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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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第2146話「棺の回収屋」

 熱風が舞い上がる。地を舐めるように灼熱が流れ、その場に立つもの全てを薙ぎ払う。


「なん――!?」

「うぎゃあああっ!?」

「あっぢぃいっ!」


 調査開拓員たちも、


『キェエエエ!』

『ギィギャ!?』

『ガァアア!』


 獣たちも。

 全て区別することなく焼き払う。


「――はっ!?」


 レティは目を覚まし、ベッドから飛び上がる。目を開いて周囲を確認すると、そこはテントの下に並べられた無数のベッドのひとつのようだった。周囲では同じように目を覚ました調査開拓員たちが、混乱の形相で上体を起こしている。


「目が覚めましたか。レティさん、急いでください」

「コンパスさん。ここは、前線のセーフハウスですか」

「ええ。ただ、予備機体の数が少なくて、復帰作業が追いついていません。回収屋と一緒に、現地に向かってもらえますか?」


 レティの顔を覗き込んだのは、灰衣に身を包んだ少女。〈鉄錠奉仕団〉のリーダーであるコンパスだ。ここは〈龍骸の封林〉の上陸地点に築かれたキャンプの一角、無数の予備機体を格納し、前線で活動する調査開拓員たちの仮復帰ポイントとなるセーフハウスだった。

 〈回収〉スキルの高レベルテクニックによって、一時的に機体全壊時の復活ポイントを任意の地点に設定することができる。レティは事前に保険をかけていたため、それが発動したのだ。

 ずらりと並ぶ周囲のベッドにも、鉄錠奉仕団の人員によって次々と黄色いカラーリングの予備機体が運び込まれ、直後に調査開拓員の意識がインストールされている。あまりにも一斉に多くの調査開拓員が全壊したため、セーフポイントでの復旧作業に遅れが生じているようだった。


「機体の回収を終えたら、すぐに予備機体を返していただけると嬉しいです。とにかく、数が足りないんです」


 コンパスが繰り返す。

 本来の復活地点である各都市のアップデートセンターならば、復活の順番待ちが発生することはない。フィールド上に仮設されたセーフハウスの欠点のひとつであった。


「わかりました。すぐに戻ります」


 レティは二つ返事で了承し、立ち上がる。

 慣れ親しんだ自分の機体とは違い、ほぼ全てのステータスが初期値となっている予備機体では、まるで水の中にいるかのような動きにくさがある。だが、それでも最低限動くことはできる。

 コンパスは頷き、近くにいた調査開拓員を呼び寄せる。


「回収屋のコフィンです。機体の引き寄せと修復、高速データ移管をしてくれます」

「……よろしく」

「よ、よろしくお願いします」


 回収屋とは、〈回収〉スキルを主軸にスキルビルドを行い、フィールド上で倒れた調査開拓員の機体を安全に持ち帰ることを生業とする者の総称だ。予備機体では回収困難な危険地帯まで赴き、重たい機体を運ぶ。生存力と判断力を求められるプロフェッショナルである。

 レティたちのように既にスキルビルドが完成していて、多くの装備を持つトップ層プレイヤーこそ、デスペナルティは大きい。レティ自身、在野の回収屋には幾度となくお世話になっていた。

 コンパスの紹介で浅く会釈をしたコフィンは、寡黙な少女だった。オーバーサイズのコートを羽織り、その中は無数のベルトでキツく締め付けた革の防具を纏っている。背中には、トレードマークなのか大きな箱型の棺桶がある。


「コフィンさんは〈鉄錠奉仕団〉ではないんですか?」

「わたしはフリーの回収屋。今は、奉仕団の委託を受けて活動中」


 感情表現の乏しいタイプ-フェアリーだ。しかしおもむろに手を挙げると、指を二本立ててピースする。案外、愉快な性格であるようだった。


「とりあえず、予備機体の調整からしよう」


 コンパスは次の復活者の元へと向かい、コフィンはレティの足元にしゃがみ込む。


「調整ですか?」

「今の機体だと、回収まで行くのが大変。ちょっとだけ、足回りを弄る」


 ベッドの縁に座ったレティに向かい、コフィンは棺を開ける。そこには無数の工具や機体部品がみっちりと詰め込まれていた。


「コンパスから話は聞いている。最優先で、回収に行く」

「そんなことを……。ありがとうございます」


 〈鉄錠奉仕団〉が新進気鋭と呼ばれる所以は、その判断能力にもある。彼女たちは誰を、どの順番で、どの程度助けるのか、トリアージとも呼ばれる状況判断に秀でている。

 そのリーダーであるコンパスが、レティは最優先で戦線復帰させるべきであると判断したのだ。

 コフィンは工具を用いて予備機体のスキンで被覆されていない剥き出しの足を解体していく。人工筋繊維をより品質の良いものへと換装し、フレームもその出力に耐えられるよう補強する。ブルーブラッドの輸血液を注入してパワー伝達率を高め、グリスを変えて排熱効率を改善する。


「とりあえず、こんなところ」

「すごい……とっても動きやすくなりました!」


 ものの数分で、レティは世界が変わったような錯覚を抱く。

 鈍重な予備機体は、今や羽のように軽い。軽く飛び跳ねただけで、テントの屋根を突き破りそうなほどだ。


「こんなに優秀な回収屋さんがいたなんて……。本機体の整備も頼めませんか?」

「名匠が整備している機体、興味はある。……でも、また今度ね」


 薄く微笑むコフィン。藍色の髪が目にかかり、儚げな色が浮かんでいる。その自信なさげな表情とは裏腹に鮮やかな手捌きを見せつけられて、レティはすっかり彼女に惚れ込んでいた。


「それじゃあ、行こう。急がないと」

「そうでしたね。現地は大丈夫でしょうか」


 再び棺桶を背負い、テントの外へと足を向けるコフィン。レティもその隣に並ぶ。

 セーフハウスでは今も次々と調査開拓員が復活し、鉄錠奉仕団が慌ただしく駆け回っている。


「完璧に整備してもらえたので、かなり速度は出せそうですが……大丈夫ですか?」


 数歩歩いただけでも、感覚が違うのが分かる。今ならかなり機敏に動けるだろう。その確信を持って、レティはコフィンを窺う。回収屋は背中に重そうな棺を背負い、タイプ-フェアリーの小柄な機体で歩いている。レティが本気を出せば、置いていってしまいかねない。


「大丈夫。好きに動いて」


 だが、彼女は何ら気負う気配もなく、即座に頷いた。それが驕りではないことを、レティも直感する。


「では、行きましょう」


 レティは出会ったばかりの回収屋に全幅の信頼を置いて、今も天に届かんばかりの火柱を立ち上げている島の中心へ爪先を向けた。

Tips

◇簡易情報転送ドック

 〈回収〉スキルテクニック『簡易復旧ポイント設置』によって、任意の安全地帯に設置することができる設備。予備機体を安置することで、事前にポイント登録を行っていた調査開拓員の情報を転送することができる。


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