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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢に転生しました。運命を変える為に努力します・・・・

作者: さくら

___________彼の君は、全ての聖獣の友で有り、愛しめぐしこであった・・。


その乙女は、唯一無二の聖獣姫せいじゅうきなり。


____________________________歴天宮 著












*************************

この世界には聖獣と呼ばれる存在がいる。


【星歴2014年 小雪しょうせつ


「____________お前の霊獣との絆を封じ、この学園から追放する!貴族の位を剥奪し、お前が今まで虐げてきた、平民としての生活を送るがいい。これは、国と学園の決定だ。もちろん、おまえの生家である橘家たちばなけも異存はないそうだ。」


群衆の最前列に立つ、朱金の瞳の少年の宣言が、その場に響き渡った。

少年は、まだ幼さをのこしながらすでに上に立ち命令し、導く者の風格をそなえはじめている。

そして、その朱金の瞳には蔑みの色が浮かんでいた。


一歩後方には憎々しげに睨みつける3人の少年がおり、さらにその場を取り囲むように沢山の生徒達が同じく、忌々しげに立ち並んでいる。


「・・・・お心のままに。」


少女は制服のスカートをつまみ、まるでこれから舞踏会でも始まるかのように、優雅に堂々と完璧な淑女の礼を返したのだった。


『・・・あぁ。やっぱり“変わらない”・・・』


お辞儀をしたままの少女が思うのは、諦めと、自身への不甲斐なさだった。


『一応・・・頑張ったんだけどなぁ。・・・・ごめんなさい。』


少女の脳裏には【頑張った過去の自分】が浮かんできていた。





***************************************


【星歴2008年 立春】


『・・くも・・・・やく・・・・やくも・・八雲!』


遠くに感じていた呼び声が、大きくなり、私の意識ははっきりとした。

眼をあけると、思いのほか至近距離に少年の顔があり、ぎょっとした。


「・・熾輝しき・・・近いわ」


「なっ!急に倒れたかと思ったら・・・なんだそれは!!」


「だって・・目を開けたら至近距離に貴方の顔があるから・・びっくりするじゃない」


「それはっ・・・もういい。気分はどうだ?動けそうか?」


「ええ。大丈夫よ。」


熾輝の立てた膝にもたれかかる様に横たわっていたが、ひとまず自力できちんと座り直す。

私という重石が無くなり、立ち上がった熾輝が手を引いて立たせてくれた。


「ごめんなさい。昨夜、夜更かししたせいできっと貧血になったんだわ」


「そうか。・・・屋敷へ戻ろう」


不機嫌そうにしている熾輝にそう伝えると、ますます渋面になり、そう言うなり、屋敷へ踵をかえしてしまった。


「八雲、済まない。・・心配ならそう言えばいいものを」


「大丈夫です。ほむら様」


かけられた言葉は謝罪だが、面白がっているのが丸わかりの表情で姿を現したのは、熾輝の守護聖獣である、鳳凰族の焔様。

深紅に金を溶かしたような髪と瞳を持つ、人間でいえば20代後半から30代の男性の姿をした、美丈夫だ。


「婦女子が具合を悪くしているんだ。ここは優しくエスコートするとこなんだがなぁ。

まぁ、あいつはお子様だからな。」


「お心使いありがとうございます。・・・・さすが“女ったらし”ですわ」


「おい!誰がそんな真似。」


糸水しすい様とらん様にお聞きしたのですが、間違っていましたか?」


「おおいに!」


「では、お二人にもう一度お話を伺ってみなすわ」


「いやっ・・それはだなぁ・・・あぁ、うん、そうだお前にまだ早い話題だ。もうすこしたてば自然に・・・」


焔様がなにやらはっきりしない事を、もごもご仰っていますが、熾輝の後を追って屋敷への道を歩き出した。


その後、具合が悪いならさっさと休めと、熾輝により私付の女官である近江おうみに預けられた私は、早々に床に付き、次に目を覚ますと夜の闇の中、雪見窓の障子から微かな月明かりが差し込んでいた。


「八雲、具合はどう?どこも痛くない?」


床についた私の枕元には10歳程の少女が座っており、白絹の着物に橘の意匠をあしらった紫紺の帯を締めた、真珠を溶かした様な白髪に紫水晶の瞳を持った美少女だ。

私の守護聖獣、白蛇族の夜刀やとが心配そうに私の額に手を置いている。


「ええ、大丈夫よ。心配かけてごめんなさい」


私が本当に大丈夫なのが伝わったのか、夜刀はふんわりと微笑んでくれた。

そのまま“ぽすん”と寝ている私の胸のあたりに倒れこんでくる。

まるで子猫でも抱いている様な心地よい重みに幸せな気分になり、無意識にさらさらと流れる白髪に手が伸びていた。


「いつでも、そばに居るね」


そう言い残し、彼女の姿は見えなくなったが、そばに“居て”くれるのははっきりと感じられる。

幼い頃から、私の一番傍にいた優しい気配。


私は物心つく事から、自分になんとも言えない違和感を覚えていた。名門貴族の家に生まれ、高位の聖獣とも絆を結んだ、この世界の一握りの人間のはずなのに、他人に傅かれる事、もっと言えば何でも思い通りになってしまう事に慣れないのだ。

確かに、名門貴族の家に生まれたのに、身分がある事に違和感が拭えない。


それを声高に主張する事は出来ず、なるべく他人と関わらず、目立たない様にしてきた。

だが、私が思う常識を持ち出し、驚かれた事も多々ある。

実は、熾輝や真白達と交友が出来たのも、そんな出来事が切っ掛けだ。


後になって言われたのだが、熾輝達は自分と変わらない年頃の少女が、使用人であろうと、同じ貴族であろうと、地位でなく個人として尊重しているのにとても驚いたそうだ。


私に言わせれば、例え雇用関係にあったとしても、そこにあるのは立場の違いだけだ。身分がある事を理解できても、納得することは出来なかった。


そして、今日、唐突に違和感の正体を理解した。私には今世だけでなく前世の記憶があったのだ。


(私の名前は橘八雲たちばなやくもで今年12歳になる、橘家の長女。白蛇族の夜刀やとの守護を受けている。父様、母様、2歳下の弟がいる。・・うん。大丈夫、ちゃんと私は12年間生きてきた八雲だわ。そして、もう一人の記憶は“地球”の“日本”で生まれ育った、仰木さくら)


さくらはごく普通の少女だった。普通に育ち、学校へ行き、26歳の時職場の同僚と結婚した。

そして、家族に看取られて穏やかに生涯を閉じた筈だ。


特別な事は何も無いが、穏やかな日常の中で、さくらが大好きだった漫画がある。

タイトルは【聖獣姫~運命の乙女~】だ。

いわゆる王道のファンタジーで、ヒロインが様々な困難に立ち向かい、魅力的な男性キャラとの恋愛を繰り広げる。

そんな物語に登場する、傲慢で他者を思いやることの出来ない悪役令嬢の名は、【橘八雲(たちばなやくも】という。


そう、私と同じ名前だ。


そして、ヒロインと共に物語を盛り上げる4人の主要キャラの一人が、南方守護を務める南守家の長男、南守熾輝なんじゅしき。さっきまで一緒に居た、彼だ。


残りの3人は、それぞれ東方、西方、北方守護職を務める、東守家の東守蒼真とうじゅそうま、西守家の西守真白せいじゅましろ、北守家の北守大地ほくじゅだいちという。真白は私と熾輝と同年の12才、蒼真と大地は1つ下の11才。家格的に釣り合う私は全員と面識がある。


間違いない。

ここは、【聖獣姫~運命の乙女~】の世界。もしくは其れに類似した世界なのだろう。

そして、私は悪役令嬢に転生したのだ。私は八雲(私)の未来を思い出そうとしているが、記憶は断片的で上手く行かない。


(確か、八雲は貴族の位を持つ者以外には、まったく価値を認めず、聖獣の力を使える自分たちの道具としか思ってなかったのよね。そして、伝承の聖獣姫は自分だと勝手に思い込んでいた。なのに、聖獣姫の候補として平民出身のヒロインが現れた事に切れて、妨害、嫌がらせ、果ては殺害に走る。・・・)


(すごいわ・・まだ、10代の少女とは思えない。ある意味貴族そのもの・・・)


のんきに感心していたが、徐々に思い出してきた“八雲の未来”に私は暖かいはずの室内で、寒気を感じ始めている。これ以上思い出しても碌なことにならない気がひしひしとしていた。


それでも、数刻をかけて漫画の八雲について未来を思い出すことができた。

私の結論は“私が頑張れば何とかなりそう!”である。


結局、ヒロインと四方守護家のヒーロー達に阻まれ、全てが明るみに出ることになり、処罰されることになるのだが、その内容は、聖獣に見放され、貴族の位をはく奪され、実家からは縁を切られての貧民窟へ追放である。おまけに貧民窟以外での生活を禁じという条件がプラスされた。さらに言えば、私の醜聞がもとで、実家も没落し家族は離散することになる。


他人に傅かれて生きてきた八雲が一人で生活出来るはずもなく、やがて娼婦となり病を患い死んで行くこととなる。最後まで、自分の行いを顧みることなく世を恨み河川敷に躯を晒すこととなるのだ。


(この場合、八雲がヒロインに何もしなければ、そもそも罰せられることもない。

万が一物語どおりに追放されたとしても、私に一人で生活出来るだけの知識があれば、問題無い事になる。なら、いまからそれを身につければいいわ。

それに、気に入らないなんて下らない理由で他人を貶める人間だと、周囲の皆さんに認識されるなんて、屈辱以外の何物でもありませんわ。断固回避!!!!!)


普段の私は感情の起伏が表に出難いのか、何を考えているのかわからないとよく言われる。

自分でも珍しいと思うが、なんだかとてもやる気がみなぎってきた。


絶望的な未来を思い出してしまった私は、なんとしても回避すべく、硬く決意したのだった。







**********************************:

【星歴2013年 春分】


あれから5年の月日が流れ、私は17才になっていた。


この世界では、15才になると政治、経済、司法、礼儀作法など自分の将来にあわせ、高等知識を学ぶための学園に入学する。

1学年では全ての学科の初歩を学習し、2学年~4学年の3年間でさらに専門的な知識を学ぶことになる。


幾つかある学園の中でもこの宝珠学園は貴族かもしくは、特別な才能を持った者にみが入学を許されるトップクラスの学園だ。


現在私は経済専攻科の3年に在籍している。

貴族、特に高位貴族の女子は礼儀作法専攻に所属するのが通例だが、私は何とか両親を説得し、経済選考に籍を置いている。


もしろん、“将来”の為に。


たとえ、追放されたとしても、せめて普通の生活を送る為には経済の知識が一番実用的だ。

もしもの時は、雑貨屋兼カフェをできればと密かに思っている。


経済を専攻する代わりに、貴族令嬢としての振る舞いもおろそかにしないことを約束させられたので、通常授業以外にもなんだかんだと忙しいのだが、時間を見つけてこっそりと町でアルバイトの様なことも時折やっている。


*************************

「―――――お~いっ!酒の追加頼む!!」


「さくらちゃん!!おれは、酒と猪肉の甘辛煮追加ね~」


「おれは、酒と鰯の梅肉煮」


「こっちは、トンカツ!ああ、もちろんビールの追加もっ」


「はい。少々お待ちくださいませ」


酒場のあちこちから同時にかかる声に、慌てない事を心がけ順番に対応していく。


「あんた達っ。そんなに注文してお支払いの方は大丈夫なんだろうね!!」


「客になんてこといいやがる!!それよりとっとと、酒と料理を出しやがれっ」


奥の厨房から、女将の威勢のよい声がかかると、赤ら顔の男たちが途端にぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた。


「言われなくても、もうすぐさ。少しは大人しくまってな!あんまり騒ぐとさくらちゃんが怖がるじゃないか」


・・・・・・・・・・・。


女将に一喝され、それまで騒いでいた男達が一斉に口をつぐみ、心配そうに私の様子をうかがている。


「あら、大丈夫ですよ。皆さんが親切でお優しいのを知っていますもの。・・でも、心配してくださってありがとうございます。女将さん。」


「この飲んだくれどもが、親切で優しいかい?」


「はい」


女将の呆れるような面白がっているような表情での問いに、私は心からの思いを口にした。


「いい年した男どもが嬉しそうにホホなんか染めるんじゃなんよ。しまりの無い顔だねぇ・・・。さぁっ、酒と料理の準備が出来たよ。さくらちゃん、頼んだよ。」


私の返答になぜが一瞬驚いた様な顔をした女将が、客席を見渡しそんなことを口にした。

なんで、お客さん達が赤くなっているのかよくわからなかったが、料理の準備が出来た様なので、急いでテーブルと注文を確認し、ホールへと飛び出して行った。


“さくら”・・私の前世での名前。

今の“私(八雲)”として働けないのは寂しいし、嘘を吐くのは申し訳ないが、こうして働いているのがとてもしっくりくるのだ。


どこにでもある、ありふれた酒場で、今日もいつもと変わらない、騒がしくも優しい一日が過ぎて行く。


****************



私はあまり目立たない事、人を不快にされない事、贅沢に慣れない事を心がけ、この5年をすごしてきた。


家の都合で熾輝と婚約することは避けられなかったが、恋しないように注意してきた。

ヒロインと熾輝が親しくなった時に、過激な行動に走らないように。

努力が報われたのか、今の所私の破滅への道は見当たらないと思う。


「宝珠のほうじゅのきみこちらの書類の確認をお願いします」


真白ましろ幼馴染の貴方にまでそんな呼び方をされるのは、不本意ですわ」


「いいじゃないですか、学園で一番の女性に贈られる呼び名なんですから。私の幼馴染は十分に相応しいと思っていますよ。ねっ熾輝。」


「そうだな。本性はともかく、非の打ちどころの無い令嬢ぶりだからな」


「こら!そこは素直に褒めるところだろ」


真白の問いかけに、含みのある返答をした熾輝に対し、姿を見せた焔から注意が入った。


「ぼくも八雲は素敵だと思うよ」


続いて真白の聖獣である雷虎族のらんも姿を現し、控えめに主張する。

嵐は本人?の性格もあり、あまり自分の意見を主張しないのだが、今日は珍しく、わざわざ姿を現した。


「焔様、嵐様、過分なお言葉をいただきありがとうございます。お気持ちは嬉しいのですが、熾輝の言うとおりです。私は“令嬢”らしくないですもの。それから、真白は欲目だと思います。」


「ひどいなぁ、私は本心からそう思っているのに」


「知りません」


「八雲、オレもお前は魅力的だと思うぞ。」


焔様が重ねてそう言いながら、私の髪を一房すくい口づけた。


「・・あまりからかうのはお止め下さい。焔様・・」


さすがに恥ずかしくなった私は、焔様から髪を奪い返し、顔を背けた。


「からかってなどいないさ。八雲は本当に魅力的だぞ。」


「・・・・さすが・・・“女ったらし”・・」


「だからつ!!その呼び方は止めろと何度も言っているだろ!!!」


「貴方にそんな事を言う資格などありません。淑女の髪に許しも無く触るなんて・・・」


「・・・八雲・・大丈夫?」


抗議する焔様を無視していると、凛とした女性の声と、鈴のような可憐な少女の声がした。


蒼真の守護聖獣である糸水しすいと夜刃も姿を現し、焔にそう抗議する。

糸水は青銀の髪と紫紺の瞳をもった30代位の女性体で、本性は水竜だ。聡明な大人の女性の佇まいは私の密かな憧れである。


2人に続き大地の守護聖獣である霊亀族の東雲しののめも姿を現したが、会話には加わらず、2人の背後に佇んでいる。

琥珀の髪と瞳をもった壮年の男性体で、普段から寡黙で東雲の声を聴いたことがあるのは、大地の他には数える程だろう。


ふと気づくと、焔、糸水、ときどき夜刃のじゃれあいはまだ続いており、他のメンバーは面白そうに静観しているようだ。


気のおけない人間と聖獣の友人に囲まれ、他愛のない会話に興じるこの時間がなんと幸せな事か。

いつまでもこの穏やかな時間が続くのだと錯覚していまいそうだ。

来年・・・来年になればいよいよ物語が始まる。ヒロインである雨宮沙良あまみやさらがこの学園に転入してくる。


運命を変える事はできるのか?・・それとも。

どんな結末を迎えるかは私にもわからないが、精一杯抗ってみようと思う。

私と友達のために。


***************************


【星歴2014 ― 】


「・・・・南守なんじゅ様。そのようなこと私は存じ上げません。なぜ、私が雨宮さんの制服を、ハサミで切り裂かなければならないのですか」


「見苦しい、沙良が目撃したと言っている。素直に非を認め公式の場で謝罪するのが当然だ」


「沙良さんへの許し難い、暴言により、あなたを処罰します」


「沙良先輩にカンニングの濡れ衣を着せよとするなんて許せない、それ相応の覚悟はしておいてね」


「沙良ちゃんが優しいといって、何をしても許されるわけではありません。彼女一人に、クラスの雑用を押し付けるなんて。・・恥を知りなさい。」


東守とうじゅさま「西守せいじゅ様「北守ほくじゅさま。私(達)はその様なこと身に覚えありません。」」」」


「沙良が「沙良さんが「沙良先輩が「沙良ちゃんが嘘を言うはずない」」」」



ある女生徒は学園を去り、ある男子生徒は全校生徒が集まる中、跪いての謝罪を強要された。

ある教師は生徒に淫らな行いをしたとして、糾弾され、職を失った。


これが、この国で一番高貴な学び舎”宝珠学園”の今なのだ。


そして、学園中の尊敬を集めていた東西南北の守護職を務める4家の嫡男達は、学園の運営を放棄し、ただひたすらに沙良の機嫌をとり、わがままを受け入れている。


現在、まがりなりにも学園運営がまわっているのは、ただ一人“宝珠の君”のみが今まで通り力を尽くしているからだ。


それでも、学園のそこかしこで問題が起こり、生徒たちの負の感情が学園内を覆っていく。


そして、沙良が編入して来て半年が経つ頃には、沙良に表だって異議を唱えるものは八雲ただ一人となった。


なんども、やんわりと注意を促すが、沙良の態度が改まることはついになかった。

それどことか、八雲が平民出身の沙良を妬み嫌がらせと行っていると噂されるようになり、

いままでの彼女への嫌がらせは全て八雲の指示であったといわれるようになった。

そしていつの間にか生徒の全てが八雲に辛くあたる様になった。


そして聖獣達との関係も少しずつおかしくなっていった。

・・・・あんなに傍にいた夜刃さえ、その存在を近くに感じることが出来ない。

他の聖獣たちが気軽に八雲をからかいに現れることも無くなった。


そして今日、ついにあの漫画のクライマックスシーンを迎えることとなった。










【星歴2014年 小雪しょうせつ


「____________お前の聖獣との絆を封じ、この学園から追放する!貴族の位を剥奪し、お前が今まで虐げてきた、平民としての生活を送るがいい。これは、国と学園の決定だ。もちろん、おまえの生家である橘家たちばなけも異存はないそうだ。」


高らかに宣言した熾輝が私をにらみつけてくる。

大勢の生徒達も同様に。


そして、先頭に立った熾輝が私の前に小さな紙の束を放り投げてきた。

無言でそれを拾うと、内容に目を通してみる。


それは、生涯貧民街での生活を義務付けるものだった。

他の地区への移動は認められない。



「・・・・仰せのままに」


そう言って礼を取ると、私は静かにその場を後にした。


私一人が生活していくのにさして不安は無い。そのための5年間だったのだから。

ただ、親しい者たちとの別れがこんなに辛いなんて・・・・


結局何も“変える事”の出来なかった私の未来には何が待ち受けるのだろうか・・・

私は今までの守られた世界からたった一人、一歩を踏み出した。







「さようなら・・・・宝珠の君、いいえ橘八雲様。」


騒動から少し離れた東屋に一人の紅茶色の髪をした少女が佇んでいた。

くすくすと小さな笑い声をもらす少女は確かに愛らしい容姿になんとも言えない不吉な影をまとわせている。


「ああ~、やっと目障りな八雲がいなくなってくれた。原作とは少し違うけど、目の前から居なくなってくれたのはホント清々する。これでこの学園もイケメンも私のもの。上手くいけば四方守護家も・・

ほんっと楽しみ、何をしようかなぁ・・・・何を買ってもらおうかなぁ・・」


「沙良・・おまえは・・・・・」



楽しそうに夢想する沙良の傍らに灰銀の髪と瞳を持った青年が姿を現した。彼は沙良の守護聖獣である天狐族の羽衣はごろもだ。


「羽衣、あなたも私を楽しませてね。・・・でも、どうせなら私は焔の方がよかったな。あっちの方がタイプだし。まぁいいわ。我慢してあ・げ・る。うれしいでしょ?」


「・・・・・・・・・」


羽衣は何も言わず頷いた。


「さぁ、私の素敵な下僕達のところへ戻りましょ!」



そういうと、沙良は羽衣の様子を気にすることも無く、学園へと歩き出した。



・・・・・運命は・・・

少しづつ・・・動き出す。





::::::::::::::::::::::::::::::

黄牙おうが、いつまでこの茶番を続けるつもりだ」


真っ暗だが、不思議と視界の効く空間に、5つの影が集まっている。


一人は、深紅に金を溶かした様な髪と瞳の青年。男性らしい逞しさと、やんちゃな少年の様な雰囲気を合わせもった魅力的な青年だ。


一人は、青銀の髪と紫紺の瞳の落ち着いた雰囲気の女性。

一人は、白い髪と翡翠の瞳の大人しそうな少年。

一人は、琥珀の髪と瞳の厳格な雰囲気の壮年の男性。


四人と対峙する位置で、丸まるようにうずくまる黒髪の幼い少年は、深紅の髪の男の問いに反応し、閉じていた瞳を開いた。

黒曜石の瞳は、底なしの闇の様に何も映さず空虚だ。


「結末までだよ、ほむら。」


「・・・・・・本気でか?」


「もちろん。・・・・・・糸水しすいらん東雲しののめ、君達も邪魔しないでね。まぁ、出来ないだろうけど」


「・・・・・・・・」


焔と呼ばれた深紅の男性に、少年が答えると、さらに何か言いつのろうとする他の4人を、牽制するように少年の言葉が続けられた。


「ぼくは、全てが思い通りになり、“世界”から愛された人間が、どう生きるのかを知りたいんだ。今は毎日楽しくてしょうがないよ」


言葉とは裏腹に少しも楽しそうでない少年を前に、四人はあきらめを孕んだ表情で互いにため息を吐くことしか出来なかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白かったです! 続編希望です! 聖獣側?に黒幕がいるとしても、婚約者筆頭に攻略対象が救いようがないですね。 無実の人間を主人公以外にも、ヒロイン()のワガママで陥れているんだから。…
[一言] 続編希望です! 八雲ちゃん頑張れ!
2015/01/12 17:39 退会済み
管理
[一言] 初めまして。 大変楽しんで読ませていただきました。 >゜)チラッ 続編書いてもいいんですよ?
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