最強の超能力者は異世界に行く~地球がつまらなかったので、異世界で暮らすことにしました~
某超能力者漫画の影響で勢いのまま書き上げたものです。
「さあ、私達が君のことを保護しよう。安心してくれ」
「……」
スーツ姿の男女が、とある少年に手を伸ばしている。中学生ぐらいだろうか?
少年は、ほとんど無表情だ。
ただただスーツ姿の男女を見詰めている。
「どうしたんだい。さあ、怖がることは無い。私達は、君のような身寄りのない子達を保護して、何不自由なく幸せにする組織なんだ」
(この子が、あの噂の)
(今までは、身内から拒絶されていたから無理だったが、もう誰もこの子を引き取る者はいない)
(この子の力を使えば、私達は……くっくっく)
「黙れ」
「え? う、うわあ!?」
刹那。少年が、小さく呟くと一番前に居ためがねの男性がまるで縄に縛られたかのように固まってしまう。
それを見て、他の者達がぎょっとした様子で一歩後ろに下がる。ゆらりと立ち上がった少年は、まるでゴミを見るような瞳で、言葉を吐き捨てた。
「お前達のような金儲けのために俺に近寄ってくる奴らなんて、もう数え切れないほど会っている。言っておくが、俺は絶対お前達に保護なんてされない」
「な、なにを。私達は、ただ君を純粋に保護しようと」
「わからないとでも思っているのか? 俺がどんな存在なのか知っているくせに。もうわかっているんだよ。お前達が、俺を金儲けのために保護しようとしているのはな」
「ま、まさか心を!?」
少年は、手をかざす。すると、何かに縛られていためがねの男が突然宙に浮く。
「な、なにを!?」
「邪魔」
「うわあ!?」
言葉に呼応するように、めがねの男は吹き飛ばされ背後で待機していた数人を巻き込み壁に叩きつけられる。
「くっ……ハッ!? ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
目を開けると、そこには恐怖の光景が映る。少年の周りに、包丁からハサミ、フォークやボールペンなどが複数浮いている。
「待たない」
「うわああああ!?」
「きゃああああ!?」
容赦のない攻撃。死んだ。スーツの男達は確実にそう思った。しかし……体のどこにも痛みは無かった。どうして? 簡単だ。全て壁に突き刺さっているからだ。
誰にも怪我は無い。
ただ確実に恐怖は刻み込まれた。中には、失神してる者もおり、小刻みに震えているめがねの男に対して、少年は言う。
「じゃあな」
それを最後に、少年はその場から瞬間移動するかのように姿を消した。
「……じいちゃん」
少年は呟く。どこまでも青い空を見上げて、涙を流す。
『お前は、もう自由にいきなさい。お前にはそれだけの力がある。だが、消して私利私欲のために使ってはいかんぞ。お前のその力は、親を早くに亡くしたお前へ神様が授けた守る力なのだから』
「神様が授けた守る力、か」
・・・・・
「青いな……」
少年は、空中に寝そべりながら、青空を見上げていた。彼の背には、高層ビルが並び、人々が楽しげに歩いている。
彼の名は、逆島霊太。今年で、十八歳になるが、すでに人生がつまらなくなっていた。もう、地球に居てもつまらない。
やることがない。刺激が足りない。
まだ十代にして、そう思うのは……彼が地球において異質な存在であるからだ。彼は、普通の人間ではない。何も無いところから炎を灯したり、宙に浮いたり、触れずに物を動かしたり、吹き飛ばしたり。
そう、彼は所謂超能力者なのである。
しかも、世間一般的なスプーンを曲げたりという小さな力ではなく、完全に空想な存在かのような絶対的な力を持っている。
どうして、彼がこんな力を持って生まれてきたのかはわからない。親も、彼が小さい頃に死んでおり、引き取ってくれた祖父は守る力だと言っていたが……正直、これは破壊の力だと思っている。
その祖父も今は亡くなり、霊太は一人身。
親戚だと名乗り出る者達や自分が保護しようと言ってくる者達は多くも居るが、明らかに自分の力で金儲けをしようとしているのは、心を読んでわかっている。だからこそ、霊太は逃げた。
別に一人で過ごしても生きていける。とはいえ、このまま地球で過ごすのも退屈過ぎる。この世界は脆い。かなり弱めて力を使っても、簡単に壊れてしまうのだ。
「どうせなら、別世界にでも行って自由に過ごしたいもんだ」
それこそ空想の存在。
自分の力があるから、異世界というものもあると思っているが。そんなわけがないと霊太は、笑う。
「腹減ったな。そろそろ昼にするか」
本気を出せば、精神統一をすることで一週間は食すことなく過ごすことができる。しかし、それは非常に疲れるうえに、下手をすればその反動で一週間分の食料を食べることになるかもしれないので、極力使っていない。
元々、霊太は小食なのでそこまで食費はかからない。
「ん?」
起き上がった刹那。
何か異質な力の気配を感じた。なんだろう? と千里眼を使い遠くを見詰めると森のほうに光の柱が見える。
(あれは……なんだ?)
気になった霊太は、テレポートでその場へと一瞬にして移動をした。辿り着いたところにあったのは、日本語でも英語でも、他の言語でもない。
わけがわからない文字が書かれており、綺麗な円形。これは、ファンタジーものによくある魔方陣というものだろうか。
ということは、誰かが召喚された? それとも、誰かがこっちの世界に?
「どちらにしろ。ちょっと調べてみるか」
丁度退屈をしていたところだ。これが本物なのであれば魔法は専門外だが。興味はある。先ほどまでつまらなさそうにしていた霊太だったが、楽しそうに笑みを浮かべている。
「そうと決まればまずは」
試しに魔方陣の中に入ってみる。これがあちらからこっちへと召喚するためのものなのか。それともその逆の。
「お?」
霊太が足を踏み入れた刹那。
膨大な光の粒子が湧き上がり、包み込んでいく。
(どうやら、後者だったみたいだな)
ということは、この先には……異世界があるかもしれない。どんな世界なのかは、わからないが。こっちの世界に居るよりは、楽しめるだろう。
なにせこっちの世界では、霊太に敵う者はいない。霊太は、刺激を求めている。わくわくするような冒険を。
「おお!」
景色が変わる。
薄暗く、青白い光の粒子が辺りを照らし、なんとも幻想的なんだろうか。どうやら、霊太は落ちているようだ。
どこまで落ちていくのか? そう思った矢先、一筋の光が見えた。おそらく、終着点。つまりあの光の先が異世界なのだろう。
「……」
光を通り過ぎ、到着したのは見渡す限りの草原。心地よいそよ風が、髪の毛を肌を撫でる。一見すると、よく見る草原だが。
「ふえええん!! なんで、普通のうさぎさんなんですかー!!!」
目の前の光景を見て霊太は異世界に来たと確信した。
なにせ、目の前には。
「愚かなり亜人よ。この我と戦う価値が無いとこれで理解できたであろう? さあ、少々心もとないが。貴様を食し、我が糧としてやろうぞ!!」
「ひいいいっ!?」
十メートルは超えているであろう大きなトカゲ。いや、大きな翼が背中から生えており、二本足で立っており、言葉を喋る。
普通のトカゲではない。おそらく、ファンタジー世界の生き物であるドラゴンだろう。こんな生物、地球にはいない。
しかも、そのドラゴンが見下ろしている少女も異質だ。
地面にぺたりと座り込み、自分の身長よりも長い杖を抱きしめ、涙目でドラゴンを見詰めている。太陽の日差しにより、美しく輝く銀色の長い髪の毛。
そして、キツネのような長い獣耳にもふもふな尻尾。年齢は、十代前半ぐらいだろうか? それほど幼く見える。
「へえ。これが、ドラゴンか」
「ほえ? だ、誰ですか!?」
「異世界人だ」
「え? え? 異世界人?」
少女にとっては、絶望的な展開。しかし、霊太にとってはわくわくが止まらない展開。ドラゴンに恐怖し、もう死んでしまうんだと思い泣いていたであろう少女は、突如として現れ平然とドラゴンと対峙している霊太に、きょとんっとした表情で見詰めていた。
「何奴だ、貴様。我を前にして、悠然と立っていることは褒めてやろう。だが、自ら我が糧になりにくるとは。やはり、人間とは愚かな存在よ」
「糧? 誰のことを言っているんだ?」
「貴様のことだ。わからぬのか?」
まったくわからないとばかりに、霊太は頭を掻き、ドラゴンを指差しながら少女にこう言う。
「なあ、あいつすげぇ偉そうなんだけど。そんなに偉いのか? ドラゴンっていうのは」
「え、えっと。ドラゴンは、世界最古の生物で、普通の人が何人束になっても簡単には勝てない存在なんです。それこそ、強力な魔法を扱えたり、魔剣や聖剣などの特殊な力を持った武器を扱えないと……しかも、目の前に居るのはドラゴンの中でも硬い鱗に守られた【ガイアドラゴン】なんです! 私も、一応上級魔法を扱えますけど、それすら効かないほど硬いんです!!」
上級魔法ということは、魔法の中でももっとも上の威力を持つ魔法ということなのだろう。それを使ってダメージすら与えられない。
つまり、先ほども少女が言ったように、魔剣や聖剣などの類の武器でないと倒すことは難しいということか。
「なるほどな」
霊太は、少女からの情報を聞いたうえで、ガイアドラゴンへと近づいていく。それを見た少女は、驚愕した声で霊太を止めようとする。
「な、なにしているんですか!? 武器もなしにガイアドラゴンに近づくなんて!」
「その通りだ、愚かな人間よ。さあ、その細い体切り裂いてくれる!!」
霊太の全員よりも確実に大きい爪が、容赦なく振り下ろされる。もうだめだ! と少女も杖を抱き目を瞑る。
だがしかし。
「ぬうっ!?」
「え?」
巨大な爪は、霊太に当たる前に静止した。いや、止めたというのが正しいだろうか。これには、ガイアドラゴンも少女も何が起きたのか理解できず驚愕している。
「なぜだ。なぜ動かぬ!!」
「止めたからだが? 自己防衛ってやつだ」
当たり前のように呟き霊太は、垂直に浮く。ガイアドラゴンの目の前に辿り着いた霊太は、興味津々に見詰め、ぐるぐると周りを二週ほど回る。
その間もガイアドラゴンは、ぴくりとも動くことができない。
「へぇ。本当に鱗に覆われているのか。なあ!」
「へ? も、もしかして私のことですか?」
「ああ。あっ、そうえいば名前聞いていなかったな。俺は霊太だ! お前は?」
「ふぉ、フォルンって言います」
真後ろに世界最古の生物が居るというのに、のん気に自己紹介をすることにフォルンはかなり困っているようだ。
それでも、霊太は平常心を保ちそうかと頷く。
「じゃあ、フォルン! お前は、こいつにどんな魔法を放ったんだ?」
「え、えっと。炎の上級魔法、です」
「で? どこに当てたんだ?」
「胸部、です」
それを聞いた霊太は、胸部近くに移動し何度も頷く。炎の上級魔法を当てた部分であろうところには、若干焦げた痕が見える。
ほとんどダメージはないようだが、これも硬質な鱗に守られているからなのだろう。
「き、貴様! 我に何をしたと言っている! 答えぬか!?」
「だから、止めてるって言ってるだろ? さて」
十分にドラゴンのことを調べた霊太は、手をかざす。
「とりあえず」
「ぐおお!?」
静止していたガイアドラゴンの左腕が動き出す。そのまま徐々に後ろへといくが。
「ん? やっぱりちょっと硬いか。じゃあ、ちょっと強めに」
「ぐあああああっ!?」
ゴキン!!
骨が折れる音とガイアドラゴンの悲鳴が響き渡る。
「硬いとはいえ骨は折れるか。やっぱり、ファンタジー世界の生き物とはいえ生き物だな」
腕を折られ苦痛の表情で、二歩ほど下がるガイアドラゴン。霊太は、一度地面に着地してフォルンに問いかける。
「なあ、お前はどうしてガイアドラゴンと戦おうとしたんだ?」
「そ、それは……このドラゴンがこの地で暴れて、占領しているせいで近くの村々が苦しんでいるんです。そこで、村一番の魔法使いである私が」
「誰か一緒に戦ってくれる人とか、助けてくれる人はいなかったのか?」
フォルンに背を向け、こちらを睨むガイアドラゴンと対峙する。
「この近くは、山岳地帯に囲まれていて、依頼を出してもそれまでの道のりが大変過ぎて、それに相手はドラゴンですから。皆……」
「怯えて、誰も助けに来ないか」
それもそうだろう。普通ならば、こんな巨大な化け物挑むなんて命知らずのすること。
「そういうことなら」
一歩、また一歩とガイアドラゴンに近づいていき、呟く。
「俺が助けてやる」
「で、ですが!」
「心配するな。ドラゴンと言っても命ある生き物っていうのはわかった」
「人間風情がぁ!!」
「ぶ、ブレスがきます!!」
激怒したガイアドラゴンが口を大きく開き、光が集束する。これは、好都合だとばかりに霊太は再度手をかざす。
ブレスが吐き出される寸前を狙って思いっきり口を閉ざした。
「ごぶはっ!?」
「成功か」
「す、すごい……あのガイアドラゴンを圧倒してる」
ブレスは外には吐き出されず、体内に押し込んだ。それにより体内で爆発を起こし、ガイアドラゴンは口から煙を漏らしながら仰向けに倒れた。
ぴくりとも動かないガイアドラゴンに霊太は近づき、しばし確認してフォルンのところへと戻っていく。
「終わったぞ」
「ほ、本当に倒したんですか? あっ!」
「ん?」
どうしたんだろうとフォルンの声につられて振り返る。すると、そこで見た光景は光の粒子となって消え去っていくガイアドラゴンの巨体。
残ったのは、二メートル。いや三メートルだろうか? それほどはあろう巨大な緑色の石だった。
「なんだこの石」
「りゅ、龍石です! しかも、ガイアドラゴンの!!」
「龍石ってのは?」
「ドラゴンの力が蓄えられている特殊な石のことです。モンスターだった場合は、魔石と言うんですが。このような特殊な石は、換金したりその力が宿った武器や防具などが作ることもできます」
へぇと興味津々に見詰め、それを浮かせる。
「そんじゃ、さっそく換金しよう。この世界での資金を手に入れるために」
・・・・・
「本当に換金しちゃうんですか?」
「そういうものなんだろ」
異世界へとやってきた霊太は、最初の戦闘でガイアドラゴンを撃退し、見事金になるものを手に入れた。
霊太の横でふわふわと浮いている巨大な石。
最初に出会ったフォルンという少女は、龍石と言っていた。これは、ドラゴンという種族だけが持っているという特殊な石で、その証拠に龍紋というものが刻まれている。
他にも魔石というものがあるらしいが、小さなものには龍紋のようなものは刻まれておらず、刻まれているのはかなり上位なモンスターだけとのこと。
「そう、ですが。強力な武器を作りたい! とか。防具を作りたい! とかじゃないんですか?」
「俺には武器とか防具は必要ない。欲しいのは、生活に必要な資金だ。というわけで、こっちの世界について色々と教えてほしい」
ぱっと見は、一般的なファンタジー世界と認識できるが。それは、こっちの見解だ。こっちの世界に詳しい住人に聞くのが一番。
「わ、わかりました。この世界の名は、オラーヴィ。モンスターとかさっきのドラゴンとか危険な生き物がたくさん生息している世界です。他にも魔法とかもありますが……あなたが使ったのは魔法、じゃないですよね? 魔力反応が一切感じられませんでしたし」
「超能力だ」
「超、能力?」
「簡単に言えば、魔力を使わない特殊な力ってところだ」
正直、霊太にとっても自分の力がどういうものなのかははっきりとわかっていない。だからこそ、わかりやすく短めな説明を選択した。
「そ、そんな力が!?」
「まあ、こっちの世界にもあるかもしれないけど」
「そうなんですか!?」
「いや、知らんけど」
「し、知らない?」
「……」
「な、なんですか?」
純粋な子だなぁ。
霊太の言葉一つ一つを信じて、驚いている。からかいがある子だとは思うが、今はそんなことをしている場合ではない。
「フォルン。あそこが、お前の故郷か?」
「あ、はい! あそこが、私の故郷のアザグ村です!!」
フォルンの故郷までは、かなりの距離があるということで、途中までは霊太が協力して近くまで移動していたのだ。
丁度、村の入り口近くに居た村人が、霊太達の姿を見てぎょっとした表情で固まる。
「み、皆さーん!! フォルン。今帰還しましたー!!」
手を振るのではなく、なぜか杖を振って大声で叫ぶ。
すると、村人達はぞろぞろと入り口近くに集まってくる。その表情は、まるで信じられないようなものを見るような驚愕したものだ。
おそらく、霊太が持っている龍石もそうだが。おそらく、フォルンが無事に帰還したことにも驚いているのだろう。
「フォルン! 本当にフォルンなのか!? おぉ、よく無事で」
「村長!」
村人達の中から、掻き分けるように出てきた老人。
村長のようだ。
「なあ、フォルンよ。そなたの隣に居る御仁が持っている。いや、浮かせている? ものは、もしや」
「はい! ガイアドラゴンの龍石です!」
「なんと!? ということは、フォルンが」
一瞬村人達が、歓喜の声を上げようとしたがフォルンが首を激しく左右に振り、霊太を前に出す。
「こ、この人が倒したんです!」
「なに? この者が。して、この者はいったい」
「霊太だ。異世界人ってところだな」
「異世界人? あぁ、異界人のことですな」
どうやら、こちらの世界では異世界人のことを異界人と呼称するらしい。
「それにしても、フォルン。本当にこの者が」
「はい! それはもう圧倒的でした! こう! 手をかざしたらガイアドラゴンがうごあぁ!? って腕が折れて! ブレスを吐こうとしたらまた手をかざして!」
「待て待て! フォルンよ。さっきから手をかざしてしか言っておらぬぞ!」
「でもでも! 本当に手をかざしただけでガイアドラゴンをですね!! はぶっ!?」
「少し落ち着け」
何か熱弁をしようとしているが、霊太は軽く脳天にチョップを入れて落ち着かせる。
「うむ。とりあえず、村に入ろう。話はそれからだ」
「は、はい!」
「あっ、それよりも。これ。換金したいんだけど」
ずっと霊太の横で浮いていた龍石を前に突き出し、換金したいと言うが。村長を含め、村人達全員が眉を顰める。
(あぁ、なるほど)
確かに、この龍石は換金すれば高額な資金を得られる。しかし、山岳地帯に囲まれた小さな村でこの龍石を換金できるほどの資金があるとは思えない。
いったいどれだけの金額になるのかは最中ではないが、今まで聞いた情報から推測するに、一生暮らせる金額、とまでは言わないが、それほどのものにはなるだろう。
「霊太殿。すまないが」
「やっぱり、換金できないか?」
「うむ。ガイアドラゴンの龍石。しかも、それほどの大きさだとすると。換金できる場所は、王都などの都市にある換金場でないと」
予想通りと言ったところか。そういうことならば、仕方あるまい。できないことを無理強いするほど、霊太も強引な男ではない。
「だが、ガイアドラゴンを倒してくれたお礼をさせてほしい。そこで、こちらの世界のお金を渡そう」
「そういうことなら、お言葉に甘えるとしよう」
「では、準備がありますので。フォルン。その間に、村を案内してやりなさい」
「はい! お任せあれです!!」
一度、龍石は村長達に預けることにした。さすがに、龍石を持ったまま村を歩くと目立つということで。それにいつまでも龍石を浮かせているのも霊太としては疲れるのだ。
「霊太さん! どこを見てみたいですか! と言っても、この村はそこまで広くないので。見るところは、露店とかそういうところしかありません」
「そこでいい。この世界のものをこの目で見てみたいからな」
「……」
どうしたんだろうか? 突然黙ってしまった。何か考えているようだが、どこか恥ずかしそうにもじもじしている。
「あ、あのー。ちょ、超能力って」
「無理だ」
「え?」
まだ言いかけだったのに、即答されてしまったことにフォルンは硬直してしまう。
「超能力は、教えて覚えられるって力じゃないんだ」
「ど、どうして私が言おうとしたことをわかったんですか!?」
「心を読んだからだ」
「それも超能力ですか!?」
「そんな感じ」
ますます感動したようで、耳をぴこぴこと動かし、尻尾を左右に振っている。
(撫で回したい)
「で、でももしかしたらって可能性も!!」
「そうだなぁ。あるかもしれないな。この世界は俺の世界でいう非現実な力がたくさんあるからなぁ」
「ということで、私を!」
「やだ」
「師匠!!」
……まったく人の話を聞いていない。彼女は、霊太に弟子入りして超能力を覚えようとしているのか。
「しょうがねぇなぁ」
理由はわからないが、霊太は頭を掻く。その返しにフォルンは心の底から嬉しそうに尻尾を大きく左右に振る。
だが、次の霊太にとんでもない提案にそれは止まる。
「だったら、俺のペットになれ」
「ペット……ですか?」
にやりと怪しい微笑みをフォルンに向け、霊太は言葉を続ける。
「そうだ。ペットだ。俺に服従し、俺の言うことは絶対。逆らった場合はきつーいお仕置きをされる」
「……」
先ほどの元気はなく、ただ霊太の言葉を無言で聞いている。ちなみに、霊太は本気じゃない。こうでも言えば、彼女は弟子になろうなんて考えを改めるだろうという霊太の判断だ。彼女がなりたいのは弟子だ。
奴隷のような存在ではない。これならば彼女も諦めてくれるだろう。
(ぺ、ペット……それって、弟子じゃないんじゃ)
成功のようだ。彼女の中で戸惑いが生まれている。
「まあ、それが嫌なら弟子になるのは」
(でも、私は……)
「ん?」
戸惑いが、消えた?
「なります」
「は?」
杖をぎゅっと、握りしめ真っ直ぐ霊太の瞳を見詰めフォルンは再度叫んだ。
「なりますっ。あなたのペットになります!!」
「……嘘、だろ?」
予想外だった。普通に考えてあり得ないことだ。ペットだ。弟子なんかじゃない。奴隷のように、扱われると言ったのにも関わらず、彼女はそれでも。
「ですから、弟子にしてください!」
「待て待て。本当に」
「なんでもします。だから、あなたの強さを私に!」
押しが強い。どこまでも真っ直ぐで、どこまでも純粋な瞳を向けてくる。
「そ、そうだ。えっと……」
もっと攻めてくると思いきや、なにかを思い出したかのように、周りを見渡し、とある店へ走っていく。
なんだと、心を読もうとしたがそれよりも早くフォルンが戻ってくる。その手には……首輪が。
「こ、これを!」
「まさか、俺に付けろってことか?」
「はい!」
本気だ。彼女は本気の本気だ。わざわざ首輪まで自分で用意をして、更に霊太本人付けさせようとしている。
(こ、これで。首輪をつければ私は……ぺ、ペットに)
いつでもいいぞとばかりに、目を閉じて首輪が取り付けられるのを待っている。霊太は、受け取った首輪とフォルンを交互に見詰め、ため息を漏らしながらも首輪を。
「ほら、付けてやったぞ」
「ありがとうごさいます、ご主人様!!」
深々と頭を下げて、霊太をご主人様と呼ぶが。
「普通に霊太でいい」
「え?」
「さっきのは、冗談だよ。ああ言えば諦めてくれると思って言ったんだ」
それなのに、フォルンは完全に信じきって首輪までを。きょとんと霊太を見詰める彼女の頭を軽く二回タップして、背を向ける。
「行くぞ、弟子」
「……い、今なんて!?」
嬉しそうな声音で問いかけるフォルン。
が、霊太はそのまま歩き出す。置いていかれないように、ついていき、隣に並んだところで今度は霊太のほうから問いかけた。
「なんで、そこまで強くなりたいんだ?」
「……認めて貰いたい人がいるんです。お姉ちゃん、なんですけど。今は、故郷を離れて、都会で活躍しているんですけど」
これほどまで必死になるということは、彼女の姉は相当才能があるうえに、妹に対して自分より強くなってみせろや、認めて貰いたいと思わせるほどの存在ということだろう。
「そうか……言っておくが、俺は教えるのが下手だ。そんで、お前に教えられるようなことはないに等しい。それでも、いいのか?」
「大丈夫です。一緒に居ることで、色々と学んでいきますから!!」
超能力者と魔法使いでは、根本から違う存在だ。本当に教えられるようなことはないだろう。なによりも、霊太自身誰かに教えるような存在でもない。
(……あそこで、かっこよく助けたのが悪かったのかな)
しかし、あそこで助けないのも人として気分がいいものではない。
「師匠。さっそくですが、村案内をしますね!!」
「さっそく、師匠呼びか……」
だが、この世界を楽しむために、彼女という存在と居るのは……悪くないかもしれないと、元気にはしゃぐフォルンを見て、霊太は笑みを浮かべた。
退屈だったので、のほうがよかったかなと投稿してから思うスタイリッシュだった。