第2092話「情報の絨毯爆撃」
「てぇええええいっ!」
「ちぇすとぉおおおおっ!」
暴力の嵐が吹き荒れる。木々が伐採され、見通しのよくなった〈龍骸の封林〉で、レティとトーカが暴れ回っていた。
大規模な土木工事で環境を整え、戦いやすい舞台を作り上げた後に待ち構えるのは、一時的な環境負荷の急上昇の反動で活発になった"贋物の虚影"との激戦だ。
当初は無防備な重装盾兵をあえて模倣させることで一方的な状況を構築していたものの、それも時間と共に崩れていく。
「カミル、ちゃんと見ててくださいよ!」
『言われなくても見てるわよ! さっさとぶっ潰しなさい!』
今や敵味方が入り乱れる混戦となり、あちこちにレティやトーカ、エイミーやミカゲの姿が溢れている。本物と偽者が一対一に結びついているわけではなく、向こうが大量にいる場合は偽者の方が多くなるのは厄介だった。
カミルを筆頭としたメイドロイドたちが仲間を見極め、識別タグをつけていかなければ、同士討ちも避けられなかっただろう。
「"全部みえる君"15号、いくぜええ!」
どこからか、最近聞いた声がする。
大型のドローンが八枚のプロペラを回転させながら飛び込んできて、地上で戦う調査開拓員たちを舐めるように見極めていく。その直後、彼らの頭上に次々と正体を示す識別タグが表示されていった。
『あいつら、実用段階まで漕ぎ着けてたのか』
つい先日まで試作品として実地検証を行なっていた新機材が、早くも前線で活躍している。今日に間に合わせるには眠れない夜もあっただろうに、凄まじい技術力と執念だ。
「ほ、ほわあっ! ほぎゃ、ほぎゃあっ!」
『ウェイド、あんまり暴れるなよ。見つかったら大変だぞ』
「わ、分かってますよ! 分かってますけど、ほがっ!」
誰も彼もが懸命に戦い続けるなか、俺とウェイドはといえば。戦闘能力のない役立たずが前に出しゃばっても的になるのが関の山である。というわけでモサモサのギリースーツの性能を最大限に発揮して隠れるべく、戦場の端でじっと蹲っていた。
少しでも動けば、"深淵の緑の瞳"の強力な隠蔽効果である〈森羅万象の慧眼〉が大きく減衰してしまう。そのため、たとえ間近に半裸のゴーレムが降ってこようが動じることなく静止を保つ必要があるのだ。
「というかこれ、事前の計画だともう毒沼地帯に入っているはずですよね? ちょっと雲行きが怪しいんじゃないですか?」
大規模な作戦ということで、事前にどの段階でどこまで進むかという計画が公表されている。たしかにそれと照らせば、少し進捗が悪い。
『環境負荷を高めて一気に切り抜ける作戦が、ちょっと見込みが甘かったかもな。"贋物の虚影"の出現速度がいつもより早い気もする』
"贋物の虚影"が厄介なことは、事前に分かっていた。だからこその強行策だったのだが、それが裏目に出た形だ。メイドロイドのような非戦闘員を守りながら戦うというのは、それだけで負担が増大する。その上、NPCは一度失えば復活できないというプレッシャーが、わずかに動きを鈍らせる。それが大規模な軍団に拡大すると、無視できない遅延につながる。
そうこうしているうちにも環境負荷の高まりはエネミーを刺激して、その数を増大させる。森の跡のどこからかわらわらと湧いてくる"贋物の虚影"は、次第にその数でも調査開拓団側を追い越そうとしていた。
「ひぃんっ! 誰か回復お願いします!」
戦闘が長引けば、こちらも疲弊する。
レティのように瞬間火力に特化したビルドは、やがてガス欠を起こす。悲鳴を上げながら戻ってきた彼女を、灰衣に身を包んだ〈鉄錠奉仕団〉のヒーラーが急いで回復させていた。
『よし、ここは俺がとっておきの種を――』
「許しませんよ! ていうかまた私のインベントリに勝手にモノを突っ込んでますね!?」
こうなったら原始原生生物で一発逆転を狙おうと思ったのだが、ウェイドに阻止される。本当ならすぐにでも使いたいのだが、今の俺は『強制萌芽』も使えない。戦況を変えるためには、ウェイドになんとかしてもらうしかないのだ。
「とにかく、原始原生生物は当分禁止です。ただでさえ環境負荷が高まってるんですからね!」
『はぁ。もうちょっと寛容になってもいいと思うんだがなぁ』
「全部燃やしてもいいんですよ!」
強情なウェイドはにべもない。つまるところ、俺たちにできることは何も――。
『地上前衛拠点シード02-スサノオ管理者代理T-2より通達。全調査開拓員に、当都市の運営改善パッケージ第1弾から第49弾までの方針大綱を送付します。精読の上、各自最適な行動を取ってください』
「は?」
激戦の最中、突然のアナウンス。
全ての調査開拓員を対象とした告知だった。その声の主はT-2。その内容を理解した瞬間、俺は思わず身構える。
PON
PPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPON
凄まじい通知音の連続。
頭の中に流れ込む莫大な情報。
その瞬間、戦場は突如静寂に包まれた。
Tips
◇〈森羅万象の慧眼〉
自然そのものを見つめ続けた賢者の目。その澄んだ瞳にはありのままが映し出される。
自他の境も明瞭になり、故にその存在は万物のなかに溶け込む。
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