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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2098/2152

第2098話「大人だけの戦法」

 周囲に腐敗を撒き散らしながら現れた巨大なネズミが、迷いなく襲いかかる。前に立つのは〈紅楓楼〉の盾、光である。


「『聳え立つ鋼鉄の城塞』ッ!」


 特大盾、"私の黄金宮殿(ゴールデンパレス)"。それはまばゆい輝きを放ち、大地に深く爪を突き刺して立ち上がる。まさしく宮殿と称するに相応しい威容を誇示して、ネズミの突進を受け止める。

 重厚な金属の塊は、巨獣の衝突を受けても微動だにしない。むしろ、ネズミの方がぐじゅりと身体を潰して悲鳴をあげていた。


「やはり私の盾は最強ですの!」


 おほほほほ、と高笑いをする光。だがそこにカエデが油断のない言葉を差し込む。


「油断するな。こいつが〈龍骸の封林〉にいるネズミと同じなら厄介だぞ!」

「あら? あらあらあらあらっ!?」


 曇りなき黄金が、黒ずんでいく。30センチを超える厚みの鉄塊が、どろりと溶けた。


「こいつは生物無生物、有機物無機物を問わず何でもかんでも"病気"にしちまう。真正面から受け止めたら黄金盾でも溶かされるぞ!」

「くぅ、悔しいですの!」


 光は苦しげな表情をしながらも即座に盾を手放す。瞬く間に特大盾は全て黒に染まり、ぐずぐずと溶けてしまった。そのまま手を離さないでいたら、光までその病魔に冒されていたはずだ。


「『緊急武器配送サービス』ッ!」


 後方へと下がった光は、即座に天に向かって叫びながら手をあげる。直後、空の向こうから閃光がきらめき、黒く重厚なドローンが飛んできた。光の頭上までやってきたそれは、腹に抱えていた小さなコンテナをパージ。ロケットジェットによる誘導を受けながら、落ちてくる。


「盾はまだまだありますの! この程度で追い詰められるほど、柔ではありませんの!」


 光が持ち上げたのは、黄金に輝く特大盾。

 本来なら、一枚だけでも彼女の重量限界ギリギリまで占有する規格外の重量装備だ。今しがた腐り溶けてしまったものを投げ捨てた光の手に、真新しくも同じ黄金の盾がある。

 各都市から最優先の緊急発進で飛ばされる特殊配送ドローンを用いた武器、武装アイテムの輸送。光は、課金アイテム(大人の力)を繰り出した。


「ふふふっ! 何事もそれなりにお金をかけた方が、より楽しめますの! 大人は忙しくて時間がないぶん、お金で解決しますの!」

「言ってることは正しいんだが、どうにも素直に頷けないんだよなぁ」


 真新しい盾を構えた光は、次なる一手を繰り出す。


「『聖なる騎士の宣誓』ッ! 邪悪には聖属性で対抗ですの!」


 黄金盾に銀の輝きが加わる。再びネズミの突進を受けた光は、今度こそその侵蝕に耐える。


「おお! 光ちゃんが耐えた!」

「『聖なる騎士の宣誓』が効果あったか。となると……モミジ、シルバーコーティングを頼む!」

「仕方ないですねえ。お小遣いから引いておきますよ」


 光の対抗策に一定の効果を認めたカエデは、後方のモミジに呼びかける。リュックの奥から取り出されたのは小型のスプレー缶。モミジはそれを、カエデの持つ二振りの小太刀に吹きかけた。

 使い捨てかつ一時的ながら、任意の武器に特定の属性を付与することが可能なウェポンコーティングマテリアル。銀色のそれは、呪いや霊体といった存在への特効薬だ。


「500円で5分も切り放題ってんなら、十分元は取れるだろうさ!」


 二振りの刀を銀にして、カエデは走る。黄金宮殿を飛び越えて、巨大ネズミへと切りかかる。その鋭い斬撃が、容易く腐肉を切り裂いた。


「あー、もう。最近みんな軽率に課金アイテム使いすぎじゃない!?」


 大人たちが好き放題にするなか、フゥは疎外感を感じながらフライパンを振る。


「というか、前線に出るネズミはグラスイーターの亜種みたいって話だったんじゃないの? これはどう見ても大きすぎるんだけど!」


 彼女たちの目の前に現れたネズミは、体高で3メートルほど。もはやネズミという言葉も似合わない、怪物である。


「名前も少し違ってますしね。特異個体かレアエネミーか。とにかく、こんな場所にぽっと現れるだけの何かはあるはずですよ」


 同じく後方支援のモミジも、"腐り爛れる病獣"を見上げて頷く。


「なぁに、対処法は分かってるんだ。滅菌すればいいんだろう!」

「あちらの攻撃はすでに見切りましたの! 私の盾に守れないものはありませんの!」


 前衛二人組は勢いこんで、声高に叫ぶ。カエデは目にも止まらぬ斬撃を繰り出し続けて圧倒し、光の盾が反撃を全て押さえ込んでいる。互いに息のあった連携で、巨獣を封殺していた。

 巨獣は周囲に腐敗を広げるものの、対策をしていれば耐えられる範疇に収まっている。その上、動きは緩慢で、カエデは余裕を持って避けることができていた。


「ねえ、ヨモギちゃん」


 フライパンで米を炒めながら、フゥははたと気が付く。

 あるべきものが、そこにないのだ。


「あのネズミ、HPバーがないよ」


 病獣が咆哮をあげる。腐肉と血が飛び散る。

 カエデは勢いよく切り続けているが、その齧歯獣が倒れる気配はない。それどころか衰弱の兆しもなく、むしろより凶暴さを増しているようにすら見えた。

 それは周囲の大地を黒く腐らせながら、徐々に巨大化していた。


「カエデ君! 光ちゃんっ! ダメだよ、これは。――そのネズミを斬っても倒せない!」


 フゥが声を張り上げる。

 黄濁した目が、今更気づいたかと言わんばかりに笑ったように見えた。

Tips

◇ウェポンコーティングマテリアル

 特殊なナノマシンを塗布することで、武器に特定の属性攻撃能力を付与することができる使い捨てのスプレー。非常に高価なアイテムであり、イザナミ計画実行委員会による管理制限物品に指定されている。


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