第4話:開拓者
「う~ん…お腹が空いたよぉ~…」
右を見ても左を見ても、何も無さそうな更地。
ルシは、何も書いてない紙にコンパスと分度器を当てながら、何か書き込みをしている。
「乱童も如月も良いなぁ~…僕、なんでルシ達と一緒なんだろ~…」
ブーブー文句を垂れ、グーグーお腹を鳴らしながら、ビッグ・シールドは土地の開拓にせっせと働く仲間達の姿を眺めていた。
ルシは、左目を開き右目を手で覆い隠す。
「鷹の目!」
呪文を唱えると、ルシの視界は遥か上空から地上に向かって見下ろされる。
この魔法は、敵の陣形を見たりこう言った土地の開拓等に使うのに便利なのだが…この魔法が切れるまで、地上からの視界はシャットダウンされてしまい、目の前に敵が居たとしても全く気づかないのが盲点だ。
「この装置は、前を人が通ると作動する仕組みになってて……空気の乾湿による……であって」
ルシの隣で、設計図を広げ博士とハナが土地に仕掛ける罠の事で話し合う。
「この辺りには障害物は、無い。仕掛けるならば、地面に埋める物が良いだろう」
魔法が切れて視界が元に戻ると、博士達の話し合いに参加をする。
「ひーまー…ひーまー…ひーまー……」
3人の話すことが何なのか理解も出来ず、ビッグ・シールドはその場で横たわり空を見た。
陽が山の向こう側に落ちかけている。山の麓で、小さく何かが動いている。きっと、山に住む村人かな…と思いながら眺めていた。
ドーンッ!!
いきなり山の麓で爆発が起きた。何事かと思い慌ててビッグ・シールドは、身を起こした。
3人も話を一端中断して山の方を見た。
「ああぁぁぁ~きっと、敵が近くに居るんだよ~博士ぇ~もっと罠を仕掛けてよぉ~」
ビッグ・シールドは、いつもはしない敏捷な動きで、あちらこちらに走り回る。
「大丈夫だ…落ち着くんだビッグ・シールド」
慌てる様子も無く冷静なルシ。
「この近くにあるのは、G戦地点だからね。多分今のは、リュクが威嚇の為に撃ったんだと思うよ」
「ええ…間違いないと思いますね。彼の魔法で、あんな遠くにある標的を狙うのは威力も無い訳ですし…それに、一応君は戦闘員の一人なんですから、そんなに慌てられてもコッチが困りますよ」
不安で一杯のビッグ・シールドを余所に、いつまでも冷静な3人。
「でも…ほら、もう陽も落ちたしさぁ…近くで戦闘があるなら帰ろうよ~」
陽は完全に落ちてしまい、辺りには暗闇が広がり、近くにあるG戦地点にある城壁を照らす明かりだけがポツンと見えた。
「そうですね…では、そろそろ帰りますか…」
ルシは、手元にあった設計図や地図を纏めてカバンに綺麗に押し込む。すると、支給された携帯電話が鳴り出した。
「ふむ…これは、如月か?一体、何があったんだ?」
手を止めて電話に出る。
「もしも…おい!如月!?どうしたんだ!!」
いつもは冷静なルシが叫ぶ声に、皆が振り返った。その場に緊張が流れる。
「なーにー?ルシが恐い顔になってる…如月がどうかしたのかぁ~?」
ルシは如月に何度も何度も電話をするが、電話に出ないのでそのまま携帯をカバンに押し込んだ。
「悪いが作戦は、変更する。依頼は失敗と言う形で、全責任は私が取る。みんな!仲間がピンチだ!ハナは、急いでエリスに連絡を!ビッグ・シールドは、辺りを警戒しつつ、いつでも盾を出せる体勢にしててくれ!博士は、G戦地点の罠の作動を!今から私たちは、G戦地点に行く!行くぞ!」
ルシの慌てぶりから、実際に何が起きたか(想像したくないが)想像できた。G戦地点に配属された、如月・アカガミ・リュクに何かが起こったのだ。
ルシは走りながら今度は左目を手で覆い隠す。
「梟の目!」
梟の目は、鷹の目と違い…遠くを見ることが出来る上に、その場にいる仲間や敵も含め赤い点で見ることが出来る。やはり欠点は、鷹の目と同じである。
「ここの点が2つ重なっている…如月とアカガミだろう。……ちっ!もう1つ点が如月達に近づいてる!くそっ!如月……!!」
G戦地点までは、走って10分くらいの距離だった。(ビッグ・シールドは、15分)走りながらも、爆発音が何回か聞こえてきた。
城壁の上からも、光が廃墟に向かって飛んでいる。
「ダメだ!エリスも戦闘中なのかな?電話に出ないよ!」
魔法が切れてルシはハナの方に振り返る。
「出るまでかけるんだ!そして、如月の事を乱童に伝えるんだ!乱童の技ならば、離れたE戦地点でもG戦地点にすぐ行けるハズだからな!」
ルシは走りながらも色々と作戦を練り始める。いくら自分らが如月達の元にたどり着いた所で、何が出来ると言うわけではない…。この暗闇の中、どう対処すれば良いか。
そうこう考えてる内に、城壁を照らす灯りが見えてきた。その城壁のすぐ下に、倒れたアカガミと、刀を構えて立つ如月、アカガミを守りながら手を構えてるリュクの姿が視界に入ってきた。
「如月!大丈夫ですか!?」
ルシとハナと博士が、如月組に合流を果たした。まだビッグ・シールドは、コチラに向かって走っている途中だ。
博士は、目的地に着くなり禍々しい機械を取り出すと、ボタンをピッピッ…と押し始める。緊急用の罠を発動させるために。
ハナは、すぐにアカガミの元に駆け寄ると、腰のポケットから傷薬取り出しアカガミの傷に塗り始めた。
「よく…来てくれた。まだ敵は近くにおるようじゃ…気をつけてくれ」
ルシは、また携帯を取り出してエリスに電話をかけ始める。
「頼む…出てくれ……」
辺りを警戒しつつ何度か電話をかけると、やっとエリスが電話に出た。
「エリス!任務中に悪いが緊急事態だ!乱童の技で、急いでG戦地点まで来てくれないか!」
一息に伝える事を伝えて、しばらくすると…段々とルシが険しい顔をしていき、如月の顔を見た。
ルシの視線に気づき、如月はルシの方に振り向くと、焦っている様な困っている様な青白い表情で、こちらを見ていた。
「ど…どうしたのだ?まさか…乱童達にも何か問題でもあったのでござろうか?」
ルシは無言で頷き、遥か彼方の空を見ると呪文を唱える。
「鶻の目!」
鶻の目は、仲間の現在地を上空から見る事が出来る魔法である。…と言っても、完璧に姿を捉える事は出来ない上に、体力の消費が物凄く…あまり使うことは無い魔法なのだ。
「エリス……君達は、E戦地点に居るんだよな?…今、私の魔法でE戦地点を探してるが、君達を見つける事が出来ない!」
電話を片手にルシが叫んだ。
緊張が走るその空気の中、博士が何かのスイッチをカチッと押した。
「如月!リュク!ビッグ・シールド!敵からもコチラの姿が見えてしまうが、今この廃墟に明かりが着く!少しは楽になるだろう!」
廃墟に明かりが着く。今までに無い明かりであったので、一瞬だが目が曇る。
段々と視界が慣れてくると、暗闇では気づかなかった事がいくつかあった。
それと、アカガミを傷つけた敵も意外にも近くにいた。如月の幻術に引っかかり、仲間に剣を向けている。その仲間も、必死に止めている姿が見えた。
…そう。イリスに剣を向けた乱童を、必死にエリスが電話を片手に止めている姿が……