第1話:人物紹介
10人の子供達は、すくすくと成長していき…皆17歳、高校2年生になっていた。
勿論だが、高校2年生に見えない者も多数いるが、それはモスデスに亡命した時に一括して決めた事なので、誰も文句は言う者は居なかった。
当初は、素性も知らなかった相手だったが、十数年と言う月日が子供達の絆を強くし、親や兄弟…それ以上に絆は深まっていた。
学業は普通に行われ、その中にある一つの教室でつまんなそうに歴史の授業を聞いてる者が居た。
燃える様な憎しみの炎の様な赤き髪を靡かせ、手の甲には皮の手袋をはめ、赤い柔道着に身をくるませる。
『アカガミ』と言う男まさりな少女だった。名前の由来は、髪が赤いからそうなっただけである。武術系で、少しやんちゃな部分があった。
その隣で、楽しそうに歴史の授業を聞いてる者が居た。
名を『如月』と言い、着物姿に頭には髷を結い、ノートを取るには筆と墨を使う。
武術系忍者の家計で育った彼は、様々な忍法を使う。
そこから少し離れた席に、教科書で身を隠して早弁を食べている者もいる。
名を『ビッグ・シールド』と言い、椅子に収まらない程の脂肪に囲まれてまん丸な体型をしていた。
こちらも武術系で、両腕に腕輪をしており…その腕輪には、不思議な紋章が描かれていた。
ビッグ・シールドの意思で、巨大な盾が自由自在に出たり消えたりする。
名前の由来は、当時その盾を見た子供達が一致団結で決めたのだ。本人も、そんな自分の名前を気に入っていた。
「おーい!ビッグ・シールド!弁当は美味いか?」
アカガミが声を上げた。
「うんー!美味しいよー!アカガミも食べる?」
ビッグ・シールドは、弁当を持ち上げて自分より後ろの席にいたアカガミの方に弁当を向けた。
周りの生徒がクスクスと笑っている。
ビッグ・シールドは横目でチラリと先生を見た。頭に、怒りマークが2~3個見えている。
そして、その隣のクラスの窓側で、校庭の体育の授業をボーっと見ている者がいた。
銀色の髪で、顔立ちは女っぽい少年。手の甲に、悪魔の口みたいな禍々しい紋章を携えてやる気の無さそうに眺めている。
名を『リュク』と言い、腰には伸縮自在の棒を持って、一見武術師にも見えるが魔法系なのだ。
この手の甲にある紋章に念じる事で、爆発的な威力を持つ魔法を奏でられるが、その代償として体力を削り取られてしまう。
本人曰く、毎日やる気を出していたらいざというときに力が出せなくなる…との事。ただの面倒臭がり屋という説もあるが。
そこから少し離れた席に、数学の授業を聞きながら理解はしていない少女がいた。
名を『エリス』と言い回復系の魔法を使う補助役。おしとやかな性格のエリスは、少し天然っ気があった。白いドレスを身に纏い、ピンクの髪を靡かせ可愛らしい彼女は男子の注目の的でもあったが、誰も彼女に対して告白などしてこなかった。その理由が、彼女の兄に問題があった。
兄と言っても、本当の兄では無い…モスデスに逃げてきた時に、素性も名前も知らない少年が、エリスに似ていたからと言う理由だけで、二人は勝手に兄妹になってしまったのだ。
エリスの後ろに座るのは、兄だと言われてる『イリス』。武術系で、身長が2mあるだろうかの大男。
スキンヘッドで、目から下は黒いゴム性のタイツで隠している。目から上と両手だけは、そのタイツから出しているのだが、その体型は厚い筋肉の壁がそそり立っていた。
話しかけ辛い風貌を持つ彼だが、心優しい妹と『タコさん』と言うアダ名を付ける仲間によって、周りの生徒も『タコさん』と言う愛称で呼んでくる。
そのアダ名の由来として、イリスは筋肉囲まれた太い腕を、自在に伸ばしたり縮めたり出来る。その長さ最大にして10mは余裕と言うが、筋肉痛になるから普段は5mくらいしか伸ばさないよ!と言っている。
そのクラスの一番前の席に眼鏡をかけ頭の良さそうな小柄の少年が、数学の授業にも関わらず机の上にビーカーやら何かの実験道具を広げて不気味な笑みを浮かべている者がいる。
名を『博士』と言い、武術系なのだが…武術は得意では無く、トラップの設置や開発に非常に長けている。
頭は良くて、成績は常に学年1位。しかし、独特な風貌から、近寄ってくるのは仲間しか居ないが彼はそれでも良いと思っている。
「コラッ博士君!今は、数学の授業をやっているんですよ!実験道具なんてしまって、この黒板の問題をやってみなさい!」
先生が黒板をバンッと叩いた。博士は、その問題をチラッと見てから答えを導きだす。
「うっ…正解だ…」
少し弱気になる先生を見て博士がボソッと呟いた。
「良いですか?この数式には、こういった決まりきった答えしか出てこない…しかし!これを、空間分率切除に基づき更には、可変分娩作為法を工程した時に…この数式では、答えは出てこないんですよ?」
博士は立ち上がるとクルリと回れ右をして、エリスを指さした。
「なのに!エリス君は、昨日ボクが散々この数式について説明して、凡そ120回目の説明でようやく理解したのにも関わらず、先程から先生の質問に手を挙げようともせず!頭の上に『?』マークを並べているだけでは無いですか!」
「う~…だって、博士君の説明って判りづらいんだもん」
エリスは困った表情を見せた。そんなエリスの困った表情も愛らしく、毎回怒鳴る博士に怒りを覚えるよりも、愛らしい表情を見れる事に男子達は楽しみだった。
「まぁまぁ、落ちついて博士君…」
先生が宥めて博士を席に着かせる。だが、先生もまたエリスの表情を見るためにも、業と博士の事を注意するのであった。
そして、また隣のクラス。国語の授業なのだが、真面目に授業を聞き分からない事があればスグに手を挙げて質問をする。
成績は、常に学年2位を死守している。黒の長髪で、顔立ちも凛々しく女子達の注目の的でもあった。
名を『ルシ』と言い、魔法系を得意とする策士であった。
その魔法も、攻撃する為や回復する為の魔法ではなく、町の地図を一瞬で把握したり策を完成させる為にする魔法を得意とした。その他の能力として、特殊な仲間達のまとめ役でもある。
「スイマセン!遅刻しました!」
教室の扉が勢い良く開き、茶色の髪で、肩まで伸びたその髪を後ろで結い、背中には黒くて大きな宝石が嵌め込まれた剣を背負った少年が明るく元気に笑いながら入ってきた。
「大丈夫ですよ。君達は、国を守る仕事に行ってきたのだから、気にする事は無いですよ」
先生が促し、剣を背負った少年の後ろから申し訳なさそうにもう一人少女が入ってきて席に着いた。
「さて?他に質問など無いですか?」
先生は生徒達を見た。生徒達は、これさえ終わればお昼を食べれるので、誰も手を挙げようともしない。
「無ければ終わりま…ん?」
先生にとっても意外だったのか、先程の剣を背負った生徒が目をキラキラさせて手を挙げていた。
「珍しいですね?何か聞きたい事でもあるんですか?」
「はいっ!!」
生徒は勢いよく立ち上がり真っ直ぐ先生を見ると…
「子供は、どうやったら産まれてくるんですか?」
教室の中に寒い風が吹き込んできた。
生徒は、目をキラキラさせて先生を見ている。悪気は無いのだ…無邪気で少し天然も入っており、毎日が楽しいかの様に笑顔を絶やす事は無い。
こんな馬鹿みたいな質問をした馬鹿の名は『乱童』と言い、珍しい魔法・武術系。実力では、9人の仲間達の常にトップに君臨しているが、成績は下位の下位。真面目に授業を聞いているが、エリス同様話を理解出来ない面があった。
暫く場が凍り先生が咳払いを一つ溢した。
「その質問は、ルシ君に聞いてみなさい」
先生はニコリと笑い責任転嫁を始めた。
「先生!その質問は、私には答えられません!」
ルシが必死に抗議するも虚しく、先生は急ぎ足で教室から出ていった。
空気が覚めていた教室は、一気に騒がしくなる。乱童は、何が何だか分からなかった。一部の男子は、笑いながらも乱童の背中をバンバン叩いてくる。
「ルッシー…俺、何か変な事を言ったのかな?」
ルシの元へ駆け寄って座り込んだ。
「いや…いや…?いや……」長い沈黙を破り、ルシが乱童の肩をポンと叩いた。
「博士に聞きに行くんだ」
思い立った策は、責任転嫁しか無かった。
「ルシ…ごめんね?私が変な事を言っちゃったから」
乱童の後に入ってきた少女が駆け寄ってきた。
短髪で、鉢巻きを巻いており祭りの法被みたいな姿の少女。
名を『ハナ』と言い、武術系だがコチラも博士同様、武術は得意では無かった。
しかし、腰にはノコギリや金槌や釘などを常に持っていて、トラップの製作や鍛冶などをしている。
「ハナ…なんでそう言った状況になったんだ?」
「うん…実は、さっき二人で依頼をクリアして帰る途中にさ…乱童が、妊婦さんを見てビッグ・シールドみたいな人が居る!って騒ぎだしたのね…」
「ふむ…」
ハナとルシが話してる間に、乱童は小走り気味に博士の居るクラスに向かって行く背中が見えた。
「アレは、お腹の中に子供が居て女の人に子供が出来ると、お腹が大きくなるの。ビッグ・シールドとは違うの!って、教えたら…もうずっとあの調子で」
大きくため息をついた。
「ふむ…しかし、博士が心配だな…ちょっと様子を見てこよう」
ルシは席を立ち、乱童の後を追い隣のクラスへと足を運んだ。ついでに、ハナも付いてくる。
博士の居るクラスに、丁度?アカガミとビッグ・シールド、如月も集まっていた。
ビッグ・シールドが早弁をした為に、昼に食べる物が無いと騒ぎだし、みんなの弁当から少しずつ分けて貰っている所だった。
「博士!博士~!」
昼休みになっても、研究を続けていた博士は、邪魔されて少しイラつきながらも駆け寄ってくる乱童に顔を向けた。
「なんだ…僕は今、とても忙しいんだ。君のまたくだらない話を聞かないといけないのか?」
博士は眼鏡をかけ直してから、机の上で奇妙な色の液体をかき回す。
「それとも、君もビッグ・シールドみたく早弁したから、食べる物が無いなんて言うわけじゃないだろうね?」
「うん!弁当なら、A戦地点で食べてきた」
ニコニコ笑いながらお腹をポンっと叩いた。
「そうか…今日は依頼があった日なのか…。君とイリスは、主に最前列で戦う人間なんだから、怪我とかしてないよな?」
何だかんだ言いながらも、いつも博士は乱童達の面倒を見てくれる。
勉強や宿題なんかも、分かりやすく説明したりしてくれる。博士の生まれ故郷は、今は無き学術都市ベルベットだ。
産まれて1年経てば、スグに研究者として英才教育をさせられる変わり者の都市だった。しかし、ベルベットで育った子供は、6歳になる頃には大学を卒業できる知識を得られるのだ。
その為か、反逆者が出やすいと思った兄弟は、ベルベットを焼き払ったのだ。
丁度その時博士は、一人で山に研究材料を探しに行っており、運よく助かったのだった。
「大丈夫!大丈夫!それよりも博士に聞きたいことがあって」
その隣で博士と乱童以外の仲間達がコソコソと話している。
「A戦地点って、結構頻繁に攻撃される場所だよな?よくそんな場所で、飯なんか食えたな…」
イリスがちらりと乱童を見た。
「乱童…5~6人くらいに囲まれてる時に、お弁当食べ出すんだもん…。見ててハラハラしたわ」
涙を拭う真似をしながら、ハナが答える。
この依頼と言うのは、政府からモスデスに来る傭兵要請の依頼である。
A戦地点とは、最も狙われる率が高く、イリスや乱童と言った最前線で戦う人間が選ばれやすい。
そして、戦地点はA~GまでありG戦地点は、屈強な壁があり遠距離から攻撃が出来るリュク等が選ばれやすい。
その他で、大軍が攻めてくる等があった場合等は、ルシや博士やハナを筆頭に、その他6人も出陣する事もあった。
「そうだったな…君の事だから、常に僕の成績の下にいるルシに聞いても判らなかったが為に、わざわざ僕の所に来たんだろ?遠慮せずに何でも聞いてみてくれ」
博士は、自信満々に乱童を見た。乱童は満面の笑みを出し…さっきから答えの出てこない質問を繰り出した。
もちろん…その場が凍る。本日、2回目であるルシとハナは気にせずに弁当を食べ続けていた。
「乱童…君は、ルシにも同じ事を聞いたんだろ?」
「聞いたけど、ルシは博士に聞けって…」
クラスは静まり返り、他の男子も女子も博士がどう答えるか興味津々で耳を傾けていた。
「ルシ!君は、僕に責任転嫁して恥ずかしいと思わないのか!乱童の世話係は同じクラスの君だろうが!逃げるのか!ズルいぞ!」
席を立ちルシに向かって怒りだした。
「私は別に、乱童の世話係では無いぞ。それに、乱童の面倒は皆で見ると決めたハズでは無かったかな?」
その問いに、リュクは面倒臭そうに手を横に振りアカガミはあさっての方向を見始め、イリスと如月は全力で首を横に振る。ハナは、そうだっけ?と思いながら考え込み、エリスは話を理解してないのか…その場で考えをまとめようと努力する。
「ハナ!確か君は、乱童と一緒に依頼をしてたハズだろ?そこで、変な事でも教えたんじゃないか!?」
グサッと図星の弓矢が、ハナの心臓に突き刺さる。
騒ぐ変人達の後ろでコソコソ動く数人の女子が居た。この学年と言わず、先輩・後輩にもルシは、大人っぽく頭も良いと好感を持つ女子は多い。
2番目に、女みたいな顔をしているが、逆に例えると美少年なリュクや、物静かで腕も立つ強い如月も、影ながら人気であった。
意外にも、無邪気で活発で皆に優しくいつも笑顔を絶やさない…強いかどうかは、不明な不思議キャラ乱童も男子人気ランキングに入っている。
「琴美!今がチャンスよ?乱童君に、あの質問の答えを教えてあげるのよ」
長身でスラリとした女子が、背が小さめな女子の耳元で囁いた。
「明海…でも…でも……」
琴美と呼ばれた女子は、顔を赤らめてウジウジし始めた。
背中の辺りまで伸びた黒髪に、少し幼い顔をした琴美は、この学校の普通の学生。クラスは違うが…
普通の学生は、全員が制服着用を義務つけられている。ブレザーにチェックのスカート。長さは自由だが。
「ここで、乱童君の気を引いとくのも一つの手よ?仲良くなった暁には、リュク様に私を紹介してくれれば良いからさっ!」
明海と呼ばれた女子は、少しだけ腰を曲げて琴美の背中をポンッと叩いた。
琴美は意を決したのか、ニコニコと博士がいつ教えてくれるのかと待ち遠しそうに見ている乱童に近づいた。
「あ…あの……乱童君」
声をかけるも恥ずかしくて目を反らす。
「ん?……誰?」
振り返り琴美の顔を覗き込むが、実の所…ほとんど依頼に呼ばれる為、学校にあまり顔を出さない乱童は、覗き込んだ所で誰かなど分かる訳も無かった。
「あっ…琴美ちゃん」
エリスが、駆け寄ろうとしたが、空気を読んだイリスがそれを阻止する。
「琴美…って言うのか?ヨロシクな琴美」
乱童はニコリと笑い琴美の手を握った。
無邪気すぎる乱童は、女子の気持ちなんて分かる筈も無く、手を握られた本人は目の前が真っ白くなりながらも言葉を続けた。
「あ…あの…私、なんで子供が出来るか知ってるよ。カモノハシが、子供を連れて来るの!」
乱童と琴美とエリス以外の全員とクラスが、また凍る。窓は締め切ってるはずなのに、冷たい風が吹き荒れる。
「まさか…」
「そう来たか…」
「エリス以上の天然が存在していたとは…」
「あー…どうでも良いけど…」
「それは、私でも想像出来なかったぞ…」
「カモノハシ…?」
博士と乱童、エリス以外は各々に感心をし始める。このまさかの展開に博士は慌てながらも一旦落ち着き、一息ついてから説明を始めた。
「カモノハシ 学名は、Ornithorhynchus anatinusと言い、哺乳綱単孔目カモノハシ科カモノハシ属に分類される哺乳類。現生種では本種のみでカモノハシ科カモノハシ属を形成する」
唯一、理解出来たのは如月とルシだけ。二人はこの説明に相づちを打った。
「カモノハシ…ってなんだ?」
「君は、今僕が説明をしていたのを聞いてないのか!」
博士がギャアギャア騒ぐ中、ピピピッ…と電子音が教室内に響き渡る。
「ふむ…これは、依頼であろうな」
如月が、懐から小さく丸い腕時計のバンドの部分が無いような物を取り出した。その丸い物体に文字が書かれている。
その物体は、10人全員に配られていて、政府から依頼が来た時に、音が鳴り知らせてくれる。
もちろん、拒否権はあるが拒否するものは居なかった。
もちろんそれは、敵が親や兄弟の仇と有り、仲間を苦しめたと言う事もある。
「ふむ…今回、余はアカガミとリュクと一緒に、G戦地点に行くと書いてあるな」
丸い物体の淵にある小さなスイッチをカチカチ押して依頼の承諾を受ける。
「私は、ハナと博士とビッグ・シールドと一緒だ…まだ開拓されてない土地の調査とトラップの設置だな」
ルシも同じく丸い物体のスイッチをカチカチと押す。
「俺は、エリスに乱童だ…って事は、一番キツそうだな…E戦地点だ」
イリスもまた物体のスイッチを押す。
「なんか、EとGで呼ばれるなんて…初めてじゃないか?」
アカガミが不安そうに話した。
大抵の依頼は、戦地点からこの国に敵が攻めて来るのを迎え撃つのだが、今回は敵が2つに分かれてくる。
不気味な不安が胸をモヤモヤさせていた。
「おい!ビッグ・シールド!ちゃんと、ルシ達を守るんだぞ?敵が見えたら、緊急発光弾を撃つんだぞ?博士のトラップばっか頼るんじゃ無いぞ!」
イリスが心配そうにビッグ・シールドに忠告を促す。
「僕の完璧なるトラップに頼るな!って…君は、そのトラップに何回助けられた事か!」
「まぁまぁ…」
顔を真っ赤にさせて怒る博士をアカガミがなだめる。
「とにかく…みんな、気をつけるんだ」
ルシが話をまとめ、手を前に出して拳を固める。
「大丈夫!みんなが居るから怖くないよ」
エリスもルシに見習って、拳を前に出した。
「とりあえず、乱童はどうなっても良いけどな」
イリスが乱童をチラリと見る。
「タコさんヒドイ!」
「誰がタコさんだ!」
乱童の頭に、ゲンコツを落としてそのまま手を前に出す。
半泣きになり頭を擦りながら乱童も手を前に出した。
「おまじないがいつもいつも効いてるとは思わないんですがね…コレをやる意味はあるんでしょうか」
「まぁまぁ…」
毎回の様に文句を言うのだが、博士も実は気に入って居るのか素直に手を前に出した。
面倒臭そうに手を出したり、弁当を食べようか迷いながら手を出したりして、仲間達は拳を集める。
「じゃあ、みんな…必ず戻ってくるんだぞ」
みんなの拳を軽く殴る。これが、仲間達の無事に依頼を遂行させるおまじないなのだ。
おまじないが終わり、各々に解散する。
荷物をまとめたりする。ルシと如月は、職員室に迎い依頼が来たことを校長に告げに行った。
「あーあ…昼休みにドッチボールやりたかったなぁ…」
「やめとけよ…イリスには勝てないんだから」
乱童とリュクは教室から出ていく。
「ほら、弁当なんか食ってないで行くぞ!」
イリスは、弁当に未練がましいビッグ・シールドを引きづりエリスを連れて教室を出ようとすると、乱童が単品で教室に戻ってきた。
「どうした?お前も弁当に未練があるのか?」
乱童はキョロキョロと教室を見渡し、琴美を見つけると駆け寄った。
「琴美の為に、(カモノハシの事を聞く為に)絶対戻ってくるからな!」
その言葉をどう捉えたかは分からない。だが、全身の血が頭に昇り、頭から湯気が出そうばかりに琴美は、顔を赤らめてコクンと頷いた。
「じゃあ、約束だ!」
乱童はニコニコと拳を琴美の前に出して来たので、コツン…と自分の拳を当てた。
「ビッグ・シールド…あれが、青春って奴だぞ」
遠くからイリスが呟いた。
「んー…でも、乱童ってきっとカモノハシの事を知りたいだけなんだと思うなぁ~…」
ビッグ・シールドの言う通りだが、乱童はまた走って教室を出ていく。
「琴美ぃー!あんたヤッタわね!乱童君にスゴい気に入られたじゃないの!」
明海がニヤニヤ笑いながら近づいてきた。
「もっと…仲良くなったら、是非!リュク様を…ヨロシクね」
琴美は、無言で頷いた。耳からなんも言葉が入ってこないが…
チャイムが鳴り、そんなに時間が経ったのか分からないが、昼休みが終わり…10人居ないまま昼の授業がいつも通り始まった。