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氷のお姫様

作者: 小鳥 歌唄

ずっと北。

ずっとずっと北の方にある、ある国では、一年中雪が降っていました。

毎日毎日雪ばかりが降る国。そんな国には、氷で出来た大きなお城がありました。

お城は中も外も氷で出来ているため、お城に住む人たちは、いつも洋服を何枚も重ねて着て、体が冷えないように暖かくしていました。

氷のお城には、一人の可愛らしいお姫様が住んでいました。

お姫様は、体をいつも冷やしておかなければ、体温がどんどんと上がり、やがてその小さな体は燃えてしまうという、不思議な不思議な奇病にかかっていました。

だからお城は中も外も、全て氷。

常にお姫様の体を冷やさなければなりません。

ある日の事、お姫様はいつものように、朝目が覚めると体を冷やすために、氷水のお風呂に入っていました。お姫様のお世話をしているメイドたちは、皆もこもこの分厚い服を何枚も来ています。

「はぁ・・・あなたたちはいいわね。体を温める事が出来て。」

お姫様はため息交じりに言います。

たとえ体を冷やさなくてはならないとは言え、氷水のお風呂が寒くないわけではありません。

人より少し、冷たい程度に感じます。しかし、それでも暖かいぬくもりと言うものに、お姫様は憧れます。

「はぁ・・・私も素敵な毛皮のコートを着てみたいわ。」

お姫様はまたため息交じりに言いました。

「お姫様は、こんなに寒くても薄くて素敵なドレスを着られるではありませんか。」

一人のメイドが、お姫様をなだめるように言いました。

「そうですよ。お姫様は白くて美しい肌を、みんなに見せびらかす事が出来るではありませんか。」

別のメイドもなだめるように言います。

「それもそうね。」

お姫様は、二人の言葉に納得をしました。

朝食を終えると、お姫様は町へと出掛けて行きました。

一日二回、お姫様は必ず町へと出掛けます。その理由は、他所から来た旅人の話を聞くためでした。

一年中冬のこの国は、町から出ない限り、他の季節を知る事が出来ません。お姫様は、決して味わう事の出来ない、他の季節の話を聞くため、毎日一日二回、町へと出掛けています。

一日二回と決まっているのは、例え雪国で寒かろうと、お姫様の体は、氷のお城の中にいなければ、どんどん上がってきてしまうからです。

町に下りると、広場には沢山の人だかりが出来ていました。お姫様は不思議に思い、人だかりへと行きます。

「それでいて、香しいかおりがするのだよ。」

広場の中心には、一人の男の旅人が、両手を大きく広げながら、周りの人たちに話していました。お姫様も、旅人の話に耳を傾けます。

「沢山の種類の鳥もいる。花も沢山の種類の花が咲き、色とりどりの世界。こんなに着こまなくても平気なんだ。暖かくて、昼時は穏やかにみんな外でランチを食べる。」

皆は、興味津々に旅人の話を聞きます。

旅人は、春について話していました。

「あの方はどこからいらしたの?」

お姫様は、お付きの兵士に聞きました。

「どうやら東の方から来たようです。」

兵士は答えます。

「東はそんなに暖かいの?」

またお姫様が質問をすると、お姫様に気づいた旅人が答えました。

「これはこれは、可愛らしいお姫様。えぇ、とても暖かいですよ。それだけじゃない、綺麗な花も動物もたくさんいる。」

「花も、動物も?素敵、見てみたいわ!!」

「ならば今度、遊びにいらして下さい。」

旅人の言葉に、お姫様は悲しそうな顔をしました。

「姫は病のため、暑いところへはいけません。」

兵士が答えると、旅人は残念そうにします。

「でも私、春を見てみたいわ。そんなに素敵な場所、ぜひ見てみたいわ。」

お姫様の言葉に、旅人は嬉しそうに笑顔を見せました。

「それならば、見せてあげましょう。東へと行かなくとも、春をお見せします。」

「本当に?なら、ぜひお城へ来て。」

お姫様は、旅人をお城へと招きました。

お城の中へと入った旅人は、余りの寒さから体が凍えて震えます。

「なんと寒い・・・。」

お姫様は慌てて毛皮のコートを、旅人に渡すよう命じました。

「こうも寒くては、手が動かない。暖炉を焚いてはくれないだろうか?」

旅人の頼みに、誰もが口を閉ざし、首を横に振りました。

「そんなことをしたら、私の体温が上がってしまうわ。申し訳ないけど、我慢をしてちょうだい。」

お姫様は自分の奇病のことを、旅人に話すと、旅人は悲しそうな目でお姫様を見つめます。

「おぉ・・・なんと可愛そうに。それならば、なおのこと春をお見せしなければ。」

旅人は、お姫様に大きな氷の塊を用意するよう、頼みました。

旅人に言われた通り、お姫様は大きな氷の塊を用意すると、旅人は鞄の中から沢山の道具と取り出し、を削り始めました。

「いったい何を始めるの?」

不思議そうにお姫様が訪ねると、旅人はせっせと氷を削りながら答えます。

「今春を作っているところです。完成までお茶でもしてお待ちください。」

「春を?春は氷で作れるの?」

「えぇ。暖かさは伝わらないかもしれませんが、見る事は出来ます。」

旅人は、ひたすら氷を削り続けました。

お姫様が春が完成するまで、隣の部屋で冷たいお茶を飲みながら待っていました。すると、隣の部屋の扉のドアが開きます。

「お姫様、完成しました!!」

旅人の掛け声に、お姫様は嬉しそうに笑顔で言います。

「本当に?早く見せて。」

お姫様は、駆け足で隣の部屋へと行きました。大きな氷の塊は、見事なまでに氷の彫刻へとかわり、春を映し出していました。

美しい花の木々に、沢山の鳥がとまり、池の周りには沢山の動物が、水を飲む姿があります。

初めて見る春に、お姫様の瞳は輝きました。

「素敵!!これが春なのね!!なんて素敵なの!!」

喜ぶお姫様の姿に、メイドも兵士もとても嬉しそうです。

冷たく寒い冬しか知らなかったお姫様が、初めて冬以外の季節、春をしりました。

お姫様は旅人にお礼をすると、旅人はまた東へと帰っていきました。氷で出来た春は、お城の中が寒いため、溶けることはありません。まるで永遠に続く春のように佇み、お姫様もまた、飽きもせずに延々と眺め続けていました。しかし、お姫様はある事に気が付きます。

「この春、色がないわ。」

氷で出来た春は、当然透明で、色彩などありません。

確かに初めて見る動物などがいて、とても美しい。だけど、これでは春の色が分からない。そう思ったお姫様は、再び旅人をお城へと招待しました。

「お姫様、どのようなご用件で?」

旅人が訪ねると、お姫様を氷の春を指さします。

「この春には色がないわ。色をつけてちょうだい。」

「色・・・ですか。」

旅人は困りました。氷に色をつけることなど、出来ません。

「そうだ!!」

旅人は、今度は沢山の水飴を用意するように頼みました。

お姫様は沢山の水飴を用意すると、旅人は今度は飴をこね始めます。時々持参していた様々な色の粉を混ぜながら、こねこねと作り始めました。

完成したのは、見事な飴細工で出来た春でした。氷の春とは違い、色が沢山あり、とてもカラフルで、見ていて暖かみを感じます。

「素敵!!これが春の色なのね!!なんて綺麗なの!!」

お姫様は大喜びをしました。

飴細工で出来た春は、やはりお城の中が冷たいため、溶けることはありません。しかし、これだけではお姫様の心は、満たされなくなってしまいました。

今度は「匂いが欲しい。」と願い、旅人はまた東まで帰ると、花から出来た香水をお城へと持ってきて、飴細工の春にふりかけました。

「なんて香しい匂いなの!!素敵!!」

お姫様はまた喜びます。

今度はどれだけ暖かいかが知りたいと言い出すと、周りの者たちが慌ててお姫様を止めました。

「いけません!!お姫様の体が燃えてしまいます!!」

「いけません!!お姫様が死んでしまいます!!」

沢山のメイドや兵士は、お姫様を止めました。しかし、お姫様は言う事を聞こうとはしません。

「私は連れて行って!!東へと、連れて行って!!本物の春が見たいわ!!」

「しかしお姫様、それではお姫様の体が持ちません。東へと行く前に、燃えつきてしまいます。」

「ならばここを!!春に!!」

お姫様は、旅人の鞄からマッチを取り出すと、何本もマッチに火を付け、そこらじゅうに放り投げます。

火は紙に燃え移ると、一気に大きくなり、氷のお城を溶かし始めました。お城の者は、慌ててお城から逃げ出します。

「あぁ!!暖かいわ!!とっても暖かい!!これが春なのね!!」

燃え上がる炎とともに、お姫様の体も燃え上がります。

「暖かい!!暖かいわ!!」

お姫様の叫びとともに、炎は全てを飲み込みました。そしてお姫様の体も飲み込まれ、溶けた氷の大量の水が、町へと流れ込みました。

全ての火が消えるころには、町の雪は水で溶かされ、白く包まれていた木々が顔を出していました。

お姫様の体は、灰となり、風に舞うと、木々に付着し、そこから小さな芽を生み出しました。


次の年、北の国に、初めて春が訪れました。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ラストのお姫様が燃えるところはちょっと怖かったけど、なんか子供の頃に戻ったような気分になりました。懐かしいというか。ありがとうございました。
2015/03/17 22:01 退会済み
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