第2121話「束の間の安息」
銀の火炎がほとばしり、周囲の温度はむしろ下がる。俺たちを包み込む熱波が一瞬にして消失した。管理者専用兵装"銀流・生弓"が熱を集め、奪い取り、一本の矢に変えて放ったのだ。
本来ならば都市のエネルギーグリッドと接続しなければ起動することさえ叶わない管理者専用兵装だが、ウェイドが持つ弓は性質が異なるらしい。それはエネルギーを得るのではなく、奪う。周囲の熱エネルギーを吸収し、無理やり発動した。
"銀刀・生太刀"とはまた違った方向で破格の能力を宿した兵器だ。
「それを持ってきてるなら、最初から言ってくれよ……」
『管理者専用兵装なんて使う幕がなければ最良なのです。そもそも、あなたが妙なことをしなければ――』
長々と説教が始まりそうな予感に、軋む身体に鞭打って立ち上がる。
成層圏の向こう側からの自由落下。無数の熱線を越えて、俺たちは管理番号W-003αの大地に足を付けることができた。
"銀流・生弓"の力によって、周辺一帯は気温が下がっている。だが、これもすぐに熱線が降り注いで煉獄が戻るだろう。
「『野営地設置』」
その前に、安全な拠点を確保する。
耐熱性能に特化したテント"散華"を広げ、エイミーとエミシを招き入れる。ひとまず、ここまでくれば安心だ。
八雲を構成するテントのうちのひとつ、"散華"は鮮やかな紅色をしていて美しい。中も広く、俺たち四人と一匹程度なら問題なくくつろげる。熱交換モジュールが機能しているおかげで、レンジやIHコンロなどの簡単な調理設備が使えるのもありがたい。
おかげで軽食くらいなら供することができる。
「ありがとう、エイミー。良くやってくれた」
「久しぶりに楽しかったわ。やっぱり、たまには動かないと体も鈍りそうだし」
最大の功労者であるエイミーを労い、彼女のために野菜スムージーを用意する。うちの農園で取れた野菜とフルーツを、カミル監修の下でミックスした特性スムージーだ。鮮度も抜群にいいし、何より美味い。もちろん、原始原生生物は入っていない。
ウェイドには適当にオレンジジュースでもいいか。彼女は飲み物よりテーブルに置いてあるお茶菓子の方に早速手を伸ばしている。勝手知ったる様子で、遠慮もなにもない。
「エミシはびー」
『白湯で結構です!!』
「……コーヒーでもいいか?」
一応、テント内の備蓄として酒類も備えているのだが、〈白鹿庵〉のメンバーはあまり飲まない。というか、リアルで飲めるのは俺とエイミーとラクトだけだ。俺もここ数年は消毒液以外のアルコールには触れてすらいないしな。
ビール缶でも開けようかと思ったが、エミシはぶんぶんと首を振る。コーヒーを用意すると恐る恐るといった様子で舌を伸ばしていたので、砂糖とミルクも追加してやる。
「とりあえず地表到達を喜ぼう。誰が欠けても成功しなかっただろうしな」
『私はただの盾だった気もするのですが……』
「うふふ」
『ひぃん』
管理者を盾にするというエイミーの大胆な戦法がうまくはまった。おかげで俺たち全員、特に負傷はなく軟着陸できたのだから。やはり彼女にオファーをかけて正解だった。
「褒めてもらうのは素直に嬉しいけど、ここからはどうするの?」
祝杯のスムージーを煽り、一息ついてエイミーが切り出す。
テントの窓から見えるのは、灼熱と猛火がうねる地獄の星だ。エミシによる封印措置により、この星は焼却された。今や小麦の一粒たりとも残っていない。それどころか、気楽に出歩けるような環境ですらない。
ここからどうやってロットンラットの痕跡を見つけ出そうか。
「なに、一応考えはある。〈野営〉スキルはテントを建てるだけのものじゃないんだ」
「……? それって、スコップ?」
エイミーの前に掲げて見せるのは重厚な鋼のスコップ。先端に持ち手も付いたプロ仕様。
〈野営〉スキルはテントを建てるだけに在らず。その前段階として地形を整備することも、重要な機能だ。
「地下なら熱も多少はマシだろう。それに、何か痕跡が残ってる可能性もある」
「だからって、まさか掘り進めていくの?」
「こういう地道な作業が大事なんだぞ」
信じられないと目を丸くするエイミー。とはいえ、重要なのは手掛かりを探すことだ。戦場建築士ほど効率的に進めることはできないかもしれないが、塹壕掘りも〈野営〉スキルでできる。穴掘りは意外と得意なのだ。
Tips
◇モグラのスコップ
硬い地面も易々と掘れる鋭利なスコップ。地中深く潜るほど掘削効率に補正がかかる。
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