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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2015/2092

第2015話「管理者の代行」

 ――ということで、しばらくの間、俺がウェイドの代役として管理者業務を行うこととなった。とはいえ、リアルタイムに行うのはせいぜい都市の輸出入品管理や警備NPCへの指示だしくらいのもの。案外、大抵のことは自動化されているおかげで、俺がやるべきことはほとんど何もない。


「任せた手前、今更ですが、少なくとも秒間30万件程度の処理が続きますけど、大丈夫ですか?」


 取調室から釈放されたウェイド(俺の姿)が、ある程度申し訳なさそうな顔をしながら確かめてくる。


『現に今のところなんとかなってるしな。まあ、2000年も監禁しちまった謝罪も込めて、羽を伸ばしてくればいいさ』

「んふふーっ! 流石はレッジですね。貴方も多少は見直すべきところが来たようです!」


 失楽園に閉じ込めてしまった負い目もある。その埋め合わせも兼ねての労働と考えれば別に負担というほどでもない。

 ただ、ただのおっさんがピョンピョンと無邪気に飛び跳ねて喜ぶ様を第三者の視線で見るのは、辛いものがあるが。

 ちなみに俺とウェイドの機体交換は本当にイレギュラーなことだ。おそらく、失楽園からの復帰時に何かしらの錯誤があったのだろう。本来なら、俺の方が管理者機体が常時受け付けている情報量に圧倒されて緊急ログアウト措置が発動するところなのだろう。

 一応モニタリングしているリアルの桑名チームとも連絡を取ってみたところ、いい感じのデータが入手できてるから行ってヨシという嬉しそうなメッセージが返ってきた。アイツらは、俺を実験動物としか見ていない。


「レッジさんは本当にいいんですか……? 今なら、レティでもウェイドさんを叩き倒して考え直させることもできますけど」


 心配した顔で物騒なことをいうレティたちも安心させる。


『なに、こっちにとっても悪い話じゃない。――ウェイドがいないうちに都市の構造なんかを調べれば、なかなか良い情報が出てきそうじゃないか?』

「やっぱり、レッジさんを叩き倒して考え直させる方がいいですか?」

『冗談だよ、冗談!』


 管理者業務を代行するにあたり、管理者権限も問題なく付与されている。つまりは管理者以外には立ち入りが禁止されているような区画や、アクセスが制限されているデータベースなんかにもアクセスできるということだ。

 まあ、あんまりフェアな情報にはならないだろうから、積極的に流出させるつもりもないが。制限されるには、相応の理由があるのだ。


『とにかく管理者としての普段の仕事ってのもちょっと興味があったんだ。軽い職場体験のつもりで楽しんでみるさ』


 ウェイドが普段何をしているのか、実のところあんまり分かっていない。大抵の場合は向こうから強襲立入検査を仕掛けてくるか、街中で甘いもので餌付けされているかのどちらかだからな。……その二つしか普段やっていない、というわけでもないだろう。おそらく。


『レティたちはウェイドの方についてやってくれ』

「ええっ!? れ、レティもレッジさんのそ、そばに……」

『俺と一緒にいても、することないだろ?』

「……ふーん。わかりましたよ! ウェイドさんの子守りをすればいんでしょう!」


 俺がやることといえば管理者権限が前提となることばかり。レティたちがいても面白みはないだろう。そもそも、大半は脳内の計算で完結してしまうわけで。

 そう思って勧めたのだが、レティはなぜか如実に機嫌が悪くなってしまった。


『シフォン?』

「おじちゃん、そういうとこだよ」

『ええ……』


 我が姪も冷淡である。

 どういうところなんだか、まったく。


「がっはっはっ! レティ、そんな奴は放っておいて、私の方にきなさい。ぬわっはっはっはっ!」


 上機嫌なウェイドが、豪快に笑いながらレティたちを呼び寄せる。


『もしかして、その笑い声って俺の真似なのか?』


 そんなふうに笑ってるつもりはないんだが……。おっさんの自認はしばしば歪んでいるというし、少し気をつけた方がいいだろうか。


『っと、そろそろ俺も仕事だな』

「仕事? 管理者業務はもう始まってるんじゃないの?」


 長々と話しているうちに、時間が迫ってきた。外に向かって歩き出すと、ラクトが付いてくる。いつもは見下ろしている彼女と視線が同じ高さというのも、妙に新鮮だ。


『〈シスターズ〉でお勤めだよ』

「……えっ?」


 タスクリストにある仕事を口にすると、一瞬ラクトが凍りつく。氷属性機術師のくせに、なんて言いかけたがやめた。今の俺は管理者代行。ただのおっさんではいられない。


「れ、レッジが〈シスターズ〉に……? キャストとして」

『当然。ウェイドの代わりだからな』


 調査開拓員との交流も、管理者の業務のひとつである。もちろん、俺とウェイドが入れ替わっていると言う事実を知らない調査開拓員も多いから、混乱を避けるために完璧に演じなければならない。

 任せろと胸を張ってみせると、ラクトは忙しく視線を巡らせる。何をそんなに困惑しているんだろう。俺も、接客くらいできる。


「そ、それってわたしも行けたり……?」

『チケットさえ手に入れられたらいいんじゃないか? まあ、当日の整理券だともう完売してるだろうし、オークションだと現実味のない価格になってると――』


 チャリーン!


 軽快なSEが響き、ラクトの手には電子チケットが。俺が、というかウェイドがこれから勤務する〈シスターズ〉の入店券であった。


「ふふっ。それじゃあ、よろしくね、ウェイド?」

『あ、ああ……。任せろ……?』


 何やら気迫の籠った目を向けられる。たじろぎながらも頷くと、ラクトはぺろりと唇を舐めた。

Tips

◇〈シスターズ〉整理券

 連日多大な人気を博する〈シスターズ〉の入店のために必要な券。毎日、翌日のぶんの整理券発行受付が行われ、抽選される。

 調査開拓員の手に渡った整理券は、取引や売買で譲渡が可能。


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