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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第32章【シュガー&ラブ】

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第1564話「致死量の災害」

 エンジェルの体内から事の成り行きを見守っていた。ミートがテクニックを繰り出した時は驚いたが、それと同時にエンジェルの変化も感じ取ることができていた。水の中でミートの攻撃を喰らったエンジェルは、障壁を展開できずにダメージを受けていた。そのダメージが、直接こちらにも伝わってきたのだ。


「理屈はよく分からないが、多分そういうことなんだろうな」


 エンジェルは今、渾身の力を振り絞ってコンテナを食い破ろうとしている。コンペで作り出された大量の砂糖菓子を、ウェイドがかき集めて保管していたコンテナだ。水没の影響も免れたそれを求めている。

 同時に、ミートもまた糖分を求めている。より具体的にいえば、莫大なエネルギーを。変異マシラという術式の集合を維持するために必要な熱量を補給するために。


「ぐっ、うぐぅ……。エンジェルもかなり限界が来てるみたいじゃないか」


 胸がギリギリと軋むように痛い。エンジェルがダメージを受けるたび、連動するようにその体内にいる俺にもダメージが入ってきていた。

 いや、正確には違う。

 俺とT-3が封じられているのはエンジェルの胸部中央なのだ。それは調査開拓用機械人形における核となる部品――三種の神器の一つ“八尺瓊勾玉”の位置にあたる。そこに俺たちが封じられているという事実は、偶然ではないらしい。

 つまり、何が言いたいかと言えば。


「ウェイド、エンジェルにも砂糖菓子を食べさせるんだ! このままだとミートもエンジェルも死ぬぞ!」


 エンジェルにとっての八尺瓊勾玉は俺たち。胸部に宿した俺やT-3をエネルギー源としている。これまでミートの攻撃やウェイドたちの猛攻を耐えてきたのは、障壁という“テクニック”を展開していたから。だがテクニックの使用にLPが必要であるように、障壁の展開にもエネルギーを要する。エンジェルは、コンペで散々甘いものを食べてきた俺とT-3をエネルギー源にしていた。

 そして、ミートもまたテクニックを使った。本来ならば不可能な事象を、彼女は可能にしたのだ。その代償は大きく、莫大なエネルギーを消費した。それをすぐに補わなければならない。


「ウェイド!」

『〜〜〜っ! 分かりましたよ!』


 何度目かの呼びかけに、ウェイドもようやく応じる。警備NPCたちが動きをとめ、エンジェルはついにコンテナを食い破った。その中に詰められていた大量の砂糖菓子を、一心不乱に食らい始める。

 エンジェルが嚥下するたび、俺は息苦しさが薄らいでいくのを実感した。LPに相当するエネルギーが補填され始めたのだ。


「ミートにも砂糖を」

『分かってますから! いちいち指示しないでください!』


 ウェイドは外から俺のいる方を睨みつけ、ぷりぷりと怒る。コンテナからこぼれ落ちた砂糖菓子を拾い集めて、ミートの方へと運んでいく。

 上質なネオピュアホワイトをふんだんに使った砂糖菓子は、どれも甘ったるいという言葉さえ生ぬるい。一口食べれば舌が溶けるような糖度で、カロリーも非常に高い。栄養素として分解消化する必要すらなく、直接全身へと浸透していくだろう。


『うぅ、もっといっぱい食べないと。お腹が空いたよぉ』

『仕方ないですね。おかわりもありますから』


 ウェイドとミートの会話が漏れ聞こえてくる。ミートは持ち前の大きな胃袋を活かして、次々とお菓子を求める。ウェイドも今回ばかりは彼女の注文に応じて、警備NPCを使って次々とお菓子を運ぶ。


『キュィイイイッ!』

『あなたも滅茶苦茶食べますね!? ちょ、ちょっとは加減してくださいよ!』


 その隣では、コンテナに大きな穴を開けたエンジェルが口の周りにべっとりとクリームを付けている。体のサイズがサイズだけに、ミートよりも更に食べるペースは早い。エンジェルが食べるほど俺の息苦しさも消えていくが、その食欲は底が見えない。

 ウェイドが二人のあまりの食べっぷりに狼狽えているが、その速度は更に加速していく。


『待ってください! もうコンテナが空ですよ! 私が後で食べるつもりだったのに!』


 あっという間にコンテナの中身が底をつく。愕然とするウェイドだが、ミートとエンジェルはまだ食べ足りないようだ。


『むぅ……』

『キュィイイ』


 両者が睨み合う。それぞれの腕とヒレには、我先にとかき集めたお菓子が多少残っている。逆に言えば、あとはそれだけしかない。


『ミートのお菓子! ぜんぶ返して!』

『キュイイイイッ!』


 二人が動き出したのはほぼ同時だった。自分の抱えるものは大切に確保しながら、相手のものを奪おうと襲いかかる。ある程度のエネルギー補給も終わり、二人とも全力だった。

 ミートが拳を繰り出し、エンジェルが障壁でそれを阻む。広がった衝撃波が周囲の警備NPCを吹き飛ばす。


『うわああああっ!? 何やってるんですか! 大人しくしなさい!』


 慌ててウェイドが止めようとするが、白熱し始めた二人は聞く耳を持たない。そもそも変異マシラであるミートを力づくで止められる者は存在せず、それと対等にやりあうエンジェルも同様だ。


『怒りますよ! ていうか怒ってますよ! こ、こらーーーっ!』


 ウェイドが足元でぷんぷん言っているが、ちょっと可愛いだけだ。

 とはいえ、このままエスカレートするとまたウェイドが都市防衛設備を内側に向けるかもしれない。


「ちょっと待ったー!!」


 その時、吹き飛んだコンテナの上から朗々と声がした。そこに立っていたのは赤髪のウサギ――ハンマーを掲げたレティだった。


「お菓子ならレティたちが作ってあげます! だからミートもエンジェルも落ち着いてください!」

『ええっ!? ほんと!?』


 いち早く反応したのはミートだ。彼女がレティに目を向けたことで、エンジェルも止まる。

 背筋を伸ばして立ち上がるレティの後ろには、多くの人影があった。


「レティだけじゃありませんよ。ラクトもエイミーも、アイさんもいます!」

「レティ、私もいますよ?」

「メルさんたちはもう作り始めてますからね!」

「レティ? 私もいますが?」


 レティが指し示すのは、水没したところに仮設で作られた新たなキッチンスタジオ。そこではエプロンをつけたラクトたちが、早速NPWを使ったお菓子を作り始めていた。レティが隣で自分を指差してアピールしているトーカを無視しながらその様子を示すと、ミートとエンジェルも目の色を変える。


『ほんと!? いっぱい食べられる!?』

「ええ、お腹いっぱい食べていいですよ!』

『キュイイイイッ!』


 その時のエンジェルの声は、俺たちにも意味が理解できたように思えた。


『ちょ、ちょっと待ってください。誰がそんな許可を――』

『妾が出したのじゃ』


 驚くウェイドに応じたのはT-1だ。隣ではT-2がNPWの砂糖袋を抱えて立っている。


『うわーーっ!? そ、それ、私が保管していたお砂糖じゃないですか! なんでT-2が持ってるんです!?』

『災害用備蓄倉庫の9割を砂糖にする馬鹿がおるか! 町が水浸しになったおかげで災害時特例が発動したからの。運び出させてもらったのじゃ』

『ぎょえええええっ!?』


 どうやら、ウェイドはコンペで使うぶん以外にも余分にネオピュアホワイトを集めていたらしい。それを非常時にのみ開放される備蓄倉庫に納めていたのが、都市の水没によってT-1に見つかったのだ。

 結果、大量のネオピュアホワイトが供給され、キッチンでは続々とハイカロリーお菓子の製造が始まっている。


『待って、待ってください! それは私の大事なお砂糖なんです!』

『この緊急事態に使わんで、何が災害用備蓄か! 指揮官の権限に基づいて徴収するのじゃ!』

『ひぎゃあああああっ!』


 無慈悲。泣き崩れるウェイドの目の前で、砂糖袋が次々とキッチンへ。それはレティたちの手によって、次々と加工されていく。


『やったー! いっぱい甘いの食べられる!』

『キュィイイイッ!』


 完成した側からミートとエンジェルが、バイキングのように次々選び取って口に運ぶ。ミートの食欲に負けず劣らずのエンジェルで、ハイカロリーな砂糖の塊があっという間に消えていく。


『わ、私の……私の砂糖が……』


 その様子を、ウェイドはただ涙を流しながら見つめることしかできないでいた。

Tips

◇災害用備蓄倉庫

 各都市に用意されている非常用物資の貯蓄を目的とした倉庫。都市が様々な天災に遭遇した場合にのみ開放され、当面のリソースを供給する。応急LPアンプルや治療用ナノマシンといった医療器具のほか、アイテム製造用のリソースなども貯蓄アイテムとして立項される。


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― 新着の感想 ―
[一言] ウェイド虐がはかどってる…w 初期の厳格なバリキャリっぽい感じだったのに おじさん専属係みたいになって 疲れた脳にハイカロリーな甘味をキメる人に…ww
[一言] なんでこんな甘味ジャンキーになっちゃったんだろ…?
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