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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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第2129話「混沌の実験動物」

『お、おわ、わああっ!?』


 エミシが見上げ、狼狽える。

 ビールの泉から現れたのは、絶えず体表が崩れおち、周囲に強烈な腐臭をばら撒く巨大なネズミ――腐り爛れる病獣(ロットンラット)だ。カエデたちから伝え聞く通りの風貌に、すぐに勘付いた。

 即座にエイミーが飛び出して、両腕に備えた拳盾を構える。ウェイドもすぐさま後方へと下がり、戦闘の邪魔にならないように身を縮めた。


『お、おまえええええっ! なんてところからっ! 神聖なびあが、お、おまえええっ!』


 ただ唯一エミシだけが、我を忘れて巨大なネズミに突っかかっている。あが現れたのは、豊かにビールが湧き出る奇跡の泉。おそらく、そこが最も"縁"が強かったのだろう。しかし、そこに腐れ落ちる獣が現れたとなれば、泉は瞬く間に濁る。


『どうしてくれようか! どうしてくれようかぁっ!』


 血相を変えて今にも飛び掛からんとするエミシを必死に抑える。今の彼女が対峙したところで原生生物を倒すことはできない。


「落ち着けエミシ! まずはソイツから情報を集めるんだ!」


 ロットンラットについて分かっていることは、火に弱いということくらいだ。倒し方は分かっても、その正体はほとんど闇に包まれている。千載一遇の好機を逃すわけにはいかなかった。


「エイミー、鑑定は?」

「ダメね。力量差が大きすぎるわ」


 戦闘職においても必須のスキルとなっている〈鑑定〉だが、その使い方によって個性が出る。エイミーが多く習得しているのは、看破系と呼ばれる擬態していたり透明になっていたりするような原生生物を発見するテクニック。

 そして、敵の力量を推察する見鬼系と呼ばれるテクニック群。この見鬼系テクニックによって、敵性存在のHPや各種耐性を見るのだが、あまりにも彼我の力の差が大きければ、真なる情報を得ることは難しい。

 本職の戦士であるエイミーでさえ名前しか看破できないとなれば、ロットンラットの素の強さは相当のものだろう。カエデたちはよくそれとやり合ったな。


「由来不明、挙動不明、弱点不明、体力不明。――なるほど、中ボスにはちょうどいいじゃないか」


 そもそもが正体不明の怪物なのだ。縁を辿って遠隔地までやってくる奇妙な性質も理解でいていない。だが、まだ情報を集めたい。情報を制するものが、今回のイベントを制すると言っていいだろう。


「鑑定できないなら検査すればいい。生かさず殺さず、できるだけ長く保ってくれよ」


 猛然と泉から飛び出してきたロットンラットは、周囲に血肉をばら撒きながらこちらへ。あれにまともにぶつかれば、いくらワクチンを打っていたとて発症は避けられない。

 だが、こちらには頼りになる味方がいるのだ。


「『砕け散る三重障壁』ッ!」

『グォオオッ――!』


 突進するロットンラットの目の前に、三重の半透明の壁が立ちはだかる。それは衝撃を受けて脆くも砕け散る。だが、飛散した破片がロットンラットの体表へと深く食い込み、大きな傷を刻みつける。

 身体中に輝く破片を浴びたロットンラットが、荒々しく吠える。


「どうやら痛覚はあるみたいだな。よしよし、いいぞ」


 腐っても神経は通っているらしい。さらに言えば、物理攻撃は効く。カエデが言うにはいくら切りつけても一向に倒れなかったらしいが。


「みるみる傷が塞がっていくわね」


 ロットンラットは怯み、動きは止まる。しかしエイミーは油断なく趨勢を見極めていた。腐れ爛れるネズミの体表は、蝋が溶けるように崩れていく。ものの数秒で、傷ついた部分は見えなくなってしまった。

 今にも死にそうなゾンビのような見た目をしているくせに、かなりしぶとい。ほとんど物理攻撃無効と同じような治癒能力を持っている。


「百連打くらいやってみる?」

「いや、この辺は想定内だからな。カエデたちがやってないことをやってみよう」


 俺のインベントリはエイミーやレティと比べればかなり小さい。より正確に言うなら、所持可能重量が少ない。だが、それでも軽量の罠ならいくらか持ち込むことができる。

 再びエイミーに向かって走るネズミが地面を踏み抜く。


『ギィィイイイイイアアア!!!』


 その身体に稲妻が巻き付いた。

 放電式地雷"蜷局蛇"は、周囲に導電性の高い金属片をばら撒きながらバッテリーを暴走させることで、超高圧電流を周囲に拡散させる。その凄まじい雷属性攻撃が腐肉を焦がした。


「やっぱり雷もよく効くなぁ」

「火属性と雷属性は割と似てるところあるものね。ということは……」


 暴れ、のたうち回るネズミ。その足先が、また別のスイッチを踏み抜く。次の瞬間、猛烈な勢いで飛沫が噴き上がった。

 水爆、ならぬ爆水地雷。特殊な耐圧殻容器に入った水は、ウォーターカッターの要領で踏み抜いた対象の躯体を貫く。


「やっぱり水属性は今ひとつだな」


 しかし、ロットンラットの反応は劇的ではない。血の滴る身体は、飛沫の弾丸を受けても平然としていた。

 つまり、奴は火や雷に弱く、水に強い。物理属性攻撃はほぼ無効化されると考えていい。


「これも情報収集戦闘ってやつだよな、アストラ」


 〈大鷲の騎士団〉が得意とする特殊な戦闘。多種多様な攻撃を効率よく浴びせることで、その対象の特性、弱点、習性などを丸裸にする。

 エイミーに守りを任せ、俺は罠を張り巡らせることに専念することで、擬似的にそれを実行していた。

 ロットンラットには、今後の礎になってもらおうじゃないか。

Tips

◇放電式地雷"蜷局蛇"

 実戦型トラップを専門に手掛ける〈野戦野郎〉のベストセラー。加圧式スイッチによる荷重起動型地雷で、内部に仕込まれた黄鉄鋼クズによって効率よく電流を放つ。金属片が対象に食い込むことで、雷属性ダメージをより浸透させることができる、匠の一品。


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