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第2028話「渾身の力で殴る」

 マーリンは姿を変え、調査開拓員に紛れて逃げ出した。いつもならその場にいることも他人には違和感を抱かせないのだが、わざわざ変装して逃げたということは何か事情があるのだろう。

 とにかく、俺たちにとって有利なのはこの状況だ。

 ウェイドと短いやり取りをして、方針は決まった。こちらは管理者権限を活用して、マーリンを追い詰めていく。


『そのためにも、ゆっくりさせて欲しいんだが!』

『盗人死すべし! ウリィイアァアアアアアアアッ!』


 六本のナイフが次々と攻め立ててくる。"虚の鏡"を盗み出したのはマーリンなのだが、保管庫の管理人は何故か俺たちに罰を下そうと襲いかかってきた。何かしら、マーリンによる細工があるのだろう。まったく迷惑極まりない。


「『完全凍結世界(パーフェクトフリーズ)』ッ!」


 番人の体が強烈な寒波に包まれる。一瞬にして極冷の風が番人を凍結させた。それをやってのけたのは、


『ナイスだラクト!』

「足止めならわたしの得意分野だからね!」


 氷属性機術を極めたラクトは、その力を余すことなく解き放つ。管理者とも対等に渡り合うだけの性能を誇る番人を相手に、その動きを止めてみせた。

 だが、長く持つものではない。


『ぎ、ぎぎぎっ! ギルティィイイイイイ!』


 分厚い氷が砕け散り、憤怒の番人が飛び出してくる。

 いっさい衰弱した様子は見られず、むしろより機敏になっている気がする。彼はナイフを振り回し、ラクトが放った氷弾を叩き落とした。


「流石に反応速度がデタラメだね!?」


 短弓から射られた矢をコアとして作られた巨大な氷の塊は、打撃属性も高い凶悪な一撃だ。それが矢の速度で迫るのだから、大抵の敵は対応することもできない。

 だが保管庫の番人は易々と攻撃をしりぞけ、雄叫びをあげた。

 怒り心頭に発する番人が、ラクトへと襲いかかる。


『ギルティィイイアアアアア!』

『うるさーーーーいっ!』

『ギルティ!?』


 そんな猪突猛進を横から飛び込んで弾き飛ばす、赤いキノコ。ミートは番人に臆することなく、真正面からキノコ胞子を叩きこむ。


『ぎるてぃ、ぎるてぃ。意味わかんない! 大人しくしてて!』


 ポコポコポコと空気中に散布された胞子は次々と成長し、瞬く間に番人を包み込む。柔らかそうなマッシュルームに似たキノコだが、全身にまとわりつけば動きを大きく阻害する。

 実際、番人はもこもことシルエットを膨らませ、足元もふらついていた。


「隙を見せましたね! だらっしゃああああいっ!」


 機敏に動き回っていた番人が、わずかに停滞する。

 その隙を虎視眈々と狙っていたウサギが飛び跳ねた。


「『パワーチャージ』『ジャイアントキリング』『致命の一撃』『パワーチャージ』『フルスイング』――!」


 彼女が持つのは小さな片手用ハンマー。だが、その威力は極大まで高まる。長い時間をかけて『パワーチャージ』の習熟度を1,000にしたレティは、その"溜め"を次の段階へと昇華させていた。

 無数の自己バフを早口で唱え、発動しながら、合間に『パワーチャージ』を挟み込んでいく。本来なら5回程度の重ねがけが限界の『パワーチャージ』を、上限を取り払って重ねまくる。

 威力が足りないならば、力を溜めればいい。

 シンプルな帰結へと至ったレティの暴力が、放たれる。


「『インパクトスマッシュ』ッ!」


 必要スキルレベル15という、初期テクニック。

 だがそれだけにシンプルで、威力倍率が非常に高い。係数としてチャージされた力が参照された結果、


『ギィ゜――――ュ――――ッ!?』


 相手に断末魔さえ上げさせないほどの破壊力となる。

 小さなハンマーの一撃を、クロスさせた六本の腕で受け止めたはずの番人は、衝撃を殺すこともできず直線軌道で吹き飛ぶ。その進路上に立ち並ぶ〈ウェイド〉の街並みを次々と貫通しながら。


「ふぉおおおおっ! 爽快!」


 レティにとっても渾身の一撃だったのだろう。

 彼女はキラキラと輝いた目で敵を追う。その表情はいつにも増して晴れやかだ。


『すまん、ラクト、ミート! 5秒だけ任せる! レティと一緒に番人を抑えてくれ』

「まかせて!」

『よゆーだよ!』


 番人は大きく距離を突き放した。レティと共に他二人にも押さえ込んでもらう。その間に俺は管理者権限を用いて都市の監視網へとアクセスする。

 該当する調査開拓員――マーリンが変装する姿を見つけて、それを追いかけているウェイドをガイドしなければ。マーリンには懸賞金もかけて指名手配している。他の調査開拓員たちも、相場が高騰している砂糖を求めて血眼でそれを探しているはずだ。


『逃げ切れると思うなよ、マーリン――!?』


 都市全域の地図に、マーカーを表示。

 そして驚く。


『なん、だ。これは……!』


 そこに映し出されていたのは、無数の赤い光点。マーリンを指し示す唯一のマーカーであるはずのものが、都市全域に散らばっていた。


『ウェイド、状況は!』


 思わず追跡中のウェイド――正確には調査開拓員レッジの機体――にTELを入れる。反応はすぐに返ってきたものの、ウェイドの声は焦燥に満ちていた。


「ちょっとマズいことになりましたよ。――目標が次々と分裂しています!」


 彼女の視界を一時的に覗く。

 ウェイドは小太りの調査開拓員を見つけて、その後を追いかけているようだった。彼女の方がわずかに足は早く、曲がり角で追いつく。そしてマーリンの肩に手をかけたその瞬間、


「ふひーっ! ふひぃいいっ! 捕まりたくないでござる!』


 どろり、と調査開拓員の輪郭が歪み、全く同じ姿の調査開拓員が二人、別々の方向へと逃げ出した。

Tips

◇ 『インパクトスマッシュ』

 〈杖術〉スキルレベル15のテクニック。渾身の力をもって対象を殴る。シンプルにして強力な打撃。


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