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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2112/2150

第2112話「二重底の箱」

 縁というものは呪術において重要な概念だが、実体のない曖昧な存在でもある。たとえば、『呪炎伝縁』というテクニックがある。〈呪術〉スキルの中では比較的扱いやすく、メインウェポンとしても選択肢に上がる術だ。それは対象となるエネミーに"怨嗟"を抱かせ、自分との縁を恨みで繋ぐ。

 合縁奇縁とはよく言ったもので、縁はただの絆であったり、愛情であったりするわけではない。


「この小麦には、"疾病"との縁がある」


 研究所のエントランスに展示されていた小麦を見たカエデは、分析の結果を簡潔に話す。その回答を予想していた俺とウェイドは平然としていたが、驚いているのはエミシである。


『縁ってなんですか。この小麦は〈龍骸の封林〉とはまったく関係ありませんよ』


 "急速育成上質小麦-B'662XLL"は当然ながら野生には存在しない。記録を見る限り、原産地は〈牧牛の山麓〉に自生していた小麦のようだが、そこから何百世代と交配を繰り返し、今ではすっかり別物だ。

 当然、〈龍骸の封林〉とは何一つ接点はない。


「うん。問題は、この縁がどこでついたか。小麦自体に直接の関わりがないなら、誰かが縁を繋げた可能性もある」


 ミカゲはさらに分析を続ける。

 呪眼視のことは詳しくしらないが、一つの対象に絡みついた無数の縁が、糸のように見えるらしい。縁が強ければ強いほど糸も太く、その対象との距離が近いほど色が濃くなる。

 エミシの主力商品である小麦ともなれが、そこにつながる縁もおびただしい数になるだろう。それを一つ一つよりわけて"疾病"との縁を調べるには時間がかかる。

 しばらく時間もかかりそうだし、少し暇を持て余すな。


「じゃあ、ちょっと散歩してくる」

『あんまり遠くにいっちゃダメですよ』


 ウェイドに一声かけて、歩き出す。後ろから白月もトコトコとついてきて、俺たちは研究所の中心を貫くエレベーターへ。


『……えっ、は!? ちょ、なんでレッジさんが下に行けてるんですか!? 権限渡してないですが!?』

『まあ、レッジですからね。あなた、攻性電子障壁の反応スピードは0.00025秒以下にしてました?』

『いや、デフォルトのままですけど』

『あの時、30回くらいトライしてましたし、隙間に捩じ込まれましたね』

『ほわーーーっ!?』


 エレベーターの扉が閉まり、ゴンドラは下へ。とりあえず、一番下まで行ってみようか。ウェイドはあまり離れるなと言ったが、Z軸を考えなければさほど移動していないしな。

 階層が下がるほどにセキュリティも厳重なものになり、やがて外部からの通信も遮断される。エミシからの緊急通信もぶつりと途切れて、静寂の世界が訪れた。


「なるほど、この研究所は72階層なんだな」


 増築に増築が重ねられて、そろそろ地圧と地熱への対策も大変になってきたウェイドと比べればまだまだだが、それでもかなりの成長速度だ。いつか底が抜けて宇宙空間に飛び出しそうだが、そうなったらどうするんだろうか。

 などと考えながら、円形の階層をぐるりと巡る。壁にずらりと並んだ大量の植物が、ガラスケース越しにこちらを見てくる。どれもまだ市場には出回っていないし、そもそも大規模な栽培が始まっていない品種なのだろう。厳重に収容され、持ち出そうとすればかなり苦労することが容易に理解できる。


「とはいえ、そう面白いものもないか」


 ちょっとノックしただけで扉が開いたとはいえ、ここから何かを盗むつもりはない。本当に、ミカゲの作業が終わるまでのちょっとした散歩だ。

 エミシは実直に品種改良を続けているだけのようで、ウェイドの植物園のように蠢く怪しげな植物なんてものはいっさいない。原始原生生物が古代の遺物だとすれば、ここにあるのは未来の可能性といったところか。

 だが俺の中の好奇心センサーが反応している。きっとこれだけじゃないはずだ。


「短期間で品種改良を進めようとすれば、無茶な成長促進もやってるだろ。その副作用が発現するものもそれなりに多いはず……。そういったものが全然見当たらないのは、不自然だよなぁ」


 何百世代と交配を繰り返し、より商品価値の高い作物を作り出す。言うだけなら簡単だが、実際にやるとなると時間がどれだけあっても足りない。普通の手法ならば、〈エミシ〉の建設直後から始めていても到底間に合わない計算なのだ。

 何かカラクリがあると予想を立てて、注意深く建物を見ていく。


「んー、そういうことか?」


 エレベーターに戻り、床を軽く叩く。

 アイのように、音の反響で構造がわかればいいんだが、そんな特殊技能は持っていない。しかし、妙に広々と響くことくらいは分かった。


「ちょっと権限を見てみるか」


 エレベーターのコンソールに触れて、ちょいちょいと操作する。

 警備は厳重で俺でも手が出せないが、ハードウェアとソフトウェアの相互認識をズラす程度なら。例えば、このエレベーターが今、71階層にあると誤認させることくらいならできる。

 もう一度、72階層を選んで扉を閉める。

 鉄の箱はゆっくりと動き出し、その下の階層へと辿り着いた。

Tips

◇標準コンソールパネル

 さまざまな機械の操作画面として採用される、共通規格のコンソールパネル。ハードウェアとソフトウェアを一体化させ、ひとつのユニットとして運用することで、UIの差異をなくし、調査開拓活動における利便性を大きく向上させた。


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