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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第35章

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2004/2090

第2004話「貫く音の長槍」

 スノウホワイトを突っ込む。一瞬だけ蔦が枯れるが、数秒後にはスノウホワイトの方が変質してしまう。白い粉であることは変わらないが、サラサラとした上質な白砂糖に変わってしまうのだ。

 枯死剤が効きにくくなる可能性は多少考慮していたが、予想外のペースで対応されてしまう。


『シュガァァアアア!』

「ちっ、むしろ砂糖を取り込んで元気になってるな!」


 自ら変換したスノウホワイト由来の砂糖を取り込んで、ウェイドは更に熾烈に攻撃を繰り出してくる。

 どうやら範囲指定の全物質砂糖化とは別に、蔦に触れた白い物も問答無用で即座に砂糖と化してしまうらしい。


「おじちゃん、大丈夫!?」

「シフォンはあんまり近付くな。白髪が全部砂糖になって禿げてもいいなら構わんが」

「はええっ!?」


 後方からシフォンが心配する声を発する。俺の腕が砂糖化されたように、シフォンの白髪も砂糖化の対象範囲に入る可能性は大いにある。今回ばかりは、彼女を投げつけるわけにもいかない。


「うぉりゃーーーーっ!」


 次々と繰り出される蔦を弾きながらも攻めあぐねていると、上空から威勢のいい声が響く。落ちてきたのは、重い鉄塊。ハンマーを振り下ろすレティだった。


「『インパクトスタンプ』ッ!」


 おそらく、エイミーに投げてもらったか。自由落下で落ちながらも、その身体の周囲にパチパチと小さな障壁が生まれては砕けて消える。エイミーによって守られながらはるか上空から直降下してきた彼女は、その威力を全てハンマーヘッドに乗せてウェイドにぶつけた。


「レティ!」

「ふはははっ! 脆いですねえ、脆いですねえ!」


 思わず叫ぶも、彼女は勝ち誇った表情でハンマーを掲げる。

 繭玉はハンマーの直撃を受けて無惨に破壊され、周囲に飛び散っていた。流石の高威力、破壊力特化の面目躍如と言ったところか。――だが、まずい。


「今すぐ逃げろ、レティ!」

「へ? ほわあああっ!?」


 ぶくぶくと泡立ち、繭玉が起き上がる。

 それと同時に、彼女の周囲に飛び散っていた蔦の破片が白くなっていく。侵蝕は止まらず、彼女の足元にも迫る。地面に置かれていた黒鉄のハンマが、ボロボロと崩れていく。


「は、『ハイパージャンプ』ッ!」


 まさに脱兎の如く、高く跳躍して逃げるレティ。ハンマーを持ち上げる余裕はなかった。


「れ、レティのハンマーがぁあ!」


 ずっと使ってきた相棒が、白く脱色され崩れていく様を見届け、悲鳴をあげる。

 傷をつけるだけなら簡単だ。蔦玉そのものはさほど硬いものではない。しかし一度切り飛ばした蔦の一部は砂糖化の対象となり、即座に取り込まれる。そして、それは敵を強化することを意味する


「まさに、敵に塩を、いやウェイドに砂糖を送るってわけだな」

「言ってる場合ですか! どうするんですかレッジさん。攻撃できない相手をどうやって倒すんですか!」


 相棒が砂糖の塊になって飲み込まれる様を目の当たりにして愕然としたまま、レティが叫ぶ。

 触れれば砂糖に変わり、触れなくとも砂糖にされる。枯死剤すらも効かない。2000年かけてウェイドはずいぶんと我儘になったらしい。


「あれがまだテントだった時代の話にはなるが、基本的な失楽園の仕組みは睡眠時に快適な夢を見せるものだ。つまり、蔦玉のなかのウェイドは、深い睡眠状態にあると言っていい」

「2000年も眠ってるってことですか……」

「普通なら寝疲れして起きるんだがな。よっぽど夢が魅力的らしい」

「つまり、外部から衝撃を与えて起こせばいいんですね?」

「ああ。蔦玉そのものを破壊しない方法もあるはずだ」

「そういうことなら、レティにも考えがありますよ!」


 レティは妙案を懐に忍ばせていたらしい。

 てっきりまた新しいハンマーで蔦玉をぶん殴って衝撃で起こすと言い出すかとおもったが、どうやら違うようだった。

 彼女は一度繭玉の間合いから抜けるように後退すると、誰かにTELを飛ばす。


「お願いします、アイさん。あなたの力が必要なんです!」


 〈大鷲の騎士団〉、副団長。

 後方で指揮にあたっていた彼女が、要請に応じて現れる。


「レティさんからお誘いとは、珍しいですね」


 戦旗を風にひるがえし、副官の伝令兵クリスティーナと共に駆けつけてくれたアイは、意外そうな顔をレティに向けた。


「悔しいですが、今回ばかりはレティは力になれそうにありません。アイさんの大声でウェイドを起こしてあげてください」

「大声……。なんだか納得いきませんが、まあいいでしょう」


 二人もずいぶん仲が良くなったようで、和やかな雰囲気で言葉が交わされる。

 そして蔦玉に向かったアイの表情は、急に真剣なものへと変わった。


「起こして差し上げましょう。――『覚醒失神交響曲』ッ!」


 戦旗をタクトに持ち替えて、軽やかに振り上げる。

 それに合わせて、黄金の金管楽器がずらりと並ぶ。〈大鷲の騎士団〉が擁する音楽隊が、それぞれの音色を共鳴させる。


「アァ――ァアア――ァアアアアアアアーーーーーっ!」


 突き上げるようなソプラノ。

 霞がかった夢の世界を、貫く一本の槍。

 一点に向けて収束させた音の波動が、蔦玉を刺し穿つ。

Tips

◇『覚醒失神交響曲』

 最低演奏人数30人。金管楽器を中心とした高音を多用する激しい楽曲。深い眠りを突き壊し、昏倒するまで刺し貫く。

 広範囲の敵対象に失神のデバフ。味方対象に覚醒のバフを与える。


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