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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2079/2103

第2079話「万全の感染予防」

 〈鉄錠奉仕団〉の医療者によってレティたちの治療が続けられるなか、俺はコンパスからインタビューを続けられていた。

 毒沼地帯で出会った腐肉漁り(ガベッジイーター)について詳細に話してみれば、彼女も興味深そうに思案を深める。おそらく、というより状況を見れば十中八九、あの鼠が病原だ。問題はなぜ、調査開拓員が病気にかかってしまうのか。

 機械人形は人間とは違い、風邪を引いたり体調を崩したりすることはないはずなのだ。


「これはやはり、腐肉漁りの特異な能力のせいでしょう」

『特異な能力ねえ』


 〈龍骸の封林〉は最前線のフィールドだ。そこに出現する原生生物がただの鼠というはずもない。その前段として出てきた"贋物の虚影"でさえ、高度なコピー能力を有していたのだ。

 それよりも更に厄介な能力を持っていると考えてもなんらおかしくはない。


「状況を鑑みれば、おそらく強制的に対象を病気にする能力、といったところでしょうか」

『シンプルだが、ぶっ飛んでるな』


 なにせ機械すら不調にするとなれば、もはやウィルスや細菌といった次元すら超えている。

 もしかして、あの毒沼地帯も鼠から滲み出した病に侵された姿なのかもしれない。カミルのクリーニングはさしづめ消毒といったところか。鼠という病原体が住み着いたことで、あの毒沼が形作られた。そう考えれば、一つのフィールドに全く別の環境が広がっている不可思議な状況にも納得がいく。


『あの土地は、鼠によって病気になった土地ってことか』

「改めて考えるととんでもないですよ。コピー能力などより、よっぽどタチが悪い」


 生物、無生物を問わず、それどころか土地そのものさえ病んでしまう。もはやそれは呪いと言うべき邪悪だ。どこからともなく無数に鼠が現れたのも、罹患者を支配下に置いていたという風に考えれば……。


『待て、コンパス。このテントは衛生を保ってるのか?』


 嫌な予感が脳裏をよぎる。

 ここはさながら野戦病院のようなフィールド上のテントだ。治療用の器具や機材は充実しているとはいえ、清潔が担保されているわけではない。もしあの鼠が感染者に影響を与えられるのならば、


『ヂュウ……』


 足元で、濁った鳴き声がした。

 椅子を蹴倒すように立ち上がると同時に、小さな影が地面を走る。


『捕まえろ! あれを逃したらまずいことになるぞ!』

「なんという……! 全員、非常事態です! 患者の保護を優先しながら、鼠に警戒しなさい!」


 コンパスの号令がテントの隅々に響き渡り、仲間たちが一斉に動き出す。

 しかし彼らは〈鉄錠奉仕団〉の理念に従い、一切の戦闘能力を持っていない。


「あっちだ! 追いかけろ!」

「くっ、すばしっこい奴め!」


 野生のエネミー相手にノースキルで太刀打ちできるはずもない。あたふたと追いかける者もいるが、嘲笑うかのように足元をすり抜けられている。


『コンパス、団員のなかに〈家事〉スキルレベルが30以上の奴は?』

「10人程度はいます」

『全員でエリアクリーニングだ。とにかく清潔を保って、発症しないようにするしかない』


 危険なのは鼠本体ではない。それが振り撒く無数の病原体だ。技師長によってその解明が進められているが、まだ全容は分かっていない。今はとにかく、清潔を保って鼠を追い出すしかない。


「『エリアクリーニング』ッ!」

「『エリアクリーニング』じゃあっ!」

「『エリアクリーニング』ッッッ!」


 すぐさま家事の心得がある団員たちが箒やモップを携えて駆けつける。彼らは手当たり次第に掃除を繰り出し、鼠が走り回って汚れた部分を浄化していく。

 鼠の足跡を次々と消し、空気も清浄に。


「レッジさん、一応こちらを」

『おお。……マスク?』


 コンパスから渡されたのは、すっぽりと口元を覆うマスク。医療従事者が使用するような、しっかりとしたものだ。


『よくこんなものを持ってたな』


 妙に準備がいい。

 調査開拓員は基本的に風邪をひかないし、マスクがあったところで無用の長物だ。しかしコンパスを含め、〈鉄錠奉仕団〉の面々は全員が例外なくマスクを着用していた。


「我々、一応は医療従事者のようなものですから。役作りといいますか、格好だけでもしっかりしようと思って作っていたんです。面倒なので普段は着けなくなったんですが」


 マスクの下で苦笑しつつ、コンパスが事情を説明する。

 〈鉄錠奉仕団〉は支援特化のバンドであり、彼女たちが帯同するか否かで生存率が2割以上も異なるとも言われるほど。灰色の天使という呼び方も、前線では特に定着しつつあるらしい。

 そんな立ち位置をコンパスたち自身も理解しているようで、宣伝(PR)役作り( RP)もかねてガチ医療従事者装備も全員分揃えていた。

 まさか日の目を見る日がくるとは思わなかった、と言いながらコンパスは全身を完全防備で覆っていく。


「技師長の言葉が正しければ、感染の主体となるのは鼠が撒き散らす無数のカビに似た粒子です。それを防げれば、罹患しない可能性も高い」

『今は少しでもリスクを下げたい。お守り程度かもしれないが、ないよりはマシだろうな』


 機械人形にマスクがどれほど意味のあるものかは分からない。

 だが、時には心理的な安定も重要だ。

 俺もマスクを装着し、鼠を探す。こんなことなら鼠取りも用意しておくべきだったと後悔しながら。

Tips

◇医療用マスク

 医療現場で求められる水準を満たしたマスク。微細な粒子も捉え、ウィルスや細菌、飛沫の侵入を抑止する。かなり息苦しいため発声が難しくなる。


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