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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2111/2149

第2111話「堅牢な研究所」

 エミシ農作物研究所。都市の中央制御区域に置かれている巨大な施設で、管理者からも重要視されている基幹施設のひとつだ。俺たちがその仰々しい扉の前で立ち止まると、エミシはあからさまに怪訝な顔をした。


『ここに何か御用ですか……?』

「そう不安そうな顔をするな。今日は見学だけだからな」

『いちおう私もついて行きます。レッジさんのこと、こう言うところはあんまり信頼できないので』


 エミシも遠慮がなくなってきて何より。

 この研究所では、名前に掲げられている通り農作物の研究が行われている。早い話が、商品としてより優秀な作物品種の開発が目的の建物である。厳重なセキュリティは外部に種が持ち出されないように、という意味と同時に、外部から不特定の病気や不純物が持ち込まれることを阻止する意味もある。

 〈エミシ〉が巨額の富を築き上げた最大の理由は、惑星農場による大量かつ安価な作物だ。しかし量や価格も質が伴わなければ、他の競合に競り負ける。エミシは現状にあぐらをかくこともなく、手厚い投資によってより魅力的な商品作物を開発し続けているのだ。


『ここのエアロック、ウチと同じものですか』

『種苗管理のシステムは大部分をそちらの植物園を参考にさせてもらっていますよ。アレが一番信頼性が高いですし、脆弱性が発見されたらすぐに修正されますし』

『別にそれはいいんですが……いいんですが……ううむ』


 植物を管理する施設といえば、やはり我らがウェイドさんの植物型原始原生生物管理研究所である。あちらは別に管理している植物の商業利用を考えているわけではないが、外部から持ち込ませない、内部から持ち出させないという厳格な収容管理システムを確立させている。エミシとしても、そこから学ぶ部分は多いのだろう。

 そんなふうに予習されているからか、建物の中の構造にはどこか既視感がある。エレベーターが地下に向かって伸びており、円形の階層の中心を貫いている。各収容室が階層に設置され、それぞれが個別に隔離できるような仕組みになっている。


「あだっ」

『ちなみに電子的なセキュリティには標準セキュリティシステムを導入していますよ』

「そりゃ厄介……いや、頼もしいな」


 指先に電流のような刺激を受けて思わず声をあげると、エミシがじろりと睨み上げてきた。ちょっと電子障壁の調子を確認しただけなのだが、しっかり攻性電子障壁までフルセットで導入されていて安心である。

 標準セキュリティシステムは、俺でも破れないように本腰を入れて開発してるからな。逆にそこから何かしらのアレンジを加えてくれていた方が穴も見つけやすいのだが、エミシは素直にそのまま組み込んでしまっている。


『なんだかちょっと残念そうですね?』

「はっはっはっ」


 いやぁ、機密管理がしっかりされているとは感心だなぁ。


『そもそもレッジさんもミカゲさんも、この研究所のクリアランスは所持していないでしょう。閲覧できるのは基礎的な資料と、低ランクの作物だけですよ?』


 ウェイドの植物園と同様に、研究所には独自の権限階層が導入されている。第一階層から順に研究を進め、実績を積んでいけばクリアランスのレベルも上がり、より地下深く――危険度も機密性も高く価値もある作物について知ることができるようになる。

 だが俺もミカゲもこの研究所には今日初めて足を踏み入れた。当然、重要作物の情報を調べることなどできない。ウェイドなら管理者権限で見ることもできるだろうが、それを俺たちに横流ししてくれるような性格でもない。


「別に問題はないさ。俺たちが見たいのは、第一階層にある小麦だからな」


 エントランスである第一階層は、誰でも立ち入ることができる。ショーケースもかねてエミシの主力商品作物が展示されており、そこにも多少の人だかりができている。


『小麦って、こちらのことですか』


 エミシが外周に並んだガラスの一角を指で指し示す。

 そこには土壌に植えられ重く頭を垂れる黄金色の穂がひと束。エミシが大々的に売り出し、日々数十トンから数百トンという規格外の単位で取引される、調査開拓団の主食。これを育て売り捌くために、専用の惑星農場が五つ、定期航路が10分おきに走る厚遇具合。

 小麦、"急速育成上質小麦-B'662XLL"である。

 当初、この都市に持ち込まれたときにはごく普通の小麦だった。それが緻密な鑑定と、根気強い品種改良の果てに生まれ変わった。播種から1時間程度で収穫可能なレベルにまで成長し、2時間で収量最大効率に達する。大粒で白く、味も濃い。

 以前、カエデたちが遭遇したロットンラットが出現したのは、この小麦の生産地だった。


「もしロットンラットの出現に何か条件があるなら、これも怪しい。ミカゲに少し見てもらいたかったんだ」


 呪術師は縁を見る。縁とは繋がりのことであり、非常に抽象的かつ概念的なものだ。そもそも、それがはっきりと存在を保証されたわけではなく、ミカゲが率いる非バンド組織〈三術連合〉の研究によって"縁というものを仮定すればさまざまな現象に説明がつく"と認められた程度にすぎない。

 もし、ロットンラットの出現にこの小麦が関わっているのならば――


「『邪眼視』」


 ミカゲが目を光らせ、ガラス越しの小麦を注視する。

 そして、


「やっぱり、縁ができてる」


 彼は静かに頷いた。

Tips

◇エミシ農作物研究所

 地上前衛拠点シード01EX-スサノオ中央制御区域に置かれた研究施設。主に惑星農場で栽培される主力輸出作物の品種改良を行う。1階層までの入場は無料あが、2階層以降へ入るためには管理者の許可が必要となる。


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