遥の夢、祠の残響
ー過去をたどる問いと応えー
遥と由里は、夢で見た光景が本当の出来事だったのかを確かめるため、錫華寺を訪れた。
あまりにも鮮明で具体的だった夢の情景。それが過去の記憶なのか、それともただの幻なのか。
今はただ、あの祠と隼人の姿が示す意味を知りたい――その思いだけが、遥を突き動かしていた。
そのとき、不意に錫杖の音が響いた。――シャリン。
制服姿の女子中学生ふたりが、自転車に乗って錫華寺にやってきた。
息を切らしながら山門をくぐったふたりを迎えたのは、住職ではなく若い僧だった。
「住職がお待ちです。どうぞこちらへ」
案内されて客間に入ると、そこには年配の男性、美和、久賀がすでにいた。
「ああ、今日は来られるような気がしていました。どうぞ、おかけください」
住職は、まるですべてをわかっていたかのように、いつもの穏やかな口調でふたりを迎えた。その言葉の端々には、訪問を当然のように予期していた気配がにじんでいた。
「さて、本日はどのようなご用件で?」
そう問われた遥は、少し戸惑いながら口を開く。
「あの、お話し合いはもう終わったんですか?」
奥に座っていた美和たちが、静かにうなずいたのを見て、遥は意を決したように前に出た。
「えーっと、それなら……昨日見た夢のことと、『真志袮の祠』について、お話しさせてください」
言葉を選びながら、遥は昨夜見た夢の内容を語り始めた。
そして、自分の見た映像や感覚が本当に過去にあった出来事と関係しているのか、確かめるように住職に問いかける。
祠が軍部によって壊されたというようなことが、合ったのか。
隼人が軍人に殴られるような事件があったのか。
祠の前で倒れていたのは隼人なのか。
そして、夢で見た数々の悲劇的な事故は実際にあったのか。
ひとつひとつ言葉を確かめるように問いながら、遥は最後には少し思い詰めたような表情で、質問を終えた。
隣で聞いていた由里は、今日の遥の様子にようやく納得がいったような面持ちで話を聞いていた。
住職は目を閉じたまま、静かに遥の話を聞いていた。
話が終わると、ゆっくりと立ち上がり、テーブルの上に準備してあった古いノートや新聞記事の切り抜き、白黒写真などを持ってきて、遥たちの前に並べた。
「この写真に写っているのは、『真志袮の祠』です。
こちらの新聞記事は、この場所で起きた鉄道事故について、私が集めたものです。
先ほど遥さんが、夢で見られた情景は、実際にそこにおられたのではないかと思うほど、私の記憶と一致しております」
そう前置きしてから、住職はゆっくりと当時の出来事を語り始めた。
「戦時中のある時期、軍部が『真志袮の祠』を撤去しようとしましてね。
当時の錫華寺の住職や町長らが反対いたしましたが、最終的には工事が強行されました。
隼人さんは現場に足を運び、工事の中止を直接申し入れようとされたのですが、軍人に殴られ、大けがを負われたのです。
その場に駆けつけたのが、当時まだ子どもだった私でして……。
そして、先々代の住職が間に入り、何とかその場を収めてくださいました。
その後も事故が繰り返され、心を痛めた隼人さんは、修行僧が身に着ける茶色の袈裟をまとい、祠の跡で鎮めの行を行おうとされました。
けれども、残念ながら力及ばず、その場で倒れられ、一週間ほどで亡くなられました。
当時の住職は『自分の力を過信し、祟りに触れてしまったのだろう』とおっしゃっていましたが、公式な死因としては、結核と記録されております」
「隼人さんひとりじゃなくて、たくさんのお坊さんでやったら、うまくいったんじゃないですか?」
由里は素直な疑問を口にした。
住職は首を横に振った。
「私も、かつては同じように考えていたことがあります。
けれど今では、それは人の手でどうにかできるようなものではなかったと考えています。
あの場所は現在、立ち入りを禁じた禁則地として、寺が管理しています」
――シャリン、シャリン。
突然、部屋に錫杖の鳴る音が響いた。
遥は驚いた様子で周囲を見渡したが、音の出どころはわからなかった。
「遥、どうしたん?また何か聞こえたん?」
由里が小声で尋ねる。
「錫杖の音が……」
遥はうなずきながら、そう答えた。
「錫杖……」
住職は少し考えるように間を置き、若い僧に錫杖を持ってくるよう指示を出した。




