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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2024/2098

第2024話「煙のように」

 八本の刃が若干の時間差と共に迫る。槍と解体ナイフで弾こうとして、インベントリに入ってないことに気付く。慌てて避けると、頑丈なはずの収容室の床が砕けた。

 宝物庫の番人の武力を、正直舐めていた。冗談みたいな破壊力だ。


『パパ!』

『ミートは下がってろ。下手に暴れて収蔵品が壊れたり暴走したりしても面倒だ』


 もはや取り繕ったところで番人は止まらない。それよりもミートが収容室を破壊してしまったら、被害はより甚大なものになるだろう。彼女には申し訳ないが、ここは我慢してもらうほかない。


『まさか管理者様に成り代わる者が現れようとは。もはや情け容赦は無用、ということですね』

『多少の情状酌量があってもいいんだぞ』

『侵入者に慈悲は与えません』


 ただの上級NPCとは思えないほどの威力で、攻撃が叩き込まれる。

 八本腕の手数が凄まじいだけでなく、シンプルに全ての攻撃が非常に重たい。レティのハンマーほどとは言わずとも、腕一本で両手持ち武器のチャージ攻撃並の威力を当たり前のように出している。


『クソ、一応こっちは管理者だぞ!』

『確かに機体そのものは管理者として正当なもののようです。しかし、あなたの言動には疑いがある。よって強制退去を執行します』

『ぐわああっ!』


 いくらなんでも強過ぎる。

 そのうえ、今の俺は武器も防具も持っていない。相手と同じ八本腕になることもできない。管理者機体の頑丈さだけで、なんとか凌いでいるようなものだ。


『というか、ここは戦闘制限区域じゃないのか!』

『侵入者の抹消のため、私には戦闘許可が与えられています』

『くそう、そういやそうだった!』


 しかもご丁寧に、管理者権限でも相手の権限を制限することができない。最重要物品保管庫内部にいる限り、あの番人は管理者に匹敵する権限を有している。

 律儀に疑問に答えてくれるのはありがたいが、その間に攻撃が五連ほど叩き込まれる。そのどれもが管理者機体でも直撃すれば行動不能になるような凶悪な威力を宿している。

 こいつを相手に保管庫へ侵入しようと画策する調査開拓員たちは、気骨があるというレベルじゃない。


「――『忍び寄る凍結の細波』ッ!」


 目にも止まらぬ猛連撃に押されていたその時、部屋の温度が急激に下がる。同時に番人の動きがわずかに鈍る。足元を見れば、床を這うように氷が広がり、番人の足にまとわりついていた。

 その出所は、当然彼女だ。

 ラクトの放った足止め特化のアーツが、番人を抑える。


「レッジ、今のうちに」

『避けろ、ラクト!』


 次の瞬間、ラクトの機体が吹き飛んだ。

 強引に足の氷を蹴散らした番人は、自分に害を与えたラクトを標的にして、一瞬で肉薄。その勢いを全てこめた蹴撃で彼女の小さな体を反対の壁に叩きつけた。

 あまりにも迷いのない判断と、捉えることすら難しい俊速。百戦錬磨のラクトが身構えていても、反応すらできていない。

 壁に埋まったラクトは気絶し、ぐったりと俯いている。


『ラクトに手を出すなら、先に俺を倒してからにしろ!』

『承知しました』


 思わず怒りのまま直線的な動きをしようとしてしまった。彼女を巻き込んだのは俺なのだから、番人には八つ当たりに近いのだが。それはそれとして目の前で仲間が倒されるのは気分が良くない。

 彼は律儀に頷いて、再びこちらに向き直る。

 ラクトが稼いでくれた数秒で、多少の準備はできた。


『流石に管理者専用兵装を使うつもりはないが……』


 生太刀と生弓は管理者のために用意された強力な武装だが、私利私欲のための乱発は御法度だ。……なんかその割にウェイドは軽率に振り回している気もするが、そもそもそう簡単に抜いていい代物ではない。原則的に武力行使が禁じられている管理者が武器を振るうことの意味は、存外大きい。

 だからこそ、


『こっちにはこっちの戦い方がある!』


 武器を構える門番の頭上で、突如けたたましい警報音が鳴り響く。

 それと同時に収容室の扉が次々と閉まりはじめた。


『収容違反!?』


 最重要物品保管庫には、"虚の鏡"以外にも数多くの危険物が収められている。そのどれか一つでも不用意に外部へ持ちだせば、甚大な被害が予想される。だからこそ、特権的な地位を与えられた管理人が存在するのだ。

 だからこそ、彼は動かなければならない。

 侵入者の排除や、管理者の偽物の撃破よりも、何よりも優先されるものがひとつ。収容違反が発生した際の、安全の確保である。


『――ッ!』


 番人の動きに迷いはなかった。あっさりと俺に背を向け、閉まり始めている収容室の隔壁の隙間に滑り込む。収容違反が発生している部屋へと急行し、その事態に対処するのだろう。


『……ま、収容違反は起きてないんだが』


 土壇場でなんとかなってよかった。

 番人が出て行った直後、閉じ切った隔壁を見つつほっと胸を撫で下ろす。

 宝物庫の番人そのものは独立したイントラネット環境に身を置いている。そのため、システム側から介入することもできない。しかし施設そのものは違う。中央制御区域に置かれるこの最重要物品保管庫は、強固なセキュリティが敷かれているとはいえ、インターネットで接続されている。

 そこから施設内のセキュリティシステムに侵入し、ちょっとした誤認を促したのだ。管理人が急行した収容室では、変わらず完璧な管理が行われている。


『ラクト……は、しばらく起きないか。ミート、よく我慢してくれたな』

『むぅぅ』


 壁際でうずくまっているキノコの少女に声をかける。ミートなら番人も力づくで倒せた可能性はあるが、そうなれば事態はよりややこしくなっていた。俺の言葉を守ってじっとしてくれていた彼女には感謝しなければ。


『"虚の鏡"を使えば、ミートが食べたいだけ食べることができるはず。――ただ、最近これに似た奴で痛い目にあってな。ちょっと扱いは慎重にしようと思う』


 収容室の中央で布に覆われたまま置かれた鏡。見る者の欲望を引き出し、叶えるという動きは、"失楽園"とよく似ている。だからこそ、気をつけなければ。

 俺はミートの肩に手を置き、鏡の方へ――。


『なるほどねえ。こんなところに置いてあったなんて。どんな侵入者でも問答無用で排除する番人とは、傍観者とは一番相性の悪い相手だよ』


 そこに、妖しい魔術師が立っていた。

 布に覆われた鏡を軽い調子で手に取り、ニコニコと笑っている。


『マーリン!』


 ずっと姿を見せなかった彼女は、宿願が叶ったかのように満足げな表情で――


『ごめんね、レッジ。君はこうでもしないと私に()()()()()からさ』


 手を伸ばす俺の目の前で、煙のように消えた。

Tips

◇最重要物品保管庫管理人

 各都市中央制御区域に存在する最重要物品保管庫の管理、および収蔵品の防衛を担う上級NPC。施設内において強力な権限を持ち、管理者とも対等な立場を取ることができる。

 完全独立したクラスⅩ人工知能搭載型であり、専用機体を用いる。外部からの電子的侵略に備え、イントラネット環境が構築されており、物理的、電子的にも高い自律性を有している。


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