~ 私とウルフ ~
ーこの子の記憶を引き継いで、色々と知れたことがある。
まず、私の名前は“ルミスティア・アイリング”といいアイリング公爵家の一人娘。
そして、この国はライストーン王国といい色々と発展している先進国だ。
あと…記憶の中であった学校は、アストレア魔法学園というらしい。
どうやらこの世界は根本から前世と違い、魔法を使って生活を整えたり仕事をしたりしているらしい。
アストレア魔法学園は14歳で入学して18歳で卒業するらしく、4年制の国内最高峰の魔法学園なんだとか。
「(それにしても…まさか15歳になってるなんてね)」
前世は29歳のアラサーで社畜ライフを楽しんでいたから学生時代なんて殆ど覚えていないが、再び通うことになるとは思いもしなかった。
だけど今はそれよりも。
「ルミスちゃん、昨夜はよく眠れたかしら〜?」
「ルミス、怖い夢とか見てないか?」
目の前には見たこともない豪華な食事たち。その先には今世の両親が私のことを見詰めている。
「お母様、お父様、昨夜もよく眠れました」
「怖い夢も見ておりません」
どうやら今世の両親は少し過保護なようだ。
一人娘というのもあるだろうが、学園での扱いを察しているのかもしれない。
記憶の中でこの子がこの人達に学園での話をしているところはなかったから聞かされてはいないんだろうけど。
「そう〜?それなら良かったわ〜」
にこにことしながら間の伸びた口調でそう言うお母様。
私と同じ綺麗な白い髪はふわふわとしていてクリームイエローの瞳は澄んでいて美しかった。
どこか神秘的な雰囲気を感じる。
「ルミス、明日から学校だが課題は大丈夫か?」
そう聞いてくるお父様。
私とは反対の真っ黒な髪はストレートで髪質から違うと分かる。
私を見詰める目は同じアイスグリーンの瞳だ。だけど声色は優しくどこか雰囲気がふわふわとしている。
「大丈夫ですよ、当日に終わらせていますから」
そう。
この子が当日に終わらせてくれたお陰で私は宿題をしなくて済んだ。
やっていなければ、やらないといけないがこの子の記憶があれど勉強出来るかどうかは分からない。
「そうか、流石はルミスだな」
優しい笑顔を浮かべるお父様に私も微笑み返すと食事を再開した。
⭐︎
朝食後、私は庭園に出てきた。
ぐるりと見回すと私とお母様の髪と同じ白い薔薇と私とお父様の瞳と同じ緑の薔薇が植えられている。
すぅっと息を吸うと花の良い香りがする。
「はぁ…落ち着く」
前世から花の香りが好きだった私にとってここは天国のような場所だ。
薔薇に触れると棘が刺さらない。
庭師が棘を全て取っているらしい。
「(ここまでするなんて、ほんと愛されてたんだなぁ)」
口元が緩む。
その時、近くで足音がした。
その音はどんどん私に近付いてきていて速さを増している。
私はじっと曲がり角を見ていると、想像通りの者が顔を出した。
「エン!」
エン、とは。
私も会うのは2回目だけど、記憶によると幼少期に怪我をしていた魔物のフォレストウルフを助けたらしい。
そのフォレストウルフというのが。
「主!主〜!」
この大型犬と化しているエンである。
どうやら、私とエンは従魔関係を結んでいるらしくエンは私の位置情報が分かるらしい。
さっき朝食を食べに向かっていた最中、エンと会い少し話してから向かったのだが。
「(このもふもふ…癒しっ!)」
エンに抱き着かれたのをいいことに私も抱き締めると思い切りもふもふに顔を埋める。
前世で癒しなど殆ど無かった私にとってはこのもふもふは至高だ。
まぁ、エンはそこそこ大きいので思い切り抱き着かれでもしたら怪我してしまいそうだ。
「主!ここで何をしていたのですか?」
きょとんと私を見詰めてくるこの大型犬はものすごく可愛い。
一瞬息が止まりかけたが、私は平静を装い口を開く。
「ここの花、良い香りだから少し癒されに来たの」
「そ、そうですか…」
私の言葉聞くとエンは何故かしゅんとしていた。
何かまずいことを言っただろうか。
それとも…エンはここの花が苦手なのか。
だけど記憶の中ではそんな素振りなんてない。
エンはちらり、と私を見ると恐る恐るといった様子で口を開いた。
「主は私の毛が癒しだと言って下さいました」
「ですが、そんな花に頼ってしまうほど私では力不足でしたか…?」
想像とは全く違う言葉に今度は私がきょとんとする番だった。
確かに記憶の中でもエンに対して何度か癒しだと言っていた。
そして今朝、私も同じことを言いながらエンの毛に顔を埋めた。
「違うよ、エンもこの花達も私には大切で癒しなの」
エンを宥めるように頭を撫でる。
垂れた耳がピン、と立ち上がり尻尾がぶんぶんと左右に揺れる。
「大切…主にとって私は大切なのですね!」
「(単純…)」
なんて、言葉には出さず頷くと嬉しそうにまた抱き着いてきた。
だけどさっきよりも勢いが良かったものでエンごと後ろに倒れた。
その衝撃で私は右手首を無事捻ってしまい、昼をすぎても痛みは治まることを知らなかった。




