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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2026お正月記念SS

「つい先日までクリスマスでしたが、もうお正月とは! 師走とは恐ろしいものですねえ」


 穏やかな日の差し込む別荘の窓際に座ったレティは、カミルが淹れたミルクティーを揺らしながらほっと息をつく。色々なイベントが立て続けにやってくる慌ただしい年末、仮想現実特有のリアルから切り離された緩慢な時間は彼女の心を癒していた。


「いいのか? こんなところでゆっくりしてて」

「お母様からも六時間ほどは好きにしていいと言われてますよ。年末年始はあっちこっちで挨拶回りがあって、合間にFPOを差し込まないとやってられません」


 清麗院家のご令嬢であらせられるところのレティは、この時期が特に忙しい。家の代表ではなくとも、今後を背負う一人娘なのだ。政財界をはじめとした業界の重鎮たちが集結する様々な祝宴に参加しては、顔を売っている。という。

 彼女の年齢を考えれば、あまりにも多忙すぎる。生まれた家による宿命と言えばそれまでだが、彼女にも肩書を捨てて羽を伸ばす時間は必要だろう。


「というわけでレッジさん。お正月イベントに参加してみませんか」


 床に罠を広げてメンテナンスをしていたのが一段落したのを見て、レティが立ち上がる。

 現実と比べて時間の流れが早い仮想空間では、季節ごとのイベントも長く取られている。先日、クリスマス限定イベントが行われ、恒例のサンタ狩りが各地で好評を博していたわけだが、今回はお正月イベントが開催されている。


「正月イベントね。何をやってるんだ?」

「ふふん。レティにピッタリの、アグレッシブなお祭りですよ!」


 例によってイベントについてあまり調べていない俺に対して、レティは腕を折り曲げ、力こぶを作ってみせた。


『モヂィイイイッ!』

「『パワーチャージ』! 『ジャイアントキリング』! 『インパクトスマッシュ』ッ!」


 正月といえば何か。そう、餅である。

 というわけで惑星イザナミの各地に、全身が餅でできた巨大な人型の原生生物――"白穀の豊穣司"が出現していた。


『モヂッ!』

「ぬはははっ! そのような攻撃には当たりませんよ! こてんぱんに搗いて差し上げましょう!」


 餅マンが大きな腕を振り下ろすが、その動きは緩慢そのもの。レティは難なく避けて、逆にハンマーを次々叩き込む。


「打撃属性ダメージを与えれば与えるほど美味くなるってか。妙な生態の原生生物がいたもんだなぁ」


 この正月期間にしか出てこない奇妙な原生生物は、ポップ直後は無数の米が集合したような姿をしている。それを打撃属性攻撃を加え続けることで、徐々に滑らかかつ粘り気が出てくるのだ。

 まさしく、ハンマー使いのレティに打ってつけの相手である。彼女はいつもの黒鉄のハンマーから、イベント用に配布されている杵に持ち替え、ぺったんぺったんと餅つきを楽しんでいた。


「ふははははっ! その腕の長さは既に見切っています! ここなら届きません――ぬぁああ!?」


 一度離れ、LPを回復させていたレティに餅マンが振りかぶる。腕の間合いは見切ったと余裕綽々で待ち構えるレティだったが、その直後。振り下ろされた腕はぐにょんと伸びてレティに届いた。


「う、うわーーーっ!? モチモチしてますっ!」

「そりゃそうだろ。油断してるからだぞ」


 搗きまくった餅はやわらかくよく伸びる。レティは呆気なく直撃を受け、更に体ごとモチに包まれた。弾力と粘り気があるモチから抜け出すのは至難の業である。むしろ、もがけばもがくほどに餅が絡まりついてくる。


「助けてくださーい!」


 涙目でSOSを送ってくるレティ。

 俺は近くに置いていた樽を蹴り飛ばし、それ目がけて槍とナイフを突きつけた。


「風牙流、一の牙、『群狼』ッ!」


 突風が樽を割り、中に詰められていたものを拡散させる。レティもろとも餅の巨人の全身に白い粉が降りかかり、たまらず大きな悲鳴が上がった。


「うわーーーっ!? 真っ白! 何も見えませんっ!」

『モヂィイイイ!』


 仲良くのたうちまわるレティと"白穀の豊穣司"。だが、徐々に白い巨体の表面が乾き、固まり始める。その隙にレティは餅の拘束を振り解き、飛び出した。


「ふぅ! 助かりました、レッジさん!」

「良かったな。事前に打ち粉を用意しておいて」


 各地に出現するのは"白穀の豊穣司"だけではない。その子分のような存在なのか、スイカくらいの大きさの丸餅じみた原生生物"白穀の使い"も同時に現れる。それは比較的すぐに倒すことができるのだが、ドロップアイテムを加工することで打ち粉が手に入る。

 この打ち粉を使えば、餅の巨人に捕まっても脱出することができるのだ。


「とはいえまた搗き直しです。がんばりますよっ!」


 打ち粉を被って、餅の巨人はまた少し硬くなってしまった。そのぶんを取り返すため、レティは再びハンマーもとい杵を手にする。

 極上の餅を仕留めるには、捕まることなく杵を叩き込み続けなければならない。これが案外難しいのだ。


「うおおおおおおっ!」


 レティは一気呵成に飛び込んでいく。


━━━━━


『ほほう。次は草餅ですか。中は……うむ、餡子も美味しそうですねえ。では、失礼して……。いただきますっ! もぐもぐ。なるほど、このほろ苦さ、少し眉を顰めてしまいますがこれは前哨戦。言うならば序盤のストレス回。これがあるからこそ中の餡子に到達した際の甘さがより際立つというもの。なるほど、これは素晴らしい。おもちの弾力もまた素晴らしく、掴んでも溶けてしまうほどではない。ほどよく温かく、噛み切ることも容易。うーむ、美味しいですねえ』

『練り込んでいるのは薬草ですね? 重い食事が続きがちなこの季節、弱った八尺瓊勾玉を労わろうという"愛"を感じます♡』

『七種類の薬草は、少し少ないように思う。次は100種類を目指して欲しい』

『美味いのじゃが、おいなりさんを被せてみるともっと美味いのではないかのう?』


 各都市では、狩り取った"白穀の豊穣司"から手に入れた極上の餅を使ったさまざまな餅料理が供され、品評会が開かれていた。

 結果、ある都市では餅そのものに砂糖を練り込み、中にチョコレートとカスタードとホイップの三種のクリームと苺を入れ、外側に粉糖をまぶした苺大福風モチが一位に輝いたという。

Tips

◇白穀の豊穣司

 年に一度、惑星各地に現れる不思議な原生生物。全身が白い粒状の集合で構成されており、非常に高い耐久力を持つ。木製武器による打撃属性攻撃以外に対して無効化に近いほどの高い耐性を有し、調査開拓院たちを体内に取り込もうと襲いかかってくる。

"豊穣と幸福をもたらす神聖なるもの。叩くほどに柔らかく、温かくなる。"


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旧年も大変お世話になりました。

2026年もバニおじをはじめ、精力的に活動していく所存です。書籍化もしたい!!

ぜひ今年もよろしくお願いいたします。

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新年あけましておめでとうございますございます 今年もよろしくお願い申し上げます
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