~ 私の前世 ~
ー働いて働いて寝て、また働く。
私の社会人生活はそう続いていた。
出社してパソコンに文字を打ち込んで残業をして終電で帰る。
家には寝に帰るようなものだった。
「前野、これ頼んでいいか?」
「はい、任せて下さい!」
頼まれた仕事を手に抱えてデスクに向かう。
憧れの会社で働けてすごく幸せで、こんな生活がずっと続くんだと思っていた。
だけど人生はそう甘くなかった。
「(早く電車来ないかな…)」
いつも通りの時間に退社していつも通りの時間の電車に乗る…予定だった。
ホームで電車を待っていてそろそろ来るというアナウンスが鳴る。
「ぇ…?」
その瞬間、後ろから誰かに背中を押された。
私はレールの上に落ちて逃げる時間も考える時間もなく迫り来る電車に轢かれて…死んだ。
私ー前野心は29歳という若さでこの世を去った。
⭐︎
「ん…んん…?」
もう二度と開くはずのなかった瞼が開く。
花の良い香りがして意識が浮上してくる。
視界には天蓋が広がっている。
何度か目を開閉するが、景色は変わらない。
体を起こすと見慣れない景色が広がっていた。
豪華なタンスやクローゼット、キラキラな装飾品。
まるでヨーロッパの貴族の部屋にでもいるような感覚になる。
「わ、私…死んだはずじゃ…」
確かにさっき電車に轢かれて死んだはずだ。
今もあの衝撃を覚えている。
ふと真っ白な毛が視界に入った。
その毛を掴むと自分の頭に繋がっていた。
引っ張ると頭が少し痛む。
私はベットから降りて部屋を見回し、見たこともないほど煌びやかな全身鏡を見付ける。
恐る恐る前に立つと真っ白なふわふわとした髪の毛と宝石のようなアイスグリーンの瞳、血色感のある若々しい肌の少女が写っていた。
「誰この美少女っ…!?」
私が頬に触れると少女も頬に触れる。
信じ難いが、この少女は私…ということなのだろう。
あまりの可愛さに凝視してしまう。
「これ異世界転生ってやつだよね…?」
小説や漫画でよくある展開だ。
まさか私が転生してしまうとは思ってもみなかったけど。
私は窓を見付けて開けてみると予想通りだが、見たことのない景色があった。
外を歩く人達は日本とは全く違う服装をしていた。
「(今頃、私の死体は焼かれてるのかな)」
不思議と悲しさは感じなかった。
私の背中を押した犯人には腹が立って仕方ないが、今はこの状況にわくわくとしていた。
部屋を見た感じ、庶民ではないのは確定だろう。
貴族の中でも上の方な気がする。
こういうのに詳しくないが、流石に何となく分かる。
「けど…私、作法とか全然知らないからなー…」
はぁ、と溜息が漏れる。
前世は日本で働く普通のOLだったわけだし。
そういう貴族の作法とか習う機会なんてあるわけがない。
どうしたものかと頭を悩ませていると部屋の扉をノックされた。
「お嬢様、おはようございます」
返事をすると扉が開き、そばかすが特徴的なメイドさんが入ってきた。
椅子に座るよう促され、座るとにこにこと愛らしい笑みを浮かべながら私の髪を高そうな櫛で梳かす。
鏡越しにそれを見ているとふと大事なことに気が付いた。
「(そういえば、私の名前って…)」
流石に前世の名前なはずがないし、ここは外国だろうからカタカナ表記されるだろう。
頭を悩ませているとふと頭の中に映像が流れた。
誰かの記憶のような気がするそれには母らしき存在に抱かれているシーンや人形で遊んでるシーンなどたくさん流れてくる。
その中でも最近のものだろう記憶には学校…らしいところで周りから悪口を言われているシーンだ。少しして終わったのかもう流れてこなくなった。
「(これ、この子の今までの記憶…?)」
何だか昔の自分と重なって目頭が暑くなる。
悪口を言われても何も言わない。
嫌味を言われても何も言わない。
感情を自分の中に抑え込んで必死に平静を装う。
この子はきっと自分を押し殺して周りの迷惑にならないよう生きてきたんだろう。
そう思うと自分がされた訳ではないのに少し腹が立つ。
胸がモヤモヤする。
「(…私、あなたの分まで頑張るから)」
自己満足でしかないが、心の中でこの子に向かってそう呟く。
絶対に学校の人達をこの子の代わりに見返してみせる。
そう強く誓った。
後に世界を救った英雄として称えられることを今の私は知る由もなかったー
初めまして、睡眠依存性と申します!大事に書いていくので、次も読んでもらえたら嬉しいです!!




