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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2102/2150

第2102話「純愛の結晶」

『さあ、愛ですよ! 愛をもって愛を広め、愛によって愛を満たすのです!』


 地上前衛拠点シード02-スサノオ。そこは今、華々しく鮮やかな愛に溢れていた。

 管理者代理として都市を運営する指揮官T-3の音頭に合わせて、調査開拓員たちが一斉に動き出す。彼らは輝くような笑顔を浮かべて、都市に敷き詰めるように置かれた巨大な回し車に乗り込んで、必死に回転させている。

 生み出される莫大なエネルギーは中央制御塔へと集められ、バチバチと青い火花を散らしていた。


『愛するのです! 隣人を、同胞を、仲間を、恩人を、仇敵を、全てを! 愛さえあれば、なんでもできる。なんであろうと乗り越えられる。たとえその身が砕けそうなほどの苦難に直面しても、愛することを忘れなければ愛は必ず応えてくれるのですから!』

「「「イエス、マム!」」」

『さあ、一歩ごとに愛を感じましょう。一呼吸に愛を込めて、瞬きに愛を宿すのです。そこにある溢れんばかりの愛を、かけがえのない輝かしい愛を!』

「「「イエス、マム!」」」


 お立ち台の上で朗々と演説を繰り出すT-3に、巨大回し車を動かすハムスターもといT-3ファンクラブの会員たちは完璧に揃った返答で忠誠を示す。


『あなた方の感じている疲労、苦痛、そして快感。それこそが愛なのです。愛が、愛を呼び覚まし、無限に増幅しているのです。だから愛するのです。愛して、愛して、愛するのです!』

「「「イエス、マム!」」」


 T-3は都市に溜まっていく(エネルギー)の総量に笑みを深める。彼女の愛に呼応して集まった調査開拓員たちの愛が、着実に増大しているのだ。


『ねえママ、そろそろいいんじゃない?』

『そう慌てるものではないですよ、トヨタマ』


 中央制御塔にはT-3のそばに控えるように、トヨタマとタマヨリもいる。白龍イザナミの分霊体としてコノハナサクヤの研究に協力していた彼女たちは、T-3の要請を受けてここに呼び出されていた。

 これから何が始まるのか。なんのためにエネルギーを蓄積しているのか。トヨタマたちも詳しい事情は知らない。ただ、中央制御塔に集められた莫大なエネルギーで、T-3が"愛"を実現させようと企んでいることしか聞かされていない。


『ん。そろそろ限界みたい』


 エネルギーが蓄積されているのは、中央制御塔に安置された非常用大容量バッテリー。何らかのアクシデントによって都市の発電設備が麻痺した際に使用される無停電電源装置(UPS)である。

 とはいえ、その容量は非常に大きい。想定される役目が、都市の消費エネルギーを30分間賄い続けるという大それたものであるため、それに見合った容量が設定されている。

 普段から80%以上の充電率を維持されている UPSに、T-3は120%を超えるエネルギーを充填していた。メーカー設定の安全領域もとうに超越し、黒い筒状の筐体は発熱している。青い稲妻を放ちながらもなんとか躯体を維持しているそれが、大規模な爆発を引き起こすまであといくばくもない。


『いい感じですね。町中の愛が、ここに集まっているのを感じます』


 実際、室内は80℃を超えている。管理者機体と分霊体たちだからこそ平然と立っているが、調査開拓員にとっては地獄である。

 T-3は灼熱のUPS筐体にそっと触れて微笑む。


『――愛は溢れんばかり。時は来たれり。それでは、愛を届けましょうか♡』


 触れれば手が溶解するような熱を帯びた筐体をそっと撫でながら、T-3は二人の愛の化身に呼びかける。


『これを持って、〈龍骸の封林〉へ行きましょう』

Tips

◇都市無停電電源装置

 中央制御塔に設置されている特殊大型大容量バッテリーを備えた無停電電源装置。都市に何らかの甚大な災害が生じ、エネルギー供給が途絶した場合に発動する。都市設備各種が安全に停止し、エネルギーグリッドの暴走や危険物品の収容違反を抑止するため、30分以上の間、都市全体にエネルギーを供給できるだけの性能が維持されている。


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