第2094話「ガラクタ山」
何はともあれ、"贋物の虚影"を一掃できたのは大きい。
しかも今回異常なのは、"贋物の虚影"が倒れた後もその姿を保っているということだ。情報の爆発に晒されて頭から破壊されたからなのか、その機体はずっと残っている。本来なら、黒いヘドロのようになって形を失い、溶けるように消えてしまうのだが。
調査開拓用機械人形の形を保ったまま倒れた"贋物の虚影"は、宝の山そのものだ。無数の精密部品や希少金属を含んだ機体を、そのままサルベージできるのだから。
『久々に解体したい……。しかも調査開拓用機械人形の解体なんて、そう経験できるものじゃないぞ……』
「我慢しなさい。今のあなたがナイフを持っても、解体はできませんからね」
原生生物ではなく機械人形を解体し、貴重な精密部品や回路といった特殊なアイテムをザックザックと手に入れている解体師たち。その景気のいい姿を側から指を咥えて見ているだけというのはなんともやりきれない。
一応、管理者権限があれば任意のスキルを任意のレベルに設定することができる。しかも調査開拓員ならレベル100が上限であるところを、更に上まで設定できるのだが、あいにく隣の監視員が許してくれそうにない。そもそも現在、ウェイドの管理者権限は代理の方に委任されているからな。
「ていうかこれって論理的におかしくない? 偽物から取れた部品って、偽物じゃないの?」
「"贋物の虚影"に限っては、完全に模倣されてるみたいだしね。死んでも元に戻らないってことは、もう同一の存在ってことなんでしょ」
シフォンの疑問ももっともだが、ラクトの意見も正しい。実際、鑑定士たちが念入りに調べて、太鼓判を押しているのだ。
「これは、ちょっと儲け話の匂いがしますね!」
怪しい笑みで何かを企んでいるヨモギ。
例えばめちゃくちゃ高価な装備やアイテムを所持した状態で"贋物の虚影"に模倣させ、倒したらどうなるのだろうか。そのアイテムまで複製できるとすれば、とんでもないブレイクスルーだ。
いや、技術的な突破というわけでもないから、インチキみたいなもんか。
完全に模倣された存在は、オリジナルと何が違うのか。ちょっとした哲学の問いのような話だ。
「心配しなくても、そう上手くはいきませんよ」
目の前の騒ぎを眺めていたウェイドが、淡々とした口調で言う。
「調査開拓用機械人形を構成する部品は全て固有のIDで管理されていますから。再利用や転用はできません。もし使うとするなら資源に還元した上でのリサイクルでしょうね」
『リサイクルとなると、精密部品のほとんどは価値がかなり目減りするなぁ。レアメタル系に関しても、今は合金が主流だしな』
昨今の〈鍛治〉スキルによる金属加工はかなり発展していて、優れた特性を有する合金が様々開発されている。もはや一昔前の上質精錬鉄鋼でさえ敵わないほどのものが普通に売られているのだ。
以前は何色の鉄鋼がどの割合で混ぜられているのか、二五三赤青白鉄鋼というような形で現していたが、今はそんなレベルではない。混色の鉄鋼を更に混色していくような複雑な工程を経て、特殊な鉄鋼が作られている。
だからこそ現在は"オリハルコン"や"アダマンタイト"といった固有名、更に言えば〈シキシマ重工〉のブラックタングステンや〈アクティブスチールマン〉のシャイニングミスリルといったメーカー名との併記が一般的だった。
原色鉄鋼以外のレアメタルも需要はあるものの、単独で使われることはそうそうない。機械人形から取れる量も微々たるものだし、どれくらいの稼ぎになるのかは微妙なところなのかもしれない。
「見た感じ、装備やアイテムは剥ぎ取れなさそうね」
「武器なんかはただのナノマシンですしね。取れたところで売れませんよ」
どんどんとリアルが暴かれていく。
結局、面白みのないところに落ち着くのが悲しい現実なのだ。
『しかし面白い事実だな。模倣した奴にも一斉送信のデータが受信できたってことは、通信が生きてるってことだろ。もしかして、これまでのTELなんかも全部漏れてたのか?』
「うぐ。その可能性はありますね……。相手はエネミーだと油断してました」
T-2の情報爆弾は、色々と"贋物の虚影"の性質を浮き彫りにした。これはすでにアストラも対策を進めていることだろう。
やはりイベントともなると、一気に研究も進むようだ。
「レッジさん、本隊が動くようですよ」
機械人形の解体も終わり、トーカが呼びにくる。
後方から補給コンテナが届き、全員に稲荷寿司が振舞われたあと、俺たちは先に向かって動き出した。
『稲荷寿司って携行食なのか?』
「片手で食べられるし美味しいし、栄養たっぷり!」
『そうかぁ……?』
シフォンの言葉に首を傾げつつ、先へ向かう。
舗装された道路が終端を迎え、立ちはだかるのは腐臭の漂う毒沼地帯。もちろん、ここに関しても対策がないわけがない。
「そろそろ防護服を着ましょうか」
「動きにくいからあまり好きじゃないんですが……」
「仕方ないでしょ。マスクでも完全に予防できるわけじゃないんだから」
いそいそと科学防護服を着込み始めるレティたち。周囲の他の調査開拓員たちも、ガスマスクを着けたりゴーグルをかけたり、各々の対策を始めている。
「カミル、お願いします」
『仕方ないわね!』
更に帯同するメイドロイドたちが掃除道具を取り出して前に出る。
ここからは清潔さを保つ勝負だ。病原菌を抑え、感染対策をしっかりとして、進まなければならない。
「紫外線照射、いくぞー!」
「オーケー! やっちまえ!」
更に、多脚戦車の上に巨大なライトを載せたものが出てくる。電源の接続と共に、それは強烈な光を放った。
強い紫外線による滅菌。それが有効であることが判明している。
俺たちはゆっくりと毒沼を進み始める。
Tips
◇レアメタル
埋蔵される絶対量が少なく、もしくは入手が困難であり、希少な金属。利用価値が高いものも多く、工業的な需要は大きい。
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