第2120話「最強の小楯」
赤く染まった砲口が狙いを定め、背部の集光凝熱増幅回路が鮮やかな光を滲ませる。キリリ、と僅かな微差修正と姿勢維持。斥力フィールドが展開され、反動に備える。耐熱温度8,900℃の半溶解性遮熱装甲に包まれた封印衛星が、規定のカウントをゼロとして、内部に蓄積した熱を解放する。
『ほわーーーーーーっ!』
ノズルから流れ出す熱の奔流。大気との温度差によりプラズマがバチバチと火花のように弾け、泡のような真空が次々に浮かんでは沈む。稲妻の轟音と共に直進する熱線が、俺たちへと迫る。
エイミーは左手に掴んだエミシを前に突き出す。管理者機体は特別な機体だ。特殊な高耐久特殊合金がフレームに使用され、更に防御フィールドを常に展開している。調査開拓員規則によって俺たち調査開拓員は彼女たちに危害を加えることができないが、そもそも管理者は傷つけようと思って傷つけられるものではない。
『エイミー! エイミー!? 何を考えてるんですか! わ、私は管理者ですよ!?』
だからこそ、管理者機体は最強最高の盾になり得る。
エイミーによる突然の暴挙に悲鳴をあげたエミシも、毛先を少し焦げ付かせた程度でピンピンしている。それも自己修復ナノマシンによって数秒もすれば綺麗に痕跡すら残さない。
「ごめんね、エミシちゃん。手段は問わないって言ったし、エミシちゃんも手伝ってくれるって言ったし」
『こんなことするなんて聞いてませんが!?』
その間にも熱線は絶え間なく降り注ぐ。惑星の封印を維持するため、無数の衛星は次々と地表を熱する。生命と呼べるような存在が、罷り間違っても存在し得ないように。
エイミーは高高度からの自由落下中でも巧みに姿勢を安定させ、上空を見上げて熱線に応じる。両手に携えた管理者ふたり、その耐久性を存分に生かして。
これが封印衛星による熱線ではなく原生生物の攻撃だったならば、管理者を盾とするような大胆な手法は取れない。調査開拓団規則による同士討ちの禁止や、権限上位者へ危害の禁止に抵触するおそれがあるためだ。
だが、封印衛星はエミシが管理するもの。調査開拓団側に所属するものだ。管理者による攻撃が管理者に向いたとて、そこに罰則規定はない。
『抜け穴! 欠陥! 修正を要求します!』
『落ち着きなさい、エミシ。今はとにかく無事に着地できることを考えましょう』
『ほわーーーーーっ!? そうでした! 落ちてます、私たち! どうするんですか!』
ジタバタと暴れるエミシとは違い、ウェイドは冷静だ。取り乱すことなく状況を把握し、より切迫している問題を確認している。
通常の惑星よりもかなり小さいこの宇宙空間上の惑星は、当然それに比例して大気の層も薄い。地表はぐんぐんと近づき、燃え上がる煉獄が鮮明になっていく。
〈受身〉スキルがあれば高度からの落下にもある程度の対応が取れるが、さすがに宇宙空間からのダイブは限界を突破しているだろう。
『落ちます! 墜落です! ぺしゃんこですよぉおおおっ!』
エミシが暴れ、たまにジュッと毛先を焼かれている。
エイミーと背中合わせに固定された俺は、速度と距離、重力、落下予定地点の計算を続けていた。
「エイミー、ちょっと背中動かすぞ」
「はーい。ご自由に」
背中に格納していたサブアーム三対六本を展開し、それぞれに槍とナイフを持たせる。
『な、何するつもりですか!?』
エミシの声。
俺はカウントダウンを始める。
エイミーのものほど正確ではないが、こちらはある程度ファジーでも問題はない。重要なのは、俺の中でタイミングを合わせられるかどうか。
「風牙流、一の技、『群狼』」
前方、つまり直下方向に向けた突風。俺たちを支える空気の柱。その先端が地表に到達すると同時に、サブアームに持たせていた次の槍とナイフに持ち帰る。
「続き、三の技、『谺』ッ!」
シンプルな二連撃。
風を同じ箇所に叩き込み、空気を圧縮。広がり、波うつ。
「続き、四の技、『疾風牙』ッ!」
密度高く圧縮された空気を、さらに切り裂く。
気体とは思えないほどの手応えを感じながら、ナイフを滑らせる。
そして――。
「『強制ほ――うん? あれ?」
懐に用意していた種瓶が見当たらない。
血の気が引くとはこのことか。慌てて色々な場所を探るが一向に見つからない。そうこうしているうちにも大地は迫ってくる。
「ウェイド!」
『研究所に入る前のセキュリティチェックを突破しようとしてたので、没収しましたが?』
「ありがたいね、ちくしょう!」
しっかり忍ばせていたはずが、ウェイドにはお見通しだったのか。ちょっと周囲の熱を奪って成長して惑星を氷河期にする程度の可愛い種だったのに!
『まったく、何か策があるかと思えば。やっぱり原始原生生物の濫用でしたか』
『言ってる場合ですかウェイド!? 痴話喧嘩は後にしてくれません!?』
『はぁ……。管理者専用兵装、"銀流・生弓"』
ウェイドがくるりと身を翻し、俺と同じく地表に目を向ける。その手には銀に輝く短弓が握られていた。
「いつの間に……。というか、動かせるのか、それ」
『エネルギーなら、いくらでもあるではないですか』
何故か勝ち誇ったように笑うウェイド。彼女の指先が、弦を弾く。
『ほわーーーーーーっ!?』
次の瞬間、周囲の熱が一瞬にして奪われた。
Tips
◇"銀流・生弓"
シード02-スサノオ管理者専用兵装。流麗な小型の弓でありながら、最新鋭の技術と莫大な力が惜しみなく注ぎ込まれている。
供給されるエネルギーを直接固定化した光の矢をつがえ、解き放つ。
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