さわやかな味のサマークリーム
もくもくと入道雲が広がってきた夕方。
遊びに行っていたゆかちゃんが、元気に帰ってきました。
「ママ、ただいまー!」
「おかえりなさい。さなちゃんの家、どうだった?」
さなちゃんは、先日の席替えで仲良くなったお友達です。
夏休み初日の今日、早速そのさなちゃんの家へ送り出していたので、お母さんとしては、なるべく詳しい様子を知りたいのでした。
「うん、おいしかったよ!」
お母さんは少し困ってしまいます。
童話に出てくるお菓子の家でもあるまいし、家が美味しかったとはどういう意味でしょう?
いやお母さんにしてみれば、さなちゃんの家そのものについて聞きたいわけではなく、そこで過ごして楽しかったとか面白かったとか、そういう答えを期待したのですが……。
「おやつでね、クラッカーが出たの。白いクリームをたっぷり乗せてね、そのクリームがおいしかったの!」
なるほど、さなちゃんの家でいただいたおやつ。その感想だったようです。
でも、白いクリームとは生クリームでしょうか? 砂糖はどれくらい入っていたのでしょう?
虫歯やカロリーなど、お母さんは少し気になってしまいます。
「あら、それは良かったわね。そのクリームって、どんな感じだった?」
「さわやかな味!」
おやおや、これも珍しい言い方です。「甘い」とか「しょっぱい」みたいな具体的な表現でなく、味に対して「さわやかな」とは……。
ゆかちゃんの語彙力、いつのまに上達したのでしょうか?
お母さんの頭に、そんな疑問が浮かびましたが、
「……って箱に書いてあったよ。さなちゃんのママが出してきた時、ゆか、ちゃんと見たんだから!」
と続けるゆかちゃん。
どうやら商品パッケージに書かれた謳い文句を、そのまま覚えてきたようです。
「『サマークリーム』って名前でね、お菓子みたいじゃなくて、お昼ごはんに出てきそうな味だったの。でもおいしかったから、ゆか、とっても満足だったの!」
「へえ、サマークリーム……。今の時期にはピッタリね」
そんな名称ならば、夏季限定の商品でしょうか?
いずれにせよ、甘い甘いクリームとは違うようですし、薄味なのに子供の口にも合うのであれば、うちでも買ってみてもいいかもしれません。
お母さんは、ゆかちゃんに対して笑顔で頷きながら、そんなことを考えていました。
――――――――――――
翌日。
お母さんとゆかちゃんは、近所のスーパーまで買い物に出かけました。
乳製品のコーナーに通りかかったところで、お母さんと繋いでいた手を、ゆかちゃんが引っ張ります。同時に、反対側の手で指さしました。
「ママ、あれ! サマークリームがあるよ」
ゆかちゃんが示す方に視線を向けると……。
そこに並べられていたのは、青い箱の商品。上の方に「さわやかな酸味」と書かれているのも目に入りました。
ゆかちゃんは、まだ『酸』という漢字を知らないため、そこだけ読み飛ばして「さわやかな味」と読んでいたようです。
「ああ、なるほど……」
納得の声が、お母さんの口から漏れます。
この「さわやかな味」の件だけではありません。もうひとつ、理解できたことがあったのです。
それは、箱の中央に刻まれた7文字のカタカナ。白くて太めの字体で、目立っています。でも、ちょうど背景に描かれているクリームのイラスト、それと少し重なってしまい、2文字目の『ワ』が『マ』みたいにも見えるようでした。
「……『サマークリーム』じゃなくて『サワークリーム』だったのね」
こうして、ゆかちゃんの家でも、よくサワークリームが使われるようになりました。
ただし、しばらくの間は「サマークリーム」呼びのままで。
(「さわやかな味のサマークリーム」完)




