表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

【短編】現代ドラマ短編シリーズ

さわやかな味のサマークリーム

作者: 烏川 ハル

   

 もくもくと入道雲が広がってきた夕方。

 遊びに行っていたゆかちゃんが、元気に帰ってきました。

「ママ、ただいまー!」


「おかえりなさい。さなちゃんの家、どうだった?」

 さなちゃんは、先日の席替えで仲良くなったお友達です。

 夏休み初日の今日、早速そのさなちゃんの家へ送り出していたので、お母さんとしては、なるべく詳しい様子を知りたいのでした。

「うん、おいしかったよ!」


 お母さんは少し困ってしまいます。

 童話に出てくるお菓子の家でもあるまいし、家が美味しかったとはどういう意味でしょう?

 いやお母さんにしてみれば、さなちゃんの家そのものについて聞きたいわけではなく、そこで過ごして楽しかったとか面白かったとか、そういう答えを期待したのですが……。

「おやつでね、クラッカーが出たの。白いクリームをたっぷり乗せてね、そのクリームがおいしかったの!」


 なるほど、さなちゃんの家でいただいたおやつ。その感想だったようです。

 でも、白いクリームとは生クリームでしょうか? 砂糖はどれくらい入っていたのでしょう?

 虫歯やカロリーなど、お母さんは少し気になってしまいます。

「あら、それは良かったわね。そのクリームって、どんな感じだった?」

「さわやかな味!」


 おやおや、これも珍しい言い方です。「甘い」とか「しょっぱい」みたいな具体的な表現でなく、味に対して「さわやかな」とは……。

 ゆかちゃんの語彙力、いつのまに上達したのでしょうか?

 お母さんの頭に、そんな疑問が浮かびましたが、

「……って箱に書いてあったよ。さなちゃんのママが出してきた時、ゆか、ちゃんと見たんだから!」

 と続けるゆかちゃん。

 どうやら商品パッケージに書かれた謳い文句を、そのまま覚えてきたようです。


「『サマークリーム』って名前でね、お菓子みたいじゃなくて、お昼ごはんに出てきそうな味だったの。でもおいしかったから、ゆか、とっても満足だったの!」

「へえ、サマークリーム……。今の時期にはピッタリね」

 そんな名称ならば、夏季限定の商品でしょうか?

 いずれにせよ、甘い甘いクリームとは違うようですし、薄味なのに子供の口にも合うのであれば、うちでも買ってみてもいいかもしれません。

 お母さんは、ゆかちゃんに対して笑顔で頷きながら、そんなことを考えていました。

   

――――――――――――

   

 翌日。

 お母さんとゆかちゃんは、近所のスーパーまで買い物に出かけました。


 乳製品のコーナーに通りかかったところで、お母さんと繋いでいた手を、ゆかちゃんが引っ張ります。同時に、反対側の手で指さしました。

「ママ、あれ! サマークリームがあるよ」


 ゆかちゃんが示す方に視線を向けると……。

 そこに並べられていたのは、青い箱の商品。上の方に「さわやかな酸味」と書かれているのも目に入りました。

 ゆかちゃんは、まだ『酸』という漢字を知らないため、そこだけ読み飛ばして「さわやかな味」と読んでいたようです。


「ああ、なるほど……」

 納得の声が、お母さんの口から漏れます。

 この「さわやかな味」の件だけではありません。もうひとつ、理解できたことがあったのです。

 それは、箱の中央に刻まれた7文字のカタカナ。白くて太めの字体で、目立っています。でも、ちょうど背景に描かれているクリームのイラスト、それと少し重なってしまい、2文字目の『ワ』が『マ』みたいにも見えるようでした。

「……『サマークリーム』じゃなくて『サワークリーム』だったのね」


 こうして、ゆかちゃんの家でも、よくサワークリームが使われるようになりました。

 ただし、しばらくの間は「サマークリーム」呼びのままで。




(「さわやかな味のサマークリーム」完)

   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ