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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2124/2164

第2124話「土中の芳香」

 掘削、整地、掘削、掘削、整地、掘削、整地。支柱作成。掘削、整地、掘削、掘削、整地、掘削、整地。支柱作成。


「あっついわね……。空気も澱んでるし、気持ち悪いわ」

「辛抱してくれ。換気設備を導入する余裕はないんだ」


 汗だくでうんざりとした顔のエイミーが手で煽ぐ。しかし隧道のなかは全て熱気で満たされており、生ぬるい風がまとわりつくだけだ。ヘッドライトの頼りない光で照らされた目の前の土壁にスコップを突き立て、俺は軋む関節を伸ばした。

 惑星W-003αの地表に降り立ち、そこにテントを建てて拠点を確保した後、俺たちは地下に向けて進み出した。硬い地面を掘り進めるのは俺である。

 〈野営〉スキルの基本テクニックの一つでもある『掘削』と『整地』を順番に繰り返して、穴をどんどん掘っていくのだ。特殊な任務をクリアすることで手に入れられるモグラのスコップは今の環境にマッチしている。固く圧力が加えられた地面をザクザクと掘り進め、道を伸ばしていくことができている。

 しかし地下に向かってトンネルを進めると、落盤の可能性も出てくる。一定間隔で支柱を建てて、天井を支える必要があった。ピン使いのフィールドワーカー、イサミが教えてくれた折りたたみ式の使い捨て支柱が役に立っている。だがこれも無限ではない。どこかで隧道を伸ばす限界も来るだろう。それまでに何か見つけられればいいのだが。


「どうだ、エミシ、ウェイド。何か感じるか」

『特に何も。甘いものでも食べてしゃっきりすれば、何か見つけられるかもしれませんが』


 頼みの綱となるのは同行している管理者ふたりである。だが、ウェイドも何か特筆するべき違和感を見つけられているわけではないようだった。


「白月……は、しんどそうだな」


 足元にぴったりとくっついて来ている白い仔鹿、白月は荒い息を繰り返している。水辺なら元気な彼だが、暑く乾燥した地中は相性が悪い。リンゴをたまに与えているが、水分不足は補いきれていない。


『ううーん……』


 具合が悪そうなのは白月だけじゃない。エミシもまた顔を青くして、歩くのもつらそうだ。壁に手をついて身体を預けている様子を見ていると、さすがに心配が勝る。

 本来なら俺たちよりよほど強靭な管理者があそこまで弱るとなると、何か異常があるかもしれない。最悪の場合、彼女に"疾病"が迫っている可能性もであるのだ。


「ウェイド。いったん休憩しよう。たい焼き食べていいぞ」

『やったーっ! むふふっ、レッジにしては殊勝な心がけですねえ!』


 椅子を取り出し、飲み物と軽食も用意する。実際、俺たち調査開拓員も腹が減るし、肉体仕事のあとは栄養が必要になる。ウェイドにたい焼きを渡しつつ、自分たちもエネルギーを補充する。


「エミシもどうだ?」

『うぐぅ……。すみません、ちょっと食欲がなくて』


 エミシは重苦しい声を絞り出し、壁に背を預けた。

 やはり顔色がわるい。蒼白と言ってもいいほど、精彩に欠いている。しかしエネルギー補給のたい焼きを差し出しても、彼女はぐいと押し返してきた。


「食べられる時に食べておいた方がいいんじゃないか?

『いえ、えっと、その……』


 管理者機体とはいえ万能ではない。しかしエミシの歯切れは悪いままだ。


「……」


 妙な態度に違和感を覚えて、懐を探る。たしか、ここに、


「これでも飲むか?」

『ほわーーーっ!?


 取り出した銀色の缶を一目見て、エミシがこれまでの憔悴っぷりが嘘のように大きな声を突き上げる。その振動で天井が落ちてくるかと驚くほどの声で、慌てて口をふさぐ。


『むごごっ!』

「やっぱりか。エミシ、一日何リットル飲んでたんだ?」


 インベントリの底に余っていた、随分前に都市のマーケットで無料配布されていた酒。それを一目見せただけで、エミシは露骨に反応を変え、必死に俺を指差した。

 なんでそんなものを持っているのか、と言いたげな目だ。


『レッジ? どうかしましたか?』

「うん。いや、ちょっとエミシが――」

『水分補給しようとしていたところです! 頂きますよ、レッジさん。ほわゃっ!』


 ウェイドが不審がってこちらへくる前に、エミシは俺の手からビールを掠め取ると流れるような所作で開ける。プシュッと炭酸の漏れる音が聞こえるが早いか、ゴクゴクと喉を鳴らし瞬く間に飲み干した。


『ぷひゅぅあっ! 命の水は最高ですね!』

「お、おう」


 一気に表情に生気が戻り、声にはハリが出る。それどころかキビキビと動き出して、疲労までどこかへ飛んでいった様子だ。


「……エミシ、普段はどれだけ飲んでるんだ?」

『私にびあを教えてくれた方は、一時間に三ケースまでなら常識の範囲内と』

「そいつは一回とっちめた方がいいぞ、多分」


 1ケースで大体1ダース。しかも瓶だろ。42本を1時間で飲み干すのは、いくら管理者でも機体の各部に負担が大きすぎる。しかしエミシはもはやそんな次元を通り越して、飲まねば禁断症状が出てくるようになっているらしい。

 大丈夫なのか、管理者ってやつは。


『ふぅ、ふぅ、はぁ。――よし、レッジさん、私は大丈夫です。あと30分くらいなら気合いで耐えます』

「30分を気合いで耐えなきゃならんのがもう手遅れだと思うが……」


 呼吸を整え、エミシは気合いを入れ直す。

 エイミーはスポーツドリンクを飲み干し、ウェイドもたい焼きを食べ終えた。あまりのんびりしている時間もないし、進まなければ。


『むむっ?』


 再びスコップを手に取った丁度その時、エミシが眉を寄せて土壁を睨む。


「どうかしたのか?」

『……この奥から、かすかにびあの匂いが』

「はぁ」


 真面目な表情で囁く管理者。酒を入れて調子が戻ったかと思えば、こんな調子か。


『馬鹿にしてますね? 本当なんですって! この奥からアルコールの醸す匂いが!』

「そうだなぁ。たしかになぁ」

『うぎーーーっ!』


 あいにく、こちらにはタイプ-ライカンスロープがいない。ヨモギがいたら検証もできるのだが。しかしこのまま当てもなく掘り進めるのも難しい。

 俺はエミシの言葉を信じることにした。

 土壁にスコップを突き立て、掘削。掘り出した土は圧縮土としてアイテム化され、エイミーが収納していく。そうして進むと、やがて俺たちの鼻にも違和感が捉えられた。


「なんか、アルコールっぽい匂いがするわね」

『むぅ。あんまりいい匂いではありませんねえ』

『ほらぁっ! 言ったでしょう! それ見たことか!』


 エイミーとウェイドが匂いを認め、エミシが勝ち誇る。

 俺がスコップを突き立てた、その瞬間。


「うおっ!?」

『わほーーーっ!? か、壁からびあが!』


 まるで酒樽に穴を開けたかのように、勢いよく黄金の液体が噴き出した。

Tips

◇圧縮土

 『整地』によって作成される強く押し固めた土。ただの土ながら積み上げれば壁となり、またかなりの重量がある。


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