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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2034/2090

第2034話「キノコ踊り食い」

 最重要物品保管庫の管理人に直撃した種は瞬く間に芽吹き、根を広げる。5秒間の停電から復帰してエネルギーグリッドからの供給は再開しているが、注がれるエネルギーはすぐさま吸い取られてしまう。


「これであの管理人は無力化できました。でも、状況は変わっていませんよ!」

『分かってるさ。任せてくれ』


 今のままでは敵対するものが管理人から"胎動する血肉の贄花"へと変わっただけだ。見方によれば状況は悪化したとも言える。だが、相手が原始原生生物ならば、俺も対抗策を持っている。管理人ほど理不尽な強さを発揮しない。

 とにかく今は"胎動する血肉の贄花"が完全に町を飲み込む前に、マーリンを捕まえることが最優先だ。


『ちょっと目を離した隙にまた面倒なことになってるわね。どうして大人しくしてられないの?』


 隣を並走するカミルからも容赦のない言葉の棘が飛んでくる。


『そうはいっても、今回は俺は悪くないと思うぞ』


 俺はただミートの空腹を癒すため、管理者権限でできそうなことを模索していただけだ。"虚の鏡"を盗んだのはマーリンだし、犯人だと勘違いしたのは管理人の方である。


『李下に冠を正さずって言うでしょ。アンタがややこしいことしなかったら面倒ごとにはならなかたんじゃないの?』

『はっはっは、カミルは手厳しいな』


 流石は我がメイドロイド。痛いところを突いてくる。それを言われたらこちらも強く反論はできない。


「私が言うのもなんですが、レッジはよくそんな風に笑って流せますね……」

『本当にウェイドが言えたことじゃないな。まあ、カミルには日頃から世話になってるしなぁ』


 NPCにここまで言われると、怒って解雇するプレイヤーもいるだろう。ただまあ、俺としてはカミルの性格もよく分かっているし、彼女も俺のことを理解しているはずだ。であるならば、別段目くじらを立てるようなことでもない。

 それに、


『ふんっ!』


 瓦礫の下から飛び出してきた赤い根を、カミルが箒で叩き飛ばす。

 地中を潜って襲いかかってくる"胎動する血肉の贄花"の根を、彼女は的確に防いでくれていた。


『カミルがいてくれると、考えることに集中できるからありがたいのさ』

『癪だけどこれも仕事よ。てりゃっ!』


 カミルの持つ箒は、ノックバック性能に特化した特殊な武器だ。相手にほとんどダメージは入らないが、代わりに面白いくらい勢いよく吹き飛ぶ。そのおかげで、俺たちは"胎動する血肉の贄花"の猛追を掻い潜りながら安全な距離まで離れることができた。


「レッジさん! すみません、仕留めきれませんでした……」

「うう。不甲斐ない……」


 中央制御区域を封鎖する隔壁を飛び越え、一息つく。そこには先にレティとラクト、ミートも避難していた。彼女たちは保管庫の管理人を倒せなかったことを悔やんでいるようだった。


『いや、三人ともよくやってくれた。レティとラクトの連携のおかげで種を根付かせることができたわけだしな。もちろん、ミートも』


 5秒間の停電の際、ミートは目立った攻撃をしていない。だが何もしていないというわけではない。


『いけるか、ミート』

『……うんっ!』


 彼女はほっぺたを膨らませ、拳を握りしめる。合図と共に、ミートは頭の赤いキノコを膨らませた。


「うん? ちょ、ちょっとレッジ。いったい何を――」


 ウェイドが何か言いかけた。


『胞子ばくだん!』


 空気中、周辺一帯にばら撒かれた無数の胞子。ミートが全力でばら撒いた、細かな種。それらは全て、彼女の一存で動き出す。

 一瞬にしてあらゆる場所に菌糸を伸ばし、膨れ上がる。赤に白い斑目の模様。ぶくぶくと風船に空気が入るように。


「ほわぁああああっ!?」


 ウェイドが悲鳴をあげる。

 中央制御区域を閉鎖する隔壁を乗り越えて、無数のキノコがぼこぼこと溢れ出す。蔓延る赤い根を押しつぶし、瓦礫を押し除け、急激に成長していく。

 ウェイドが種を持ってきたことは予想外だったが、僥倖でもある。活発に動き回っていた管理人を根によって封印してくれた。おかげでキノコによる圧殺を容易にしてくれた。


「ば、馬鹿なんですかあなたは!? 中央制御区域が壊滅しますよ!?」

『安心しろ。中央制御塔は完全閉鎖済みだ』

「そう言う問題じゃないんです!」


 ウェイドが俺の胸元に掴み掛かる間にも、キノコは町を埋め尽くす。

 "胎動する血肉の贄花"は際限なく血肉を喰らい、成長を続ける規格外の原始原生生物だ。だが、こちらも無尽蔵の食欲を持つ。


『ミート、あれはいくらでも食べていいからな』

『うんっ! いっぱい食べる!』


 根が生えれば生えるだけ、葉が茂れば茂るだけ、キノコがそれを飲み込んで喰らいつくす。無限に生長する植物を無限に食べて、キノコは町を埋め尽くす。

 ポコポコと景気よく増殖するキノコはやがて中央制御区域の隔壁も乗り越え、他の区画にまで雪崩れ込んでいく。調査開拓員たちが大きな歓声をあげて出迎える。


「うわあああっ!? な、なんじゃこりゃああっ!?」

「き、キノコ!? キノコナンデ!? アイエエエ!?」

「ひぃいっ!? 来るな、来るなくる――」


 当然と言えば当然だが、キノコは金属を食べない。調査開拓員たちもぽむんぽむんと傘の上で跳ねている。色とりどりのキノコが通路を建物を、町を埋め尽くしていく。

 それはつまり、オタクの逃げる範囲を削っていくことにほかならない。


「なるほど。捕まえられないなら、追い込むということですか。……だからといって、こんな力技……」

『こうでもしないと間に合わないだろ。緊急特例措置ってやつだ』


 キノコの波に追い立てられて、小太りのオタクが一箇所に集められる。

 その様子を見ながら、ウェイドは何故か深いため息を漏らした。

Tips

◇ミートのキノコ胞子

 変異マシラ、ミートが生成する微小な胞子。様々な観測実験および分析を経てなお未解明の部分の多い代物であり、現在のところは"菌糸類の胞子に近似した物質"であると暫定的に解釈される。

 ミートの意思によって自由に成長させることが可能であり、任意のキノコを発生させる。

"自分でキノコ育てて食べればいいのでは?"――管理者ウェイド

"きもちわるいこと言わないで!"――ミート


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