表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2146/2206

第2144話「逆転戦域」

 龍は真紅に染まり、ゆらめく。遠く距離を隔てたレティたちの頬にまでその灼熱は届いた。

 対抗理術"発熱(フィーヴァ)"の発動と共に予期された世界の焼却は行われていない。炎は形を保ち、龍の内部に封じられているようだ。


「もしかして、あれが本来の姿なんでしょうか」

「はええ……。だとしたら、あの中に惑星イザナミを燃やせるだけの炎があるってこと?」


 燃え上がり、渦巻く炎は決して外には出てこない。レティたちはそれを見て、本来あるべき姿を理解した。対抗理術とは、白龍イザナミが有する自己防衛手段である。適切に実行された場合、それは白龍イザナミを助けるものになる。総司令現地代理を守るためにあるものが、自身の任地を破壊するはずがない。


「つまり、あれは人間と同じような免疫機能の一環というわけですか。星すら焼き殺すほどの熱を体内に巡らせて、"疾病"を克服しようとしているんですね」


 レイピアを下ろしたアイは、精巧な美術品を前にしたかのように呆然とする。龍骸の上に足をかけ、翼を広げた龍は堂々としている。鮮やかな赤とオレンジが不規則に混ざり合い、鮮烈な光を放っている。


「てことは第二段階ってなかったのかな? せっかく復活したのに」


 塹壕で固まっていたラクトが、硬直時間を抜けてレティたちへ合流する。自分が動けるようになったというのに、もう戦いは終わりつつある雰囲気で、少し不満げだった。

 対抗理術"発熱"が発動し、腐龍は自身を蝕む病を駆逐しつつある。その神々しい姿を見て、戦場の空気は弛緩していた。


「さて、それはどうでしょうね」


 だが、そこに針のような緊張感を突きつける青年がいた。

 団長アストラは油断なく腐龍イザナミを睨みつけている。


「対抗理術による疾病の焼却にも、時間がかかります。完遂するまで油断はできない。それに、今も懸念がひとつあります」


 彼は振り返る。塹壕のさらに向こう。闇に閉ざされた林に目を向ける。

 風がざわめき、不穏な気配がたちのぼっていた。


「まさか!」


 レティが勘付き、目を見張る。

 アストラは聖剣を高く掲げ、周囲に声を張り上げた。


「全員、戦闘準備! "贋物の虚影(ミミクリーシャドウ)"を龍に近づけるな!」


 燦然と輝く腐龍イザナミ。鮮烈な光を求めるように、木々の狭間の闇から獣が現れる。黒く、輪郭さえ定まっていない、異形の怪物。何者にもなれぬが故に、何かになろうと渇望する変化の魔性が、牙を剥き出しにして現れる。

 それは、燃え盛る龍を見て、まずは体毛を鮮やかな緋色に変えた。


「腐龍イザナミまでコピーできるんですか!?」

「完全模倣するには、多少時間がかかるっぽいね。とはいえ、放っておいたらレプリカくらいにはなっちゃうかも。そうなると、今度こそ星全体が火の海だ!」


 ラクトはアンプルをがぶ飲みして、LPを蓄える。ブラックボックスの影響で重たいデバフを受けているが、それを言い訳にしている場合ではない。

 地面を蹴り上げて迫る虚影たちは、まるで秋の枯野に放たれた火のようだ。次々と森から、無尽蔵に現れて、迫る。


「第二ラウンドは外からってことかぁ。はえんっ」


 前半戦は、龍に向かえばよかった。だが次は龍を守り、戦わねばならない。全方位からこちらへ迫り来る無数の影たちを、それが龍の力を得る前に倒さねばならない。

 ゲームシステムと勝利条件がガラリと変わる。

 そんな混乱のなかでも、アストラ率いる騎士団は迅速だった。


「避難誘導は中止! 今すぐ外向きに隊列を整え、射程に入り次第殲滅しろ!」

「了解!」


 伝令は光の速度で波及し、百戦錬磨の騎士たちはバリケードを背に盾を構える。龍骸を取り囲むように陣地形成していたのが、功を奏した。バリケードは半壊しているものの、塹壕はまだ生きている。そしてアストラの指示を受け、龍の発熱から避難していた団員たちが、迅速に戦える。


「『取り囲め』」

 「『立ち上がれ』」

  「『それは偉大なる絶壁』」

   「『全てを封じる堅牢の断崖』」

    「『雷の轟きと共に現れる城塞』」

     「『守り給え、阻み給え、退け給え』」


「『黒雷万撥の天牢閣(ブラックカーテン)』」


 響き渡る七つの声。次々と詠唱を受け継ぎながら、長く紡ぐ。

 天が割れるような激しい雷鳴と共に黒い稲妻が大地を穿ち、巻き込まれた贋物の虚影を吹き飛ばす。稲妻は止まらず、次々と次々と、驟雨のごとく降り注ぐ。

 やがて、それが陣地を取り囲み、巨大な城壁となった。


「しばらくはこれで時間を稼げるでしょ。よろしくね、諸君!」


 調査開拓団を代表する機術師たち。〈七人の賢者〉のリーダー、炎髪のメル。彼女は全身に黒い雷紋を刻みながら、後を託した。


「やりましょう、シフォン。イザナミを守ります」

「……うんっ!」


 そして彼女たちも、走り出す。

Tips

◇ 『黒雷万撥の天牢閣(ブラックカーテン)

 特定のアーツチップにより構成されるスペシャルスペル。長い詠唱と莫大なLPを求める大規模な機術。

 黒い雷を呼び、束ね、それをもって壁とする。自身を中心とした広大な範囲を覆い尽くし全ての敵を退ける攻守一体の城塞を築き上げる。

"荒天は強大にして無慈悲。黒き稲妻は悉くを屠る。"


Now Loading...

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

◆剣と魔法とナノマシン1〜7巻まで好評発売中です!
◆合法ショタとメカメイド1〜3巻もよろしくお願いします!

ナノマシン
第1巻 ⚫︎公式ページ ⚪︎ Amazon Kindle ⚪︎ Book Walker
第7巻(最新) ⚫︎公式ページ ⚪︎ Amazon Kindle ⚪︎ Book Walker
メカメイド
第1巻 ⚫︎公式ページ ⚪︎ Amazon Kindle ⚪︎ Book Walker
第3巻(最新) ⚫︎公式ページ ⚪︎ Amazon Kindle ⚪︎ Book Walker
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ