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第十三章

 百鬼夜行


 夜が、裂けた。


 音は、

 後から来る。


 最初に変わったのは、

 空気だった。


 重さが、

 ずれる。


 都の輪郭が、

 わずかに、

 歪む。


 私は、

 立ったまま、

 動けずにいた。


 恐怖で、

 身体が固まったわけじゃない。


 判断が、

 追いつかなかった。


 夜が、

 主語になってしまった。


 灯が、

 一斉に、

 揺れる。


 消えない。

 けれど、

 意味を失う。


 都の中心で、

 光が立ち上がる。


 白でも、

 朱でもない。


 澄み切った、

 秩序の色。


 私は、

 もう、

 それを見ても、

 驚かなかった。


 ――四神。


 安倍晴明は、

 そこにいる。


 都の内側が、

 ひとつの意志で、

 閉じていく。


 守るための、

 力。


 正史が、

 この瞬間を、

 待っていたかのようだった。


 一方で、

 都の縁。


 闇が、

 増える。


 いや、

 闇が現れたのではない。


 ずっと、

 そこにあったものが、

 形を取った。


 歪み。

 声にならなかったもの。

 引き受けられなかった感情。


 私は、

 息を吸う。


 都は、

 自分の外側を、

 思い出してしまった。


 道満は、

 その中に、

 立っていた。


 孤立しているわけじゃない。


 影が、

 集まっている。


 命じられるのを、

 待っている。


 彼は、

 空を見ない。


 地面を、

 見ている。


 足元から、

 立ち上がるものを、

 正確に、

 把握している。


 百鬼夜行は、

 進軍じゃない。


 行進でもない。


 噴き出しだ。


 溜め込まれたものが、

 一斉に、

 姿を持つ。


 悲鳴が、

 混じる。


 人の声じゃない。


 それでも、

 感情だけは、

 はっきりしている。


 怒り。

 恨み。

 諦め。


 私は、

 後ずさる。


 足が、

 石に当たる。


 倒れそうになる、その瞬間――

 光が、

 走った。


 朱。


 空から、

 落ちる光。


 裁定の色。


 朱雀。


 都の内側が、

 完全に、

 守られる。


 結界が、

 閉じる。


 外からのものは、

 入れない。


 それは、

 正しい。


 誰も、

 責められない。


 だからこそ――

 外は、

 切り捨てられる。


 道満が、

 一歩、

 踏み出す。


 叫ばない。

 祈らない。


 ただ、

 命じる。


 影が、

 影を包む。


 喰らうのではない。

 壊すのでもない。


 引き受ける。


 百鬼夜行は、

 暴れる夜じゃない。


 回収される夜だ。


 私は、

 その光景を、

 ただ、

 見ていた。


 何も、

 できない。


 止められない。


 止める理由も、

 持てない。


 都の内側では、

 人々が、

 眠っている。


 夢も、

 穏やかなまま。


 正史は、

 この夜を、

 「鎮圧」と書くだろう。


 誰が、

 何を引き受けたかは、

 書かれない。


 朱い光が、

 集束する。


 百鬼夜行は、

 終わりを迎える。


 音が、

 元に戻る。


 風が、

 再び、

 流れ出す。


 夜は、

 何事もなかったかのように、

 整えられていく。


 私は、

 その場に立ち尽くす。


 もう、

 観測者ではいられない。


 この夜を、

 知ってしまった以上。


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