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時の砂に眠る声―考古学少女の記憶譚―  作者: tomsugar


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9/20

禁じられた祠、封じられた影

―立ち入りを禁じられた記憶―


夏休み初日の朝。

郷土資料館の静かなロビーを抜けると、美和が会議室を取ってあると案内してくれた。

中には、整然と並べられた大量の資料。錫杖の復元に関する図面や、古代の地図、そして真志袮の祠――禁則地とされたその場所に関する記録も含まれていた。

そこは、記録にも記憶にも触れてはならないとされた場所。

だが、夢はその奥へと彼女らをいざなう――。


「さてさて、あなたたち、明日から夏休みでしょ?」

錫華寺の山門を出たところで、美和がくるりと振り返りながら声をかけてきた。

「というわけで、明日から《真志袮の祠の謎調査委員会》を始動します! 手がかりになりそうな資料はなんでも持って、朝9時に郷土資料館のエントランス集合ね!」

一方的にそう言い残し、美和は駐車場の方へ軽快に走り去っていった。

先ほど客間にいた年配の男性は、美和と久賀の上司にあたる学芸員、中村なかむら 敏夫としおさんというらしい。


「自由研究のテーマ、もう決まりやな。『真志袮の祠――考古学的考察』ってとこやね」


由里が、やれやれといった表情で肩をすくめる。効率第一の彼女らしいコメントだ。

もし遥がひとりだったら、夏休みの自由研究をこんなふうに結びつける発想など思いもせず、八月の終わりになってから焦っていたに違いない。


―――――――――――


時は少しさかのぼる。寺の客室にて。

住職の指示で、若い僧が錫華寺の宝物のひとつ、錫杖を運んできた。今回は杖の部分も付いた、完全な姿だ。


「こちらの杖は、文献に基づいて当時の長さや形を再現したレプリカですが、錫杖頭は本物です。文献を元に、おそらくこういう形だったろうということで、中村さんらの協力でここまで再現されました」


「遥さん、よろしければ持ってみられますか?」


「……はい!」


遥は両手で長い杖をそっと持ち上げる。音を鳴らしてもいいと言われ、上下に軽く振ってみた。


「シャリン……シャリン……」


――この音だ。間違いない。

その瞬間、部屋の空気がふわりと変わったような気がした。目には見えない、何かがそこに立ち現れたかのように。


――――――――――


翌日、遥と由里が郷土資料館を訪れると、美和が迎えてくれた。


「今日は会議室を取ってあるの。公共エリアじゃ落ち着かないからね」


そう言って案内されたのは、一般の利用者が入れない一室だった。部屋のテーブルには、資料の束がいくつも並んでいた。おそらく美和と久賀がこれまでに集めたもので、錫杖の復元に関する文献や地元の古墳・禁則地の調査記録などが含まれているようだ。


「久賀くんは今日は別件で来られないの。だから私たちだけで、これまでの状況を整理しましょう」


そう言って、美和はプリントを配布した。そこには、現実に確認されている事実と、遥の夢で見た映像とが、比較するように並べられていた。


―――――――――

《真志袮の祠について》

現実の記録

・現在は錫華寺の管轄地で、一般立ち入りは禁止されている禁則地。

・近くには使われなくなった踏切があり、真志袮の祠から10メートルほど離れた位置にあった。


遥の夢

・踏切で遮断機が下りたとき、亡者の行列(2回目は気配のみ)に遭遇。お兄ちゃん(小川隼人)に助けられる。

・古代、川が存在していた時代。ミズラの女戦士が錫杖を持ち、亡者の行列を率いていた。

・川の氾濫により、その場にいた者全員が飲み込まれた。

―――――――――

《女戦士の服装と考古学的背景》

一般的な学説(久賀)

・古墳時代末期〜飛鳥時代の男性装束に見られるのは、「ミズラ」+「きぬ」と「はかま」。

・「ミズラ」は古代男性特有の髪型とされる。

・女戦士が身に着けていたような鎧の断片的な遺物が、過去に片桐市で見つかったことはない。


遥の夢

・女戦士が「ミズラ」髪型に、「きぬ」「はかま」、さらに鎧を身にまとっていた。

―――――――――

《錫杖の出自について》

現実の伝承

・錫華寺の伝えでは、開祖・慧常えじょうの持ち物とされる。

・錫杖自体は、飛鳥時代に仏教とともに伝来したと考えられている。


遥の夢

・女戦士が錫杖を手にしていた。

・遥が夢の中で見た錫杖は、復元された錫杖と酷似している。

―――――――――

《古代の集落と川跡》

考古学的知見(久賀)

・真志袮古墳群から川を挟んだ西側に、真志袮環濠遺跡が確認されている。

・縄文時代から平安時代後期まで、断続的に人の営みがあった痕跡が見られる。


遥の夢

・小高い丘の上から、川の向こうに柵で囲われた古代の集落を見下ろしていた。

・そこが女戦士の故郷と思われる。

―――――――――

これらの対比を前にして、遥は静かに息をのんだ。夢と現実が、確かに重なっている――その実感が、ひしひしと胸に迫ってきた。

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