表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

カフェ・サントノーレにようこそ

正しい紅茶の楽しみ方

作者: 真柴理桜

 閉店後のカフェ・サントノーレ。

 ここでは毎月末にオーナーとスタッフによる「反省会」という名目のお茶会が開かれていた。

 コーヒーと紅茶、それぞれの銘柄やバリエーションを豊富に揃えたこのカフェはコーヒー好きや紅茶好きは勿論、普段あまり飲まない人たちにも「ここでなら飲める」と愛されていた。

 コーヒー好きや紅茶好きが集まるカフェだ。

 スタッフも当然ながらコーヒー好き、紅茶好きが揃っている。

 そのためか、この反省会はいつも必ず討論になってしまう。

 紅茶の葉について、コーヒーの煎り方、それぞれに合うお菓子etc……。 議題は実に様々だ。

 そして今日の議題は……。



「ミルクは後からです!」

 

 そう主張するのはスタッフになって半年の少女、北森(きたもり) (あん)だ。


「ミルクは絶対先に入れるべきだ!」


 対してそれに反論するのは唯一の男性スタッフ、樋中(ひなか) 葉汰(ようた)


「ついでに言うなら温めたミルクを使うなんて言語道断!」

「なに言ってんですか!?冷たいまま使ったらせっかくの紅茶が冷めちゃうでしょ!」


 葉汰の言葉に杏が反論する。


「そっちこそ!温めたりしたらミルクの独特の香りが紅茶の邪魔するだろ!それに紅茶は少しぬるめなくらいが香りが強まるって説もだなぁ!」

「それはつまりチャイやセイロン風ミルクティーを否定してんですか!?」

「チャイはミルクの香り以前にスパイス入ってるだろうが!」


 本日の議題

『ミルクは後?先?』


「……ってかさぁ二人共」


 白熱する杏と葉汰を遮るようにやんわりと割って入ったのは一番の古株スタッフ、紅坂(こうさか) 桃莉(とうり)だ。


「根本が間違ってるわよ。紅茶を一番楽しむ飲み方はストレートよ!」


 当然だと言わんばかりにきっぱりと言い放つ。


「だいたいミルクを入れた時点で紅茶本来の香りや味わいが損なわれるじゃない!」

「うわっ!桃莉、それはチャイを否定する発言だぞ!?」

「そうですよ!桃莉さんはインドの伝統的飲み方や英国の文化を否定するんですか!?」


 ここでは杏と葉汰がタッグを組む。

 そこはミルクティー好きの二人だ。意見の合うところでもある。


「いいか!?ミルクを入れたカップに紅茶を注ぐ。これにより紅茶とミルクが程よく混ざり合い香りとコクを引き立たせるんだ!」

「ミルクは後だって言ってるじゃないですか!」

「紅茶の本来の味を楽しんでこそよ!何か混ぜるなんて邪道だわ!」


 三人はそれぞれ主張し合って譲らない。

 それもこれも紅茶を愛していればこそであり、それぞれの嗜好にあった好みの飲み方があるからだ。三人とも紅茶が好きで、この時間を楽しんでいることに変わりはない。

 白熱し、言い争う三人を微笑ましく思いながらオーナーである浦木(うらき) 飛鳥(あすか)はゆっくりとカップを傾けた。

 こんな風に言い合えるのもスタッフが仲の良い証拠で、紅茶を楽しんでくれている証拠だ。それはオーナーとして嬉しい限り。


「飛鳥さんはどう思いますか!?」


 不意に話しを振られた飛鳥は思わずキョトンとしてしまう。声をかけたのは杏で、それに釣られるようにして葉汰と桃莉も飛鳥へと視線を投げた。


「ミルクは後ですよね!?」

「先ですよ!」

「ストレートが一番です!」


 三人の視線が飛鳥に集中し同意を得ようと迫る中。


「私はどっちも好きよ。気分しだいかしら」


 飛鳥はゆったりと微笑んだ。


 後でも先でもストレートでも。それぞれが好みに合わせて楽しめばいい。そう思うからこそカフェ・サントノーレは銘柄やバリエーションを豊富に取り揃えているのだから。


「後です!」

「先だ!」

「ストレートだってば!」


 こうして決着はつかないまま、お茶会は終わりを告げるのだった。


読んでくださり有難うございました。

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ