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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2014/2092

第2014話「入れ替わり」

 地上前衛拠点シード02-スサノオ。中央制御区域、制御塔。

 スサノオたちによて拘束された俺とウェイドは、そこに場所を移して事情聴取という名の尋問を受けることとなった。


『あぅ。洗いざらい、全部喋ってね』


 警察官のような制服と制帽を被り、手に鞭を握りしめたスサノオがこちらを見上げる。いったい誰が彼女にそんな服装を教え込んだのか……。


『そうは言ってもなあ。さっき話したことが全部だぞ』


 対するこちらはパイプ椅子に座らされ、鎖で雁字搦めにされている。管理者機体の力でも破壊できない拘束具とはいったい。

 隣のウェイドも俺の機体に入ったまま、膨れっ面をして見せていた。


「ウェイドさんの姿と声でレッジさんの口調が聞こえると、違和感が凄まじいですね」

「レッジがくねくねしてる姿も見てらんないよ……」


 取調室の壁の一面はガラス張りになっていて、レティたちがこちらを覗き込んでいる。こういうのは普通マジックミラーにでもなっているはずでは?


「私たちも望んでこんな姿になったわけじゃないんです! 信じてください!」

『あぅう……』


 ウェイドが再び主張を繰り返す。拘束された直後から、ずっと変わらない。


『そんなら、早う元に戻した方がよろしいやんね。なんとかできへんの?』

「う、ぐ。それは……不測の事態であることは変わりありませんし、不用意なことをして取り返しのつかないことになってもいけないと思うのですが……」


 今の俺とウェイドは、ハードウェアとソフトウェアの中身を入れ替えているような状況ともとれる。それならどうにかしようもあるだろう、とキヨウの主張。それに対して、ウェイドはどこか消極的だ。

 機体が入れ替わってしまったのは不慮の事故によるものだと言いながら、それを元に戻すつもりがあまりない。


「……もしかしてウェイド、レッジの身体になったのをあんまり悲しんでない?」

「そりゃまあ、そうでしょうねえ」


 そんなウェイドの反応は、周囲も薄々感じ取っている。普段は厳格な管理者として名を馳せている彼女が、なぜこのイレギュラーを許容しようとしているのか。その理由は、なんとなく分かるだろう。


『あぅぅ。そもそも、どうしてウェイドがレッジになってるのに、シード02-スサノオは問題ないの……?』


 困り果てたスサノオが天井を仰ぎ見る。

 その言葉に、窓ガラスの向こうのレティたちは首を傾げ、はっとした。


「そういえば、ウェイドさんって都市の管理業務を全部やってるんですよね。ウェイドさんがレッジさんになってしまったら、ウェイドさんは管理業務ができないのでは!?」

『ああ、そこは安心してくれ。俺がやってる』

「なるほど、なら安心ですねぇ」


 ウェイドが普段リアルタイムにこなしている業務は、俺が引き受けている。とはいえ、基本的には計算問題を解くようなものばかりだから、別に問題はない。


『あぅ。それが一番の問題……。どうしてレッジが管理者の業務をこなせてるの』


 納得のいかない目が向けられる。しかし、なんとかなっているのだからしかたない。


『と、とりあえず問題は今のところないんでしょう? でしたら、しばらくこのまま様子を見てもいいのでは?』


 椅子に座った俺が、妙にイキイキとして提案する。

 ここまでくれば、誰もがウェイドの胸中を推し量ることができた。


『つまり、アレだな。ウェイドは管理者業務から離れて、休暇を満喫してェってコトだ』


 話を聞いていたアマツマラがざっくりと総括する。

 俺――というかウェイドは顔を真っ青にしてぶんぶんと首を振って否定しているが、周囲は冷淡だ。


『ま、普通はそうはならないもんな。入れ替わった奴がただの調査開拓員なら、下手すりゃ頭が爆発してるぜ』

「なんてことを……。って、管理者の業務を全部肩代わりすると思えば、そうなるのかぁ」


 肩をすくめるサカオ。ラクトがぞっとする。


『ラクトなら案外いけるんじゃないか?』

「わたしはまだ死にたくないよ!」


 軽い気持ちて提案してみると、ぴしゃりと一蹴されてしまった。


『とにかく、今のところは都市にも不具合は出てないだろ? ウェイドの言う通り、しばらくはこのままでも俺は構わないぞ』

「おほっ! 流石はレッジです。あなたには二千年も煮湯を飲まされましたからね。これは贖罪ですよ!」

『あぅ。ウェイドは二千年砂糖を食べてただけ』


 水を得た魚のように話し始めるウェイドは、スサノオのちくりとした一言にも気付かない。

 実際のところ、ウェイドが二千年も失楽園の中で過ごしたのは事実だ。彼女に対して負い目があるのも確かだった。

 俺が都市管理業務を引き受けると言えば、スサノオたちも強くは言えないようだった。少々無理を通している自覚はあるが、しばらくはウェイドの自由にさせてやりたかった。


『あぅ……。分かった。あっちこっちの問題が落ち着くまでは、後回しにする。……あんまり羽目を外しすぎないように』


 俺たちの一件以外にも、調査開拓団は多方面で忙しい。〈黄濁の溟海〉の向こうに現れた新たなフィールドの調査もあるし、イザナギとイザナミのこともある。正直なところ、スサノオたちも俺たちにかまけている暇はないのだろう。

 不承不承といった様子ながら、スサノオも状況の静観を許してくれた。


「やったー! じゃなくて、承知しました。ぬふふっ!」


 完全に感情を隠しきれていないウェイドが、ニヤニヤと笑いながら頷く。

 管理者が一般調査開拓員になるというのは、一種の降格のようなもののはずだが、彼女はずいぶんと楽しげだった。

Tips

◇ポリスコスチューム

 〈シルキー織布工業〉の工房長、泡花の力作。管理者専用機体のサイズにぴったりと合わせた神がかり的な警察制服。これを着れば犯罪者が自ら出頭すると言われる。

"あぅ。逮捕、しちゃうぞ?"――管理者スサノオ

"いい・・・"――泡花


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― 新着の感想 ―
ウェイドよりレッジのほうが素早く業務をこなせそうだなぁ とはいえ絶対何かを仕込むはず
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