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第7話:癒し依頼の終わりにて…

「うぉっ!もう朝かよ!」

イリスとルシが、モスデスに着く頃にはすっかり朝がやって来ていた。モスデスの町も、パラパラと人通りが出てくる。

「とりあえず、病院に行こう。乱童もいつまでもこのままだったら、さすがにヤバいだろうからな」

イリスの腕の中で、血だらけになりながら鼻から提灯を出して陽気に眠っていた。

「乱童は、よくこの状態で寝れるな…」

ルシが不思議そうに考え込んだ。

普通だったら、血だらけの人間を抱えた大男が町を歩いていたら、町の人間は警戒したりするものだが…特に、そう言ったものは見られない。

しばらく二人が町の中を歩くと、小さなみすぼらしい病院が姿を表した。

このモスデスには、もっと大きな病院があるが、コッチの方が親しみやすいと言う理由で、怪我や病気をした時はコッチの病院に通っている。

「やっと着いたな…重くは無かったけど、普通に歩くってのは疲れたぜ」

ルシはその間に、病院の扉を開き中に入っていく。重症が一人と、意識不明者が一人居ることを伝えに…。

「あっ…今日は、学校が休みの日か。通りで、子供とかが多いな…」

誰に言う訳では無い。ただ周りを見てそう思う。

「イリス!病院と話はついたから、入ってくるんだ」

ルシの呼びかけに、イリスは巨大な体を揺らし、病院側がイリスを入りやすくすると言う形で特別に作った扉から中に入った。

中に入ると、すぐに診察室があり、その診察室の奥にベッドが3~4個並んでいる。ただそれだけの病院なのだ。

先に来ていたエリス達の姿が見えない…恐らくは、ここのお医者さんの家の方にお邪魔をしているのだろう…。この病院と家はくっついているので。

「先生…まず意識不明の如月と、血だらけで爆睡してる馬鹿な」

それぞれを、移動式のベッドの上に寝かす。

如月の頭の上には大きなタンコブが…乱童には、切り口が左肩から腰の辺りまである。

「そう言えば、アカガミとリュクは無事ですか?」

乱童と如月を看ている40歳半ばの医師にルシは聞いた。

「ええ…二人なら、エリスちゃん達と一緒に家の方に居ますよ。会ってきたらどうですか?」

医師はニコリと笑い扉に促した。

「君たち、昨日は夜ご飯も食べて無いんだってね?今、妻がみんなの分を作ってるから、ここは任せて食べてきなさい」

「さすが…俺らの事をよく分かってるぜ」

「ありがとうございます」

二人は頭を下げて、その場を後にする。




「お~な~か~す~い~た~…」

ちょっとこ洒落た和室の中を、右に左にと転がるビッグ・シールド。

「私はお腹よりも…眠いです」

目の下にクマを作り天井の升目を必死に数えるエリス。

「君達は、落ち着きが無いね…さっき政府から伝達が来て、僕たちは何かをしてしまったらしく罰を受けると書いてあったよ…」

博士も目の下にクマをつくり、依頼が届く小さな球体を何度も見ている。

「乱童やビッグ・シールドが何かをしたなら分かるけど、お前ら何をしたんだよ」

アカガミは椅子に座り、升目を数えるエリスや転がるビッグ・シールドを見下ろした。

「罰を受ける対象は、乱童以下9名…それと、第11団隊長と…来てますね」

「はぁ!?乱童以下9名って、アタシらもかよっ?」

「そうだ!…私や君達も罰の対象になってもらった」

部屋の扉が開きルシとイリスが入ってくる。

「おやおや…心配はしてなかったですが、無事に帰ってきてくれて嬉しいですよ」

「いやいやいや!そんな事よりも、罰を受けるって何の事だ!」

同士討ちの件についてはアカガミも聞かされたが、それがドコにずれてそうなったのか…は、あの場にいたルシとイリスしか分からない事であったが…。ルシは、これまでの経緯をみんなに説明する。みんなと言っても、説明しても分からないエリスとビッグ・シールドを置いてだが。

「俺…死ぬ思いで魔法を使ったのになぁ~…あぁー面倒臭い」

椅子に座っていたリュクは、顔を伏せそのまま寝息を立てた。

「何だ?みんな寝てないのか?」

今、気づく。エリスや博士やビッグ・シールドの目の下にクマがある事に。

「みんなが帰ってくるまで、寝れない!…って、意固地になって待ってたのよ」

ここの医師の奥さんが、料理をてんこ盛りに持ってきた。その料理を机に広げると、もの凄い量だった。

「つい、作りすぎちゃった。…あっ、乱くんも食べるかな?」

どんぶりにご飯を山盛りによそいながら、近くにいる人に渡していく。

「さすがに、あの怪我じゃぁな…って!!」

ふと、見たイリスの視線の先に、匂いに釣られた乱童が目を擦りながら立っていた。

「ごはん~…」

左手は、動かない様に固定されていた。さすがに、あの傷は深かった様だ。

「あっそうそう!ウチの娘も一緒にご飯食べさせるね」

そう言って奥さんは、娘を呼びに部屋を出ていく。

「オレ~…もぉ~食べる~」

ビッグ・シールドが目の前の料理に我慢が出来ずに手を伸ばす。しかし、それをイリスに妨げられる。

「ビッグ・シールド…ご飯は全員が揃うまで食べちゃダメだって…いつも言ってるだろ?」

「う~ん~…で~も~、如月やリュクを待つの~?」

「如月とリュクは、目を覚まさないと思うぜ?今、待つのは娘さんの方」

料理を取り囲む様に、各々が座り娘を待つ。

「ここの娘さんって、確か17~18歳くらいだよな?」

「確かその位でしたね。乱童と同い年程度しか覚えてませんがね…」

そんなアカガミと博士の雑談をしている間に、カモノハシ柄のパジャマ姿の娘──琴美が姿を現した。

「えぇっ!?なんで、みんな居るの!?ってか、お客さんって…」

チラッと乱童を見る。乱童もまた琴美を見て何か考えてる様だった。

「ああ…娘って、カモノハシの子か」

「あの、カモノハシの子ね」

「カモノハシの事で、何か変な会話してたな」

「昨日は助かったよ。まさに、奇跡のカモノハシだな」

「あっ!琴美ちゃん!一緒にご飯食べよ」

エリス以外のみんなの記憶は、カモノハシしか無かった。

「おい乱童…何を考え込んでるんだよ?」

まだ考え込んでいる乱童の頭を、イリスが小突いた。

「あっ!カモノハシの!」

小突かれた事で、思い出したのか表情が明るくなる。

「いや!遅ぇよ!」

そんな、イリス&乱童のドッキリ漫才を繰り出す中、琴美も席につく。みんなで手を合わせ、いただきますを言う前に、ビッグ・シールドがご飯をかきこみだす。

「みんな…何か怪我をしてる……んですね」

琴美は周りを見た。リュクや乱童やアカガミや…所々怪我をしてる事に気づいた。

「いやいや…何で敬語使うんだよ。一応、みんな同い年なんだからな」

「一応…?」

首を傾げる。

「この街に着いた時に、みんな一律同い年になったんだよ」

イリスは、何も分かってない琴美に説明を続ける。

「みんながみんな、高校を卒業したら政府の兵士になるようにな…せっかく出会った10人なんだから、バラバラになるのは寂しいだろ?」

隣で、ルシがウンウンと頷く。

「って事は…みんな、年上なの?」

「まぁな…乱童以外は、みんな年上になるな。ちなみに、一番上はルシな」

箸で指をさす。

「ルシは、13の頃にモスデスに来たんだよな?その後が、如月が10の頃。俺が8で、ビッグ・シールドとリュクが7。エリスと博士とアカガミとハナが、5の頃に来たんだ」

「乱童君は??」

「コイツが来た時は、まだ腹の中に居たんだよ。母親は、乱童を産んで亡くなったけどな…だから、コイツは-1なんだよ。産まれてすぐに、一律の一歳になったから」

「へー…って、えぇー!ルシ君とか、もう三十路越えてたんだ…」

マジマジとルシの顔を見る。大人っぽい雰囲気はあったが、本当に大人だった事に、軽くショックを受けた。

「じゃあ、みんなは小さな頃から今の学校に住んでるの?」

「いやいや、俺らが学校に住み始めたのは、高校に進学してからだよ。それまではみんな別々に暮らしてたんだ。って言っても、俺とエリスはずっと同じ家だったけどな」

改めてイリスとエリスを交互に見る。似ても似つかぬその容姿…

「イリス君とエリスちゃんって、本当に兄妹なの?」

「まさか…たまたま同じ時期に町に着いて、たまたま同じ顔をしてたから兄妹だと間違われたんだ」

「でも、私とお兄ちゃんは同じ町に住んでたんだよ。私は、医療区でお兄ちゃんが武道区!」

「私の住んでた町が、そこからさほど離れて無い所にあったな…学問都市[シュザー]って、知らないかな?」

「そのシュザーの一角にあった、科学研究所って言う小さな集落があったんですが、そこに僕は居ましたがね」

「アタシも、イリスやエリスと一緒の町だ!剣術区に住んでたよ。剣術区なのに、剣なんか使えなかったけど…」

「えぇ~!?アカガミも、お兄ちゃんと同じ町に居たんだ!声とかかけてくれれば良かったのに…」

昔、どこに住んでた?で話が一気に咲く。小さな頃は、辛い思い出に変わり…お互いがどの町に住んでた等話さなかったのに、今になってから段々と話せる様になってきた。

「声をかけるって……その時は、アタシ達お互いの顔も名前も知らなかっただろ?」

話題が、エリスとアカガミに移りイリスは、その間にご飯を食べ始める。

「俺、飯食ったら今日は先生の所に行くわー…」

「先生??」

急に話し出す乱童に、琴美が聞き返す。

「社会の須田先生のトコ」

今の学校で、社会を教える先生。堅くて話しかけづらいと評判の先生なのだが。

「そう言えば、乱童君って社会だけは点数良いって聞いた事があるけど…なんかやるの?」

「帰って寝て…明日、学校に行くだけだよ?なんかやるって言われてもなぁ…」

「帰って寝るって…いくら休日だからって、朝起きてるんだから二度寝はダメだよ!でも、帰るって…どういうこと?」

「…育ての親が、須田先生なんだよ」

乱童は眠いのか──散々寝たのに──テンションはあまり高くない様な話し方で、琴美に淡々と説明をしていく。

「朝っぱらって思うけど、俺ら昨日の昼に依頼が来てから一睡も──1~2回ほど寝た者も居るが──してないんだぜ」

もう限界なのか、飯を食いながら半分寝てる乱童に代わりイリスが答える。

「昨日のお昼から…?でも!昼夜逆転しちゃったら、明日からまた学校なのに!遅刻しちゃうじゃん!ダメだよ!」

眠そうな乱童の肩をガクガク揺らして、無理やり起こす。

「乱童君!私、今日は明美と買い物に行くから一緒に行こうよ!」

精一杯の勇気を振り絞り、思いきった言葉。とりあえず、仲の良い友達が居れば恥ずかしさも紛れる…ハズ。

「頑張れよ乱童。俺たちは限界だから寝るからよ?」

自分が食べた食器は、片付ける。最低限の礼儀はするが、片付ければそのまま横になり眠る。隣の病室に移動する者もいた。

まるで、わが家の様に乱童以外の仲間はみんな眠ってしまった。

「じゃあ、私着替えてくるからね!」

乱童の返事も聞かずに、意気揚々と自分の部屋に戻っていく。

「イリス~…交代してくれ…俺…眠いんだ…」

寝ているイリスをゆさゆさ揺らす。それでも、起きなければ『極・虎砲』でも撃ってやろうかと思っていたが、そんな気配を感じたのかイリスは顔だけ起こした。

「乱童…若い内は、無理して良いんだぞ?お前だってまだ10代なんだから、今のうちに楽しい事をしとけって!なぁ?」

「無理だよ~…寝かせて欲しい…」

「まぁ、この序章もまだまだ続くみたいだし…、買い物行った矢先に強盗とか現れるとか面倒事に巻き込まれると予想してるがな!頑張れよ?乱童!」

イリスの不気味な未来予知かなんなのか分からないが、とにかく身長が縮むんじゃないか位の力で、頭を軽く叩かれるとイビキをかきはじめた。

「強盗…って、モスデスで起こる訳無いだろ…とっとと終わらせて帰って寝るか…」

まだ乱童は知らなかった…。女の買い物が長い事と、この後に起こる出来事を…




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