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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第5章【白神獣の巡礼】

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第182話「壁にウサミミ」

 アストラの指揮の下、それは始められた。

 翼の砦(ウィングフォート)の広いホールに移動したプレイヤーたちはそれぞれの取得しているスキルを基に持ち場を分けられる。


「〈機械操作〉スキル持ちはこちらへ。ダマスカス組合のクロウリさんに従って機体の精査と機械の開発を手伝って下さい」


 砦の中にある大規模な工房を任されたのは、ダマスカス組合の長であるフェアリーの青年クロウリ。

 彼と〈機械操作〉スキル持ちのプレイヤーたちには俺たち機械人形の構造の精査と、他の部署から要請される機械の製作を担当する。


「忙しいのに付き合ってくれてありがとうな」


 工房で忙しなく動き回って職人達に指示を出していたクロウリに挨拶しにいくと、彼はいつもの甘ったるい葡萄の匂いを出す煙草を吸いながら鼻で笑った。


「ま、こっちの方が楽しそうだったからな。今回のイベントの主役は戦闘職で、俺たちは武器や防具のメンテナンスぐらいしかやることもない」

「武具のメンテナンスも重要だし、必要不可欠だが」

「ちゃんとそっちに対応できるだけの人員は残してるさ。安心して無理難題を投げてこい」


 小柄ながら力強く胸を叩く姿は頼もしい。

 工房の事は彼に任せ、ホールに戻るとアストラがなおも人員の振り分けを行っていた。


「〈筆記〉スキル持ちはひまわりさんの方へ。〈解読〉スキル持ちはレングスさんの方へ移動してください。詳しい話はお二人から聞いて下さい」


 この作戦を実行するに当たって、クロウリと共に協力を快諾してくれたのが二人だった。

 常に愛用の手帳を肌身離さず持ち歩き、そこに膨大な量の収集した情報を書き留めているひまわりは、俺の知る限りではヤマネすら上回る〈筆記〉スキルのヘビーユーザーだ。

 そしてレングスは数少ない〈解読〉スキル持ちの中では有名なのだ。


「よう、レッジじゃないか。久しぶりだな」

「久しぶり。とは言ってもレングスはまた顔が変わってるし、初対面みたいな気分だがな」


 頻繁にスキンを張り替えるという趣味はなおも継続中のようで、今回のレングスは彫りの深い青目のマフィアのような顔立ちだった。

 本人の趣味なのか知らないが、どれだけ顔が変わっても厳つい威圧感に満ちていることだけは共通のようだ。


「wiki編集者は今の時期一番忙しいんじゃないか?」

「まあ今朝もひまと一緒に駆け回ってたからな」

「ひまわりと呼びなさい!」


 豪快に笑うレングスの腰を叩くひまわり。

 彼女は先日、ラクトたちと共にネヴァに製作してもらった黒薔薇のドレスを着ていた。


「でもまあ行き詰まってたってたのも正直な感想だ。声明文は読んだが、確かに俺たちの視界そのものが改変されてんなら調べても出てこなくて当然だわな」


 相方の猛抗議もものともせずレングスは太い歯を剥く。


「しかし、最初の所はレッジに掛かってるんだろう? しっかり頼むぜ」

「ああ。精一杯努力するよ」


 レングスの大きな手が俺の肩を抑える。

 その時、アストラがホールに残った最後の集団に向かって声を掛けた。


「ここに残っているのは〈撮影〉スキル持ちの方々ですね。あなた方はレッジに従って下さい」


 彼の言葉に合わせて壇上に立つ。

 十数人の視線が集まるのを感じながら、俺はできる限り声を張り上げて口を開いた。


「あー、撮影部門を担当するレッジだ。〈翼の盟約〉のメンバーでもあり、今回の作戦の発案者でもある。一応責任者はアストラが請け負ってくれているが、実質的な責任者は俺だと思ってくれて構わない。

 それで、えっと……。ああ、何をするかだな。俺たち撮影部門は機械眼による改変を受けない本当の風景を写真に収め、俎上に載せる段階を担当することになる。

 正直に言うと、この段階がもっとも重要だし、もっとも成果を挙げるのが難しい所だと思う。

 写真自体を見るのも俺たち自身の眼だからこそ、確認が難しいんだ。

 だからこそ、こうして集まってくれたあなた方の力を借りたい、知識を分けて頂きたい。この閉塞した状況を打破するだけの衝撃を作りたい。

 ――よろしく、お願いします」


 以前にもっと多くの目を前にして大演説した経験があるからか、少しは落ち着いて言えたと思う。

 反応も上々で俺はほっと胸をなで下ろす。


「裏方は俺とルナさんとタルトさんの三人で引き受けますので。レッジさんは総合指揮もお願いします」

「ああ、色々ありがとうな。何かあったらTELで頼む」


 アストラ、ルナ、タルトの三人は、俺では手の回らない部門間の調整や進捗管理など細々とした業務を手伝ってくれることになっていた。

 俺の無茶な提案に付き合ってくれるだけでもありがたいというのに、彼らにはもう足を向けて眠れないな。


「護衛にアイと数人の団員を付けますので、あとで確認してください」

「ああ。何から何まで、助かるよ」


 俺たち撮影部門はフィールドでの活動が必要不可欠だった。

 そのため騎士団から数人の戦闘員を貸し出して貰い、身の安全を確保することになった。


「アイ、今日はよろしく頼む」

「また楽しそうな事をしていますね。まあ、普段の連絡業務よりは楽しいので構いませんよ」


 砦の玄関ホールに撮影部門のプレイヤーを連れて移動すると、そこには武装したアイと騎士団員が並んでいた。

 彼女に声を掛けるとにこやかな表情で答えられ、その裏にある日頃の仕事の忙しさを少し察した。

 副団長としてアストラと騎士団の情報伝達の要にもなっている彼女は、中間管理職として忙しい日々を送っているのだ。


「それで、最初はどこに行くんですか?」

「ああ。まずは〈鎧魚の瀑布〉に行く。そこで朽ちた祠の写真を撮って送って、記録を残しつつ白月と周囲を探索して、祠が出現する前の記録も採集したい」

「分かりました。私たちはすぐにでも出発できますよ」


 気合いを入れるアイたちと共に翼の砦を出発して、ヤタガラスに乗り込む。

 揺れる車内で改めて撮影部門のメンバー同士での自己紹介も交わす。

 撮影部門は俺を除いて十二人。

 俺と同じようにブログを書いている人や、本職のカメラマン、wiki編集者、変わったところではネットでの配信を趣味にしているという人もいた。


「やっぱり〈撮影〉スキルを持ってるだけあって、みんな趣味人系のビルドだな」


 一通りの構成を確認し、俺は簡潔な感想を漏らす。

 趣味人系のビルドというのは、戦闘や生産に特化した“普通のビルド”から少し外れた――まあ言ってしまえば俺と同じような構成のことだ。

 それ故に個々の戦闘能力はさほど高くはなく、現在の最前線でもある瀑布のようなフィールドへ赴く時には護衛を必要とする。


「あの、レッジさん」

「はいなんでしょう」


 撮影部門のメンバーの一人から手が挙がる。

 何か不備があったかと応じると、彼は不思議そうな顔で質問を投げかけてきた。


「今日は白鹿庵のメンバーはいらっしゃらないんですか?」

「ああ、バンドのメンバーは今日は別行動の予定になってる。元々今日は〈翼の盟約〉側で活動するってことになってたからな」

「なるほど……」


 彼はチラチラと俺から視線を外しながら頷く。

 その妙な反応に首を傾げていると、彼はおずおずと俺の方へと指を突きつけた。


「どうした?」

「いやその、後ろ……」


 彼に言われるまま背後へ振り向く。

 小刻みに揺れるヤタガラスの客車には、俺たち撮影部門とアイ率いる護衛部隊のメンバーしか乗っていないはずだったが――


「ぐっ!?」


 通路の奥、後ろの車両へと続く細いドアに嵌められた小さなガラス窓を見た俺は思わず息を詰まらせる。

 そんな俺に構わずドアはゆっくりと開いて、そこから二本の赤い耳がぴょこんと飛び出した。


「れ、レティ……どうしてここに……」


 どこかのフィールドで“祠”を攻略している筈のレティがニコニコと笑顔でやってくる。

 彼女の背後には当然のようにラクト、エイミー、トーカ、ミカゲ――白鹿庵のメンバーが勢揃いしていた。


「わぁレッジさん偶然ですね! レティたちと同じ車両に乗り合わせるなんて! これも何かの縁ですし、本来なら別行動ですが、レティたちも護衛に加わりましょう!」

「……お、おう」


 あからさまな棒読みを聞いて、納得した。

 よく考えればアストラは大々的に声明文を発表していたし、彼女がそれを偶然見ていたとしてもおかしくはない。

 ともあれどうして俺たち撮影部門がこの列車に乗っているのを知ったのかは分からないが……。


「あー、えっと……。皆、護衛が手厚くなった」

「み、みたいですね」


 窓の向こうから見つめるレティを見付けてくれた青年が頬を引きつらせながら頷く。


「まあまあ、護衛が多い分には構いませんよ。私としては楽ができるので」


 アイもそう言ってくれて、レティたちは正式に護衛部隊に加わる。

 アストラに一応と思って連絡すると『無事に合流できたみたいですね!』という爽やかな声が返ってきた。

 どうやら彼が俺たちの居場所をレティに教えたらしい。


「それじゃ、気を取り直して。ウェイドに着くまでに軽く調査の方法を教えよう」


 予想外のメンバー合流があったものの、今後の予定に大きな狂いは生じない。

 俺は撮影部門の面々を見渡して今回のフィールドワークについての説明を始めた。

Tips

◇〈異常耐性〉スキル

 自身の身体に様々な悪影響を及ぼす要因に対する免疫を獲得するスキル。自動的に身体の異常を記録・解析し、傷つくほどに屈強な機体へと進化していく。


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