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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2107/2150

第2107話「道は半ば」

 T-3の凶行は未遂に終わり、彼女は指揮官権限を停止されて拘留された。これで一件落着――となれば嬉しいのだが、そうは問屋が下さない。


「あれが龍骸か……」

『今は半径500m範囲を立ち入り禁止にしています。上空も同様にツクヨミ以外のあらゆる航空機、飛翔体、その他の侵入が禁止になっていますよ』


 俺たちがT-3を騙くらかしている間に、アストラたちが〈龍骸の封林〉の毒沼地帯を突破した。そうして現れたのが大地に鎮座する巨大な岩のようにも見えるオブジェクト、通称"龍骸"だった。

 現在も黄黒のテープで立ち入りが制限され、等間隔に並んだ警備NPCが目を光らせている。なにぶん、T-3がこれを攻撃したことによって惑星イザナミそのものが火炎に呑まれたのだ。できうる限り万全の警備体制を整える必要があった。

 T-3が行なったことは仮想世界での出来事だったが、T-2によって構築された仮想世界はほとんど現実と変わらない。ここで同じようにバッテリーを投げ込んだら、今度こそ本当に星が滅却する可能性は十分にあり得た。


「〈月輪の弑殺〉は第二段階。この龍骸の調査が始まってるわけか」

『あなたも参加してくれていいんですよ?』

「俺は初心者だからなぁ」


 ウェイドの視線をゆるりと交わす。やはり下から睨まれるのは馴染み深くていい。いや、睨まれたくはないんだが。

 規制線の向こうでは、特別に許可の降りた鑑定士たちが龍骸を慎重に調べている。山のようなサイズの爆弾が、いつ爆発するとも分からずあるような状況だ。皆、緊張の面持ちで慎重に少しずつ手を動かしている。


「ところで、エミシの方はなんとかなったのか?」


 T-2によって構築された仮想現実は、かなり精巧なものだ。俺とウェイドが〈龍骸の封林〉にいたという嘘以外の全ては現実をそのまま反映している。〈紅楓楼〉のカエデたちがエミシの任務を受けて惑星農場に赴き、そこで"腐り爛れる病獣(ロットンラット)"と遭遇し、苦戦を強いられたのも事実であるはずだ。

 しかし、今のところ〈エミシ〉から農作物の納品が途絶えたという話は聞いていない。


『ああ……あちらも結構な騒動だったようですが』


 ウェイドが遠い目をして言う。


『ロットンラットは、検疫を漏れて惑星農農場に定着してしまった病原体であることは間違いないようです。ただ、最終的には惑星農場そのものに火を放って、無理やり焼却しました』

「やってることがT-3と変わらないじゃないか……」

『小規模な惑星と、こっちの惑星イザナミを同じにしないでください』


 ロットンラットは物理攻撃もアーツ攻撃も効かない厄介な相手だが、火や紫外線といったものには滅法弱い。"腐肉漁り"とは違い、"疾病"の原因である胞子だけが増殖して実体化したものだから、というのがその後の調査での見解だ。

 結局カエデの二刀流では倒すこと叶わず、彼らは撤退を余儀なくされた。しかしその間際にモミジが焼夷手榴弾を投げまくり、更にフゥが強火でそれを煽って、小麦畑に火を付けた。

 惑星全体が可燃物の塊とも言える単一作物だけの惑星農場は非常に燃えやすい。あっという間に惑星全域に火は広がり。小麦畑諸共、ロットンラットも焼け死んだという。


『直後は多少、エミシも調子がおかしかったですけどね。まあ、小麦の惑星農場はまだいくつかありますし、ギリギリ損失はカバーできる程度だったということでしょう』

「大損害には変わりないよなぁ……」


 エミシには今度また、甘いものでも持って行ってやろう。畑の管理と無茶な注文への対応で、気が滅入っているだろうしな。

 そもそも、惑星農場でロットンラットが出現した影響は、各所に波及している。〈ウェイド〉の植物園や、〈コノハナサクヤ監獄闘技場〉、〈ナキサワメ水中水族館〉などなど、各地には環境保持が非常に重要な施設が数おおく存在する。そんなところに胞子のひとつでも持ち込まれた途端に焼却処分しかなくなるとなれば、調査開拓団にとっても大損害だ。

 現在は"疾病"に対する治療薬を開発した〈鉄錠奉仕団〉を筆頭として、検疫チームが結成されて対処にあたっているという。


「どこもかしこも大変だな」

『全くです。T-3ももう少し状況を考慮して欲しかったですね』


 ただでさえ大規模イベントで忙しい頃なのである。

 むしろそこを狙ったと言われれば黙るしかないが、T-3の尋問にあたっているT-1とT-2は、そのあたりの事情も含めて怒っているはずだ。


「っと。そうだな、今回は白月もMVPだ」


 龍骸を眺めながら感慨に耽っていると、背中をグリグリと押される。後ろで寝ていた小鹿が起き出して、ツヤツヤした黒鼻を突っ込んできたのだ。リンゴを渡してやると、シャクシャクと食べ始める。

 白月の霧が、T-3の処理能力を大幅に下げていた。彼女がシミュレーションの世界に気付かなかったのは、その影響も大きくあるだろう。

 白月自身が仮想世界に登場すると認知阻害が弱まってしまうため、彼だけはあの世界にはいない。ずっと霧となって部屋を満たしていた彼もまた、今回のT-3逮捕劇の立役者の一人、いや一匹だ。


「はてさて、この龍骸の死因が分かれば、また忙しくなるな」


 白龍イザナミは今、死因なく死んでいる。龍骸の調査によって死因を明らかにして、それを取り除かなければならない。大規模開拓指令は、ここからが本番なのだった。

Tips

◇特売いなり

 〈ウェイド〉で大量に生産され、放出された稲荷寿司。賞味期限が迫っているため99%OFFとなっている。どなたでもご自由にどうぞ。


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