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第6話:潜入

合図と共に、リュクは両手を突き出して呪文を唱える。

「悪魔の閃き!」

両手から光る球体が出ると空に舞い上がる。ある程度上までいくと破裂して、無数の光の矢が降り注いだ。

廃墟は砕け砂埃が舞う。その内に、乱童は剣を抜いた。

「干支閃流!【酉】の剣翼!」

乱童の剣は、翼に変わり背中にくっついた。この翼は、自分の意思で動かす事も出来る上に、羽根の1本1本が鋭い刃になっている。

如月が、乱童の両足を掴むのを確認すると空へと舞い上がった。

リュクがランダムに撃ち続ける中を闇に紛れて一気に敵本陣まで飛んでいく。


「梟の目!」

ルシが二人が飛んでいくのを確認しつつ、敵の数を数えていく。

「イリス!東から、およそ10人ほど来ている!博士は、西から来ている少数の敵を撃破してくれ!」

「了解…っと!」

待ってましたと言わんばかりに、やっと出番が来たとばかりに、イリスが東の空に腕を伸ばす。

「ここには、近づかせ無いぜ!」

その腕を振り下ろし、テコの原理で自分の体を前に飛ばした。

「少数ならば…これくらいが妥当ですかね…」

幾多にあるスイッチの中から、選んで押していく。西の方で、爆発が起きたり放電する光が見える。

「ハナ特製!バンジー岩飛ばし!」

剥き出しになった鉄骨の間に強力なゴムを張り、手頃な瓦礫をセットしてから引っ張り放す。その記念すべき一撃目は、空の彼方へと飛んでいった。

「あれ?」

「アナタは馬鹿ですか!上に向けたら、遠くに飛ぶに決まってるじゃないですか!こうゆう物は、限りなく平らにして飛ばすんですよ!」

博士に指摘され、渋々軌道修正をし瓦礫を飛ばす。

「スコ~プ~!」

ビッグ・シールドの出す盾から、小さな望遠鏡みたいな物が飛び出し、それを自分で覗きこむ。

「ル~シ~!前から、何か来るよ~!」

「何だと!?」

ルシは、ビッグ・シールド本人をどかしてスコープを覗き込む。

小さな小石を巻き込み地面をえぐりながら、火薬を積んだカタパルトが3台こちらに向かって前進してくる。

「くそっ!無機物は、梟の目じゃ捉えきれないのを知っていたのか!」

「大丈夫だ!俺がやる!」

さっきの魔法で、だいぶ生命力を取られたリュクがフラフラと立ち上がる。

「リュク…君は、この前にも魔法を使ってるんだぞ!これ以上は……いや…頼んだ」

リュクの肩をポンっと叩いた。どのみち止めた所で、聞くわけは無い。それに、このままカタパルトが突っ込んでくれば、ここにいる全員は無事では済まない。

仲間を守る為ならば…と、全員が自分の命を投げ出してまで守るだろう。

この状況で、一番の適任者はリュクただ一人だけなのだ。

「ルシ…タイミングを測ってくれ。エリスは、何があろうとも、アカガミの治療に専念してくれ!博士とハナは、前だけ見続け決して振り向かない事!一瞬の隙が、致命傷に繋がるからな…」

リュクは意識を集中させ両手を地面につける。自分の生命力を使う魔法。これ以上使ったらどうなることくらい自分が一番分かっている。

「今だ!リュク!!」

ルシの合図と共に魔法を発動させる。

カタパルトが走る地面に、魔方陣が現れると吸い込まれる様にカタパルトが消えていった。

魔法が発動した後でも、ルシも博士もハナも振り返ろうとはしなかった。




「こっちは終わったぜ?そっちはどうだ?」

荒い足音と共に、イリスが現れた。

イリスが来る頃には、西から来ていた少数の兵士もようやく片付いた所であった。

「よし…コッチも終わったな」

スコープを覗き梟の目を使って敵の存在も居ない事を確認し振り返るとリュクが、倒れていた。全身血だらけで…

ハナが駆け寄り脈を確かめる。微かに脈を感じとり、ホッと胸を撫で下ろした。

「イリス!悪いが、私に付き添って乱童達の後を追ってくれないか?ビッグ・シールドと博士とハナとエリスは、アカガミとリュクを連れてモスデスまで連れて行って欲しい。まだ、ケケペラードの裏切りかどうか判別が出来ていない…モスデスに着いたら、信頼出来る人に匿ってもらいたいのだが…」

まだ、ケケペラード自体信用できる訳でも無い。リュクやアカガミをこのままにしておく訳にもいかない事だし。

「モスデスの入口の傍に、確か病院がありましたよね?小さいですが、よく乱童やお兄ちゃんが通ってたあの場所で、落ち合いましょう!」

エリスは、アカガミの治療が終わり立ち上がった。ただ、治療と言っても傷を塞ぐだけなので、体の内部などは病院に行かなければならないのもあった。

「分かった!…分かってると思うが、ケケペラード兵には充分気をつけてくれ」

ビッグ・シールドは盾をしまいリュクとアカガミを軽々と持ち上げた。

「イリス…悪いが、頼んだ!頼りなくて申し訳ないが…」

ルシが深々と頭を下げた。

「何を言ってるんだよな!敵の位置も分かって、頭もキレる奴のドコが頼りないんだ?」

まるで頭を握り潰すかの様な大きな手でルシの頭を軽く叩いた。

「さぁ、行くぜ!」




「おぉ~!上手く行くもんだな!」

「そうじゃな…良い景色じゃ」

如月を連れて、本陣が滞在している山に向かって乱童は飛んでいた。

「ここら辺で、【鳥】の効果が切れたら俺達…」

「何を言うてるのじゃ!そんな訳なかろうが…」

そんな無駄話を繰り返し、敵本陣より少し離れた場所に着地する。

暗い森の中だが、遠くに小さな明かりと集落があった。乱童と如月は、茂みに隠れつつ集落に近づいていく。

「思うた通りじゃな…きゃつらの集落じゃ!慎重に行くぞ」

「分かった!突っ込むんだね」

剣を片手に走りだそうとした乱童を捕まえ地面に押し倒した。

「慎重に行くんじゃ!敵がまだ何人残ってるか分かんないんだぞ」

乱童はむくれながら体制を整える。如月は、裾から札を取り出した。【電気】と書かれた札を見て、その後にクナイに文字をつける。

「干支閃流!【馬】の馬弓」

文字通り剣が弓の形に変わる。乱童の魔法力を矢に変えて飛ばす。

「よし!まずは、あそこの見張りを片付けようぞ!」

乱童は矢を放ち…如月がクナイを投げようとした瞬間!何処からともなく飛んできた岩が如月の脳天に直撃し…更に、持っていたクナイが一瞬手を離れ自分の上に落ちた。

「あ゛う゛ぎゃあ゛あ゛あ゛ぁぁぁ」

強力な電気が身体中を走り…如月は、白目を向いてその場に倒れた。もちろん、敵兵に隠れていた事もバレる。

「やっぱり…コッチの方が俺は好きだな」

乱童は立ち上がり弓を前に出す。

「干支閃流!【丑】の双角」

乱童の手の中に二本の短剣が現れる。その剣を手に構える…まず見えるのが、見張り2人。その奥に、3~4人ほど…その奥に、弾幕で囲った場所がある。何となく、そこに大将が居そうな気がする。

「チッ!傭兵リストに居た奴か!」

「油断するなよ!」

見張りの兵が、銃を構えて撃ってくる。

乱童は身を出来るだけ低くして、突進を仕掛けた。何度か、弾が顔の横をすり抜けていく。

「コイツ化け物か!?」

見張り兵の間をすり抜けると、逆手に剣を持ち背中に突き立てた。その騒動に、奥に居た兵士達が気づき突進して来た。

乱童はその場から上に飛び上がると、突進してきた兵士達の中心に着地をする。

「なめるなよクソガキが!」

兵士の一人が振り下ろす剣の腹に短剣当てる。剣筋がずらされバランスが崩れる。

その兵士を踏み台にして、両脇に居た兵士に斬りかかり、踏み台にしていた兵士の背中に手を当てる。

「虎砲!」

兵士は、逆海老反りみたいな体制のまま地面にめり込んだ。

「さーてと…残りは、大将だけだな」

剣を普通の物に戻してから、乱童は弾幕が張ってある一角に足を向けた。




「もう少しで、敵本陣に着くぜ?」

「そうか…ウップ」

腕を伸ばしては振り下ろす移動の中、イリスの背にルシは掴まり移動をしていた。

普通に歩くよりも、この方が長く早く移動が出来るのだが、度重なるアップダウンでさすがのルシも限界が来ていた。



「こんにちわー…」

弾幕に剣を振り下ろすと、綺麗に真っ二つに割れその中に、椅子に座った中年の騎士が居た。

「アンタが大将?」

剣を向け乱童は質問をする。

「ふっ…今の子供は、大人に対する口の聞き方がなってないようだな」

騎士は剣を抜きながら立ち上がった。

「知らないよ…そんなの。特にアンタに対しては…ね」

乱童は言葉と同時に斬りかかる。騎士は、軽くため息をつき乱童の剣を止めた。

「君は、この程度なのかね?君の本気を見せてごらん」

剣を弾くと、躊躇なく心臓の位置を狙って剣を突き出してくる。

乱童は身を半回転くらい翻し騎士の攻撃を避けると、次は目を狙って剣を振りかざす。

「本気を出してみろ!これが君の本気なのか!」

騎士は、剣を引き戻し乱童の攻撃を受け止める。

「こんな剣の腕で、国から…政府から頼られているのか…」

乱童は自分の剣を離すと、騎士の胸元に手を当てた。

「虎砲!」

騎士が後ろに吹き飛ばされるも、倒れはしなかったが、鎧にはヒビが入る。

「君の剣は、干支閃流だったけな?13種類の武器に剣が姿を変える事が出来るんだったはずだが…私には、その業は見せてくれんのかね?」

騎士は乱童に剣を向けた…筈だったが、そこにその姿が無い。

「虎砲!」

今度は背中に衝撃が走った。

「オッサン…さっきから、何をブツブツ言ってるんだよ?」

少し困った顔しながら聞いてくる。

「更には、人の話を聞かないか…家でも妻や娘に無視をされ…最近の若い者は、口の聞き方がなっていない…話を聞かない」

哀愁に浸る騎士に近づき腰辺りに手を当てた。

「虎砲!」

本日3回目の虎砲に、騎士の鎧は耐えきれずに砕ける。

「人が話してる間に…許さんぞ!お前みたいのに、この国を任せる訳にはいかないんだ!!」

騎士は地面を蹴り一気に差を詰めると、剣を下から斬り上げた。乱童は反応出来なかったのか、その攻撃を喰らう。

「私の何がいけなかったのか!何がダメだったのか!貴様には分からないだろう!全てを備え何も苦労してないお前らには!」

騎士が振り下ろした剣が、乱童の左肩に食い込み、血飛沫が舞う。

「お前らさえ来なければ、私は国からも政府からも期待された騎士だったのに…」

剣を持つ手に力を込め一気に切り裂こうとするが、剣は肩に食い込んだまま動かなくなる。

それもそのはず、乱童は自分の剣を捨て、片手で騎士の剣を握っていた。ただそれだけなのに、押そうが引こうがビクとも動かない。

「それは、俺たちが悪いのか?」

乱童はそのまま騎士を睨んだ。

「そうだ!貴様らが、この世界に足を踏み入れてから私たちは、用済みになったんだ!依頼は来なくなり、どこに行っても聞くのは貴様らの活躍ばかり…全てお前らが悪いんだ!」

力を入れる度に、乱童は剣を抑える力が強くなる…と同時に、指の間から血が滴り落ちる。

「俺らだって…いや、少なくとも俺は楽してここまで来たわけじゃない…」

乱童は力任せに肩に食い込んだ剣を引き抜き、騎士を突き飛ばした。

「全てを備えてる…って、そんな訳無いだろ…」

「いいや…そうだろう?確かに、親兄弟は殺され故郷は燃やされ…この国に…この町に逃げてきただろうが、それまでお前らは生きる術を、戦闘の技術を教わって来ただろ?小さい頃から英才教育を受けてきたお前らに、この私の気持ちなんか分からないさ」

「ああ…俺には他人の気持ちを理解する力は無い。オッサンの気持ちなんか分からないよ」

乱童は、足元に捨てた自分の剣を拾い騎士に向けた。

「俺には、ルシの様に頭も良くないし…イリスの様に力も無い…博士の様に怒る事も無い…ハナの様に心配する事も、ビッグ・シールドの様に誰かを思いやる事も…何も備えてなんか無い!」

「だから、何なのだ!!」

騎士はもう一度地面を蹴り、差を一気に縮める。

「俺に出来る事は、笑うことと…頑張ることだけ」

乱童は騎士の一撃を、剣で受け止めた。

「みんなが、この町に着いた時…俺はまだ産まれて無いって言ってた。カモノハシが俺を運んでくれたのと同時に、逃げてきた母さんが死んだって…」

「カモノハシ…だと?」

「だから、俺は小さい頃からこの剣の使い道とか、技術を学んだりとか出来なかった」

乱童は騎士の腹を思いっきり蹴り再度吹き飛ばす。

「みんなに当たり前の事が出来て、俺には出来ない事が悔しくて…だから、ずっと頑張って来たんだ……【寅】の虎爪」

乱童の両手に、鋭い爪の生えた手甲が現れる。

「何も苦労してないとか…全てを備えてるとか…知った口を聞くな!!」

今度は、乱童が一気に差を詰める。騎士は、どんな攻撃をしてくるのか理解に苦しみ…とりあえず、守りの体勢を取った。

「俺達だって、仲間以外のみんなと遊んだり騒いだり一緒に笑ったり…してみたいさ!……虎砲・連牙!」

左拳で、騎士の剣を砕き呆気を取られてる騎士の顔に一撃パンチを入れる。

要は、虎砲の連弾なのだが…一撃目で剣を砕いた辺りで、血を流しすぎたのか乱童の魔力は切れ…二撃目のパンチは、ただのへなちょこパンチに終わった。

「はぁ…はぁはぁ…俺達は、特別なんかじゃ無いんだ…ただ……戦う事しか知らないんだよ…」

それだけ言い放ち乱童は、その場に倒れ気を失った。

「戦う事しか…知らないのか…その歳で……」

騎士もまたその場に座り込んだ。

「私は、君達を騙して偽の依頼を出し、同士討ちを狙った。君達を恨み…亡き者にしたかったが、ここにいる彼は私と同じだったんだな…」

倒れた乱童の後ろに立っている大男に話しかける。

「アンタの言う通り、俺たち乱童以外は小さな頃から英才教育を受けて育ってきたさ…だけど、その余裕があったせいで…今では、このぶっ倒れてる馬鹿が俺らの中で一番強くなっちまったんだよな」

イリスは、乱童を抱える。

「まだ、アンタが納得いかねぇってなら俺が相手をするけども?」

「ふっ…やめてくれ。剣を折られた剣士が、素手で君を相手になんか出来る訳も無いだろう」

小さくため息をつき騎士は立ち上がる。

「どこに行くんだ?」

「国を裏切ったんだ…もう戻れる訳が無いだろう」

「いいえ…そんな事はありませんよ」

大男の影に隠れていたのか、気づかなかったがもう一人…顔が青白い青年が現れた。

「ウップ……その件については大丈夫です。先程、あなたの行為についての理由を聞き…そして何よりも乱童がアナタを殺さなかった…そんな訳で、私が裏を取りました」

「ふっ…今さら裏を取った所でどうするんだ?私は、君たち仲間を傷つけ、自分の部下まで無くしたんだぞ?戻った所で、待っているのは死刑だけさ」

「大丈夫ですよ。私達は、アナタの部下を一人も殺してはいません。アナタが裏切ったと言う行為も、私達が勝手にケケペラード兵の皆さんと修行を兼ねた訓練をした事にしました」

「なんだと……?」

「ま、罰は受けるだろうけどな!対した事じゃ無いだろうし」

イリスは乱童を抱え、気絶していた如月も抱えると騎士に背中を向けた。

「悔しかったら、私達を超す騎士になってくださいよ?隊長殿」

ルシもまた騎士に背中を向け歩き出す。

「ふっ…生意気な小僧共だな…」

騎士は、二人の姿が見えなくなるまで背中を見ていた。そして空を見る。

丁度、空は明るくなり始めていた。太陽が昇り朝がやって来る。






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