」

「でりゃーーーーーっ!」


 吹き飛んできた調査開拓員の残骸をハンマーで叩き飛ばしながら、レティは嘆息する。たしかにFPOで自由に動き回るのは楽しいが、こんな焼けこげた機械人形だらけの地獄で踊りたかったわけではない。


「レティ」

「ちぇええええいっ!」


 ついに、直接狙われるようになった。迫る火球を避け、進路上に立っていたタイプ-ゴーレムの上半身を殴り飛ばす。


「レティがいると、移動が楽になる」

「そりゃどうも! それよりも、そろそろ見つかりませんか?」


 レティは淑女なのである。

 はやく元の身体――こんなゴツゴツとした予備機体ではなく、流麗なボディラインが美しい淑やかな少女の姿に戻りたい。


「見つけた」


 迫り来る火球、吹き飛ぶ機械人形。次々と飛び込んでくる障害を殴り潰しながら走り続けるレティの側で、ついにコフィンが待ち侘びていた言葉を発した。

 真っ直ぐ前方に放たれるフックショット。その指し示す先に、黒ずんだ、大まかに人型をしたオブジェクトがある。


「あれがレティですか!? 真っ黒焦げじゃないですか!」

「大丈夫。反応があるということは、回収できる」


 あまりにも酷い自身のなれ果てに悲鳴をあげるレティ。だがコフィンは断言する。


「ちゃんと、3秒稼いでね」

「任せてください!」


 レティに求められたのは時間。

 腐龍イザナミは明確に彼女たちのことを認識している。


「ぬおおおおおっ!? いきなり奇襲とは!」


 大地に亀裂が走り、真紅の炎が噴き上がる。

 レティが一度引っかかった地中からの奇襲だ。だが二度も同じ手が通用するほど、彼女も甘くはない。

 即座に反応し、華麗な跳躍で避ける。

 頬をジリジリと炙るような熱気が、その攻撃の強さを物語る。


「これっ、ちょっ、物理的に避けきれないやつくるのでは!?」

「頑張って」

「コフィンさん!? 3秒って、いつからですか? もうカウント始まってます!?」

「じゃあ、やろうか」

「今から!?」


 コフィンジョーク、と彼女は真顔でピースする。

 その背後で、棺が開いた。


「回収するよ。レティの魂を」


 コフィンの腕がバキバキと音を立てる。コートの下、身体を締め付けていた無数のベルトが次々と外れ、彼女のシルエットが変化する。


分解(バラ)して、必要な部品(モツ)だけ持ち帰る。――それが、私のやり方」

「はぁああっ!? な、なんかレッジさんみたいなことになってます!?」

「失礼な。私の腕は全部メインだよ」


 レティに向けられる、八つのピース。

 左右の腕が四分割され、細くも機械的なアームへと変化していた。コフィンはそれぞれの手に、棺桶から取り出した工具を掴み、レティの機体へと向き直る。

 猛火が迫るなか、彼女は疾風のような手捌きで機械人形を分解していった。


「レティ、私の前を右から左へ走り抜けて」

「何をするつもりですか!?」

「部品は鮮度が命だからね。――一瞬で、換装してあげる」


 耳を疑うレティだが、コフィンの表情は変わらない。

 時間はない。危険は迫る。

 彼女は意を決して、走った。

Tips

◇『機体分解』

 〈回収〉スキルレベル60のテクニック。回収が困難な危険地帯に置かれた機体から、重要な部品だけを持ち帰るための技術。分解された機体は使用不能となり、分解に失敗した場合は重いペナルティが課される。そのため、万策尽きた際の最後の手段となる。


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